薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

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第三章

瑞葵の事情(2)

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 保津巳が高校2年の時、父親である烏丸保高は友人から頼まれてある身寄りのいない老人の資産管理を任されていた。『息子の子供が見つかった』と当主より連絡が有り、当主が『遺産を孫に譲る』と言いその手続きを受け持った。その後当主が亡くなり、遺言書通り孫が遺産を受け取り父親は役目を終えると思われた。が、その孫が偽者で本物の孫だと言う者が現れて保高は訴えられた。彼は『当主主導での遺言状作成だ』と言ったが、偽者が捕まり『烏丸弁護士の主導で当主に会った』と証言した『自分は烏丸弁護士に言われるままに詐欺の片棒を担いだだけだ』と告発された。
 父親は、それまでの信頼が地に落ちた。元々慎重な人なのに父親の友人が父親を騙すために仕組み父親に責任を擦りつけたとしか思えなかった。その友人は仕事でメキシコに行ったまま行方不明になっていた。父親は、被害者に自分の持つ資産を渡して示談にしよと思っていたが、お金を貸す側の調査が終了せず手続きの半ばで相手が行方がわからなくなった。その後に保高が自殺してしまった。その後追い自殺を考えた母親が娘息子を道連れに家に火を放ったとされた。
 しかし、烏丸保津巳は、生きている。その日は父親のことを調べる為に父親の事務所にいたため難を逃れた。家に帰ると身体は裸で顔もわからない程叩かれていた姉と別のところで母親も犯された格好で死んでいた。それを見て瑞葵はその惨状の異常さに違和感を覚えて両親、姉の復讐を誓うその為に身を隠すことを決め、数日後、父親の友人の田阪洋司に連絡を取った。
「洋司さん、保津巳です」
「保津巳か、お前、何処にいるんだ。今から迎えに行く」
「杉本町のホテル街です」
「わかった、その近くにある『霧』と言う古い喫茶店があるそこで待ってろ」
 洋司が迎えに行くと疲れ果てた保津巳がいた。
「家が焼けて3人の遺体があった。報道ではお前たち3人の無理心中となっている」
「どうしてお前が助かったんだ」
「あの日、お母様はお父様の事を受け入れられずに、葬儀の後自宅に戻ってからずーっと泣いていた。姉さんは婚約破棄されたのに妙に元気で明るく繕っていた。僕は姉さんの無理した笑顔もお母様の嘆きも葬儀を終えた後二日間も付き合うと自分自身が気が狂いそうだった。
 だから、こっそりと家を出て父親の事務所に行った。大したものはないと思っていたが、お父様の遺品でも有ればお母様を励ませることもできると思ったし、食うためのお金が有ればもう少し美味しい物でも買って食べれるかもしれないと思った。お父様の事務所にはお父様が使っていた執務机しかなかった。お父様の湯呑みもえんぴつ一本も全てなかった。
 唯、親父の引き出しの裏にこれが挟まっていた。これを公表すれば、母様も姉さんも少しでも前を向けるかもしれないと思った。だけど、なんだか隠してあった書類だったからあまり人に見せるものじゃないと考えてコインロッカーに入れて家に帰ったら、母様の啜り泣く声も聞こえないから疲れて眠ったかと思って姉を探したら、リビングで姉は裸で男を1人掴んで死んでいた。びっくりして母様の寝室には居なくて次はお茶室に行くと母様も裸で犯されて死んでいた。悲しさよりも不気味さがあって、すごく冷静になった。そうしたら奥の仏壇の部屋から爆発音がして火が出て勢いがすごくて消化どころではなかった。急に不安がなくなって冷静になり、母親や姉の犯された証拠と写真を撮る事にした。その後に涙でぐしょぐしょになりながら本で読んだ通り母親と姉の膣内の精液を取り出すだけで精一杯だった」
 淡々と話す、保津巳に洋司は不気味さも感じながら聞く。
「お前は冷静にそこまでしたんだ」
「だって俺ミステリー同好会の会長だよ。だから、殺された男の顔と指紋も採取して、写真も携帯に収めた。自分の携帯電話のSIMカードはもう一番目に外した今は、プリペイドのSIMカードを買っている。現金と着替えを自分の部屋から持ち出して一階の勝手口から外に出た。それ以上は何も取り出せなかった」
 いとも簡単に言ってのける。少し笑顔を見せる保津巳は、ただの高校生だった。洋司は彼の父親が保津巳の成績について自慢話をしていたのを思い出した。『この国の最高学府にさえ合格可能だが、狼の巣の中に入れることができない。Ωなのが1番惜しい』
「それで俺に連絡したのは何故だ。お前は俺が好きではなかったはずだ」
「父親の友人で一番の情報と人脈を持っているのは洋司さんだからだよ」
 あっけらかんに言ってのける保津巳を見て、こいつは多分ここ2日の間に泣くだけ泣いていたと思った。だから、これ以上は問い詰めて泣かすことをしてはいけないと気を引き締めた。
「よくやった、そうだ、おまえの親父さんの友人で一番胡散臭いのが俺だ」
「今、俺だと言われている男がいてもDNAを調べれば俺じゃないとわかるだろうからどうすれば良いのかわからない、誰を信じて良いのかもわからない。ずーっと身を隠すために手を貸して欲しい」
「うーん、見返りは?」
「そうだねこの身体しかないよそれを使うしかない」
「先ずはお前が生きている事を警察に依頼しよう。そしてその資料を精査させたら良いのではないだろうか?」
 洋司は大人のまともな意見を伝えるが、保津巳は首を横に振る。
「死んだ男のDNAを調べもしない警察を信じろと言うなら洋司さんともお別れする。俺の生死を不明にしておきたいし、この資料は俺が管理する」
 保津巳はあっさりと席を立とうとする。洋司は保津巳腕を掴んで座らせて彼の目を正面から見つめて彼の本心を探る。ここで負けるわけにはいかないと思う保津巳は洋司の目を睨みすごんで見せた。
「それじゃ、お前は自分で親父さんの事件迄解くのか?」
「うん、だから今俺となっている死体を俺じゃないと証言して欲しい。それをもみ消されても記録は残らずとも記憶に残るから。『母様と喧嘩して家出したって電話が来たがその途中に争う声がして切れてしまった』とでも言ってもらうと嬉しい。それを使って烏丸家の遺産を10年凍結して欲しい。その間俺遊郭にでも隠れられない?それと洋司さんの情報網を貸して欲しい」
 保津巳は洋司に囲われたくない。彼ならひっそりと暮らしていけるように手配をすぐに整える。それでは保津巳は一生そこで怯えて暮らすことになる。母親や姉のようになってはいけないと気を振るい立てた。
「お前は身体を売って情報を得てそして、身を隠したいんだ」
「できれば『藤ノ井』で松の位になりたい」
「なーるほど、大きく出たな」
「あそこなら裏の情報も集められる。洋司さんつてはあるでしょ」
「あるちゃあるな、俺の弟子たち」
「やっぱり、父親の資料を整理してもっと集めて今世紀最大のミステリー小説を描くよ」
「それにも俺を使うんだろ」
「正解、ピッポーン」
 洋司は保津巳の強かさに笑いが出た。こいつは大物になるだろう、親父の事もしっかり解き明かすだろうと思ったら嬉しくなった。洋司の笑った顔を見て保津巳は一仕事を終えたと思った。
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