薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

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第三章

紅玉と貴文の出会い

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 2日後貴文は友人達と夕食後に『藤ノ井』に到着した。
「ようこそおいでくださいました」
 村雨が挨拶をする。
「お久しぶりです、村雨にいさん」
 貴文は、慣れた口ぶりで挨拶する。
「ほぉ、おかえり、こうして全員が揃うと悪ガキらもそれぞれ大人になって立派に見える」
 友人達もニヤニヤして笑いを押し殺している。彼らもまだ地位的にはお座敷には上司に連れられて登るぐらいで個人的にはラウンジで軽く遊ぶ方を好む。
 貴文と今日の友人達とは高校の頃から良くラウンジで遊んでふざけ過ぎて村雨に怒られていた。なにせ全員村雨に頭に拳骨を喰らわされた仲間達だった。
「お二階の部屋をご用意しております。どうぞお上がりください」                                              
 村雨は、それぞれに社会人として色々なポジションで頑張っている青年達を眩しく見て二階の格上の部屋に案内した。しばらくして茜凛が、新人の遊女を2人引き連れて部屋に入って挨拶をする。
「おかえりなさいませ、旦那様方」
「ただいま、茜凛、久しぶりだな、すっかり色っぽいなぁ」
「貴文さん、アメリカから無事に戻ってきたんだ。おかえりなさい、元気そうでなによりございます」
「ありがとう、茜凛も元気そうで嬉しいよ」
「皆様方もお久しぶりですね。このように並ばれると皆さんそれぞれ貫禄が出てきましたね。そろそろお一人でお座敷にお越しくださいね」
「茜凛、君は本当に営業が上手いね。だけど、もうひとりの美人、紅玉は? お願いしていたんだ」
 と友人のひとりが尋ねると
「紅玉は、人気なんですよ。私ひとりでは不足なんですか?」
「俺は、茜凛で十分だけど、久しぶりに帰国した奴を驚かせるには、紅玉はアメリカでも中々会えない美人だから」
「大丈夫、今茨棘さんのお座敷の助っ人に行っているからそのうちこちらに顔を見せます。その間今年のニューフェイスを見てあげて欲しい。手垢がつく前にいかがでしょう」
 茜凛は、残念がっている友人達にニューフェイスを紹介していくと満更ではない顔で鼻の下を伸ばし始めた。貴文が、始めようと一言
「『藤ノ井』は相変わらず遊女の質が高い、商売繁盛だね、茜凛」
「はい、これからも『藤ノ井』をよろしくお願いします」
 茜凛も少し息を吐く。祝宴はすすみだした。本当は、紅玉はここでの接待が入っていたが、茨棘のお客様が、我が儘を言って酌をねだった。そんなことはたまにある程度だが、相手が中々返さない。茨棘も贔屓であるお客様の商談相手のご要望なので強く出られない。それを見越しての横暴である。
 祝宴が始まり30分程が立つ頃、外が少し騒がしくなった、茜凛が少し眉を顰めた。
 外から、他の遊女が部屋に入ってきて、茜凛に耳打ちする。今日は瑞葵が、外でのお座敷に呼ばれて不在だ。
「茨棘さんのお座敷で村雨にいさんにお客様が暴力を振るった。支配人が、今外に出ているからどうしたらいいか」
 茜凛は遊女に少しここを任せて中座を願う。
 茜凛が外に出ると、貴文も出てきた。
「支配人は?」
「外に」
「俺は、今何のしがらみがないから出て行ってやる」
「そんな、久乃先生に」
「大丈夫だ」
 貴文は、茜凛を後ろに下がらしてジャケットを脱いでそれを茜凛に預け、茨棘の部屋へ入る。
「おやめください、村雨にいさん大丈夫?」
 中では遊女がひとり男の横で顔を背け、村雨はもうひとりの客から腕を掴まれていた。茨棘は紅玉の横で客を制している。貴文がカオスのような部屋に静かな威嚇を纏って声を荒立てず割って入って行く。
「こんばんは? お客様飲み過ぎですよ。ここは遊郭、遊女は身を売る仕事ですが、そこら村中で盛るのは無粋と言うものです。粋に遊べないならそれなりの妓楼に行けばいいですよ。ここは南川遊郭でも最高級な妓楼『藤ノ井』でございます。それなりの決まりごとがあります。茨棘、その遊女と村雨を外に出せ」
 茨棘は、紅玉と村雨を庇いながら外に出る。それを見て、貴文は部屋の戸を閉めた。
「お前は何者だ。遊女を犯して何が悪い、あいつらはセックスが好きで好きでたまらないΩなんだからαのグェ~、あぁ~……」
 貴文はαの威嚇を相手に浴びせる。アメリカのαは決めた人間に威嚇をかけれなと一人前だと言われない。アメリカに住めばαはそれができるようになる。長年住んでいた彼にとって赤子を捻るようなものだった。
「どうしました? どんな遊びにもルールがある。と、申しました。それを破って楽しいか馬鹿野郎が、ルールがあるから妓楼遊びは面白いんだ」
 貴文が、出て行こうとすると、男は立ち上がり殴りかかったが、もう一度貴文の威圧を膝に受けて跪く。そして、貴文と入れ違いに支配人が下僕を連れて中に入り男達を外に連れて出る。
「貴文さん、少し威嚇出過ぎですよ」
 支配人は、貴文の肩を掴む。
「ここはアメリカじゃなかったなぁ、アメリカではこのぐらい普通なのですみません」
 そうして茜凛の肩を抱いて祝宴に戻って行った。貴文も友人達はこの国での立場があるからと思い、矢面に立った。『相変わらず、この国のαは碌なものじゃない』とつくづく思った。
 祝宴の終わりに、噂の紅玉が部屋に来て今日のお詫びを告げた。友人達は各々に身体は大丈夫かと聞く。紅玉は笑顔で酌をしていく。
 貴文の前に来て、
「今日は、本当にありがとうございました。茨棘のご贔屓様のお顔を潰したくなかったので手が出なかったので、助けていただいて感謝致します」
 その時貴文と紅玉は少し見つめ合うが、2人は何故か目を逸らしてしまう。茜凛は少し驚いた。紅玉が目を逸らすのを見たことがなかった。
「身体が、資本だから気をつけて」
 祝宴はお開きとなった。
 次の日、貴文は久乃から威嚇を使ったことに大目玉をくらい、罰として本院のERで働く事になった。貴文は、あの時の紅玉の匂いが、咲山紅の匂いに似ていると思った。あの部屋にいたαの匂いが彼の香しい匂いの邪魔してしっかり嗅げなかったことを悔やんだ。
 良弥は、貴文を『藤ノ井』とは違う料亭に呼んだ。
「この前は助かった」
 良弥が貴文に酒を進めながら謝った。貴文は、いやいやと首を横に振り、注がれた酒を飲む。
「あれは何?」
 貴文は早速切り返した。
「茨棘の贔屓であるお客様の商談相手だから、茨棘は、お客様のご要望を受ける予定だったが、紅玉をラウンジで見て呼び出せと贔屓に言ってごねたようだ。紅玉はお前たちの宴会までの間ならと言う約束だった。接待もお酌をするだけでと支配人からも言われたのに中々返さないから村雨が入って挨拶をしたら村雨を殴ったらしい、あの時間支配人は、大門の詰め所に呼び出されていた。ちょっとした隙間だった」
 良弥が、事の次第をさらっと言う。貴文は、言葉の外にある意図を考えて良弥の盃に酒を注ぐ。
「『藤ノ井』狙われているの?」
「そうかもしれない、この国の遊郭の中で、『藤ノ井』はトップクラスだ。遊女も食事も酒も花代もだ。それに、茨棘の母親の事があって以来25歳での清算で、格下遊女に堕ちる遊女は出ていない。しっかりお金も遊女も管理している。その上そこそこのステイタスの旦那衆が付いているので、結構見受け後も良い人とご縁を持って見受けされる。その噂で、遊女の成り手は他の妓楼より多いし、特にαの孫が欲しい財界人も触手を伸ばす傾向がある。
 となれば、一攫千金を狙いΩも集まる。あばずれのΩはいないと言うか村雨の躾は半端なく厳しい。入れば箸の上げ下げから言葉使い、世間の情勢までありとあらゆることを叩き込まれる。途中で辞めて行く者もいるが、そこを超えて遊女として立てば一流のお客様に可愛がってもらえる」
 良弥が、『藤ノ井』の事を持ち上げる
「アメリカではαの出生率はそんなに変化はないが、この国やアジアの一部は減少傾向がある」
「Ωは、愛し愛されないとαを産まないのかもしれない。愛されているΩは、見受け後にαを孕っている。鮫島大先生の談だが」
「そんなことで、『藤ノ井』を狙うのか?」
 貴文は、良弥の顔を見つめて本心を探る。
「南川さんが病気になって『藤ノ井』を高級コールガールにしようと考えている奴がいると言うきな臭い動きがある」
 騙されないかと思いながら、真実を話す。
「それなら腑に落ちる。アメリカでも問題に成りつつある」
「お前は、もう顔を出しているから気をつけて欲しい。あいつらまともじゃない」
「もしかして、祖母が俺を怒ったのは、俺を外に出さないため?」
「久乃先生は情報通だから、言う事を聞いて静かにしていて欲しい」
 良弥からも釘を刺されて、貴文は素直に話を聞いておくことにした。
「何かあれば教えて、手伝えることを」
「その時は是非頼む」
 良弥は、貴文と遅くまで飲んだが、貴文は紅玉のことを良弥に聞き出せなかった。
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