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第四章
茨棘の選択
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瑞葵の清算は、その日のうちに遊郭だけでなく、巷でも話題になって、人々の関心は次代の松の位は誰だろうかと噂は、広まり杉本町にひとり部屋で篭もってくる将克も噂を耳にしていた。
瑞葵の精算が決まって一週間した後に『藤ノ井』では、ピリピリした緊張感が、漂っていた。
茨棘が『藤ノ井』に戻ってきたからだ。彼は瑞葵の起こした一連の騒動のとばっちりを受けて体調を崩して、雑音の多い『藤ノ井』から外に療養していた。もしかして茨棘も清算するのではないかと言う無責任な話が出ていた。
茨棘は楼主の外の自宅から久しぶりに『藤ノ井』に帰って来た。楼主は茨棘が自宅にいる間は、本業の会社近くの短期賃貸マンションで過ごしていた。その為に茨棘とは彼を自宅に連れて行った時と三峰先生がフランスから来られた時と引越しする前に、三回だけ会ったきりだった。三回目からもう1週間も会っていない。匂いはするが本人はいない家に放置されて寂しく思っていた。
久しぶりに『藤ノ井』で会ったからと言って2人の間には甘い言葉は何もない。茨棘は『藤ノ井』を仕事場と思っていて馴れ馴れしくはしないと決めていた。良弥は茨棘の意地に合わせるだけだった。
2人久しぶりに顔を合わせてもお互いに視線を合わせずに空を見つめるだけだ。いつも同じでそっけない挨拶から始まる。
「おはようございます、楼主」
茨棘は頭を下げて話し出した。
「おはよう、茨棘、身体はどうだ」
「はい、万全とは言い切れませんが、体調は上向きです」
あまりの事務的な会話の2人に支配人は、横で苦笑しながら見ていた。良弥の友人それじゃこれからのことを決めたいんだが、良いであろうか」
「はい」
「支配人、村雨に茜凛と紅玉を連れて来るように伝えてくれるか」
支配人は首肯して事務室を出ていく。そして、村雨以下3人が、部屋に入ってくる。紅玉も茜凛も緊張していた。
「それじゃ、これからの『藤ノ井』の遊女の位だが、年功序列でいけば、茨棘が松、紅玉が竹、茜凛が梅となる。私としてはそれでも良いと思っているが、本人達の意見を聞いておきたい」
「楼主、私、茨棘は御職の席を降りたいと思っています。身体は少しずつでもマシにはなると思いますが、御職とのまぐわう事を楽しみにこられる方のご要望にお応えしできないと思うのです」
「「そんな、茨棘にいさん」」
紅玉と茜凛が、楼主の前にも関わらず声を上げる。村雨が2人を睨み黙らせる。
「茨棘は、御職をまぐわう事だけの仕事だと思っていたのか? それだけを求める人も多いかもしれないが、お前の才能を愛でてくれる方までもお前は否定するのか」
良弥は、茨棘の心の内を良く知っている。茨棘を彼が此処に来た時から見つめているのだから、彼のプライドというより後進への遠慮があるのだろう。茨棘らしいとその可愛さに頬が緩みそうになる。
「そっ、そんなことはありません」
「私が思う『藤ノ井』の遊女は、身体を売ることをなしでは務まらない。それは事実だが、此処に来られる方々に疑似恋愛することを通して癒やしてその上で身体をまぐわう事が成立するのだと思っている。お年を召して気力が無くなってもここで若いΩと出会って気力を保つようになられた方々を知っている。奥様との会話がなくなってしまった方がここの遊女との話をすることで再び話し合い仲良くされている方も知っている。ラウンジで歌う遊女の歌声を日々の糧にしている若い人もいる。『藤ノ井』が、これからも続けていくには形態は変われどもお客様への心がけは変えたくない」
良弥は、自分の気持ちだけで茨棘を縛れば借金もとうの昔に支払い囲うことはできた。しかし、このいじっぱりのΩの男は、自分の身体を遊女らしく売って清算したいと願っている。それを叶えてやるのが良弥ができる唯一の相手への気持ちなのだ。だから、策を弄して茨棘を追い詰めて、茨棘が納得できるようなセリフを言わせた。
「それでは、竹の位のままでよろしいのなら御職を務めます。松の位になって気苦労はしたくありません。後2年頑張らせていただきます」
茨棘は、結局良弥に丸め込まれたと思いながら、今日はたくさん彼の顔を見れたことが嬉しくてたまらなかった。
瑞葵の精算が決まって一週間した後に『藤ノ井』では、ピリピリした緊張感が、漂っていた。
茨棘が『藤ノ井』に戻ってきたからだ。彼は瑞葵の起こした一連の騒動のとばっちりを受けて体調を崩して、雑音の多い『藤ノ井』から外に療養していた。もしかして茨棘も清算するのではないかと言う無責任な話が出ていた。
茨棘は楼主の外の自宅から久しぶりに『藤ノ井』に帰って来た。楼主は茨棘が自宅にいる間は、本業の会社近くの短期賃貸マンションで過ごしていた。その為に茨棘とは彼を自宅に連れて行った時と三峰先生がフランスから来られた時と引越しする前に、三回だけ会ったきりだった。三回目からもう1週間も会っていない。匂いはするが本人はいない家に放置されて寂しく思っていた。
久しぶりに『藤ノ井』で会ったからと言って2人の間には甘い言葉は何もない。茨棘は『藤ノ井』を仕事場と思っていて馴れ馴れしくはしないと決めていた。良弥は茨棘の意地に合わせるだけだった。
2人久しぶりに顔を合わせてもお互いに視線を合わせずに空を見つめるだけだ。いつも同じでそっけない挨拶から始まる。
「おはようございます、楼主」
茨棘は頭を下げて話し出した。
「おはよう、茨棘、身体はどうだ」
「はい、万全とは言い切れませんが、体調は上向きです」
あまりの事務的な会話の2人に支配人は、横で苦笑しながら見ていた。良弥の友人それじゃこれからのことを決めたいんだが、良いであろうか」
「はい」
「支配人、村雨に茜凛と紅玉を連れて来るように伝えてくれるか」
支配人は首肯して事務室を出ていく。そして、村雨以下3人が、部屋に入ってくる。紅玉も茜凛も緊張していた。
「それじゃ、これからの『藤ノ井』の遊女の位だが、年功序列でいけば、茨棘が松、紅玉が竹、茜凛が梅となる。私としてはそれでも良いと思っているが、本人達の意見を聞いておきたい」
「楼主、私、茨棘は御職の席を降りたいと思っています。身体は少しずつでもマシにはなると思いますが、御職とのまぐわう事を楽しみにこられる方のご要望にお応えしできないと思うのです」
「「そんな、茨棘にいさん」」
紅玉と茜凛が、楼主の前にも関わらず声を上げる。村雨が2人を睨み黙らせる。
「茨棘は、御職をまぐわう事だけの仕事だと思っていたのか? それだけを求める人も多いかもしれないが、お前の才能を愛でてくれる方までもお前は否定するのか」
良弥は、茨棘の心の内を良く知っている。茨棘を彼が此処に来た時から見つめているのだから、彼のプライドというより後進への遠慮があるのだろう。茨棘らしいとその可愛さに頬が緩みそうになる。
「そっ、そんなことはありません」
「私が思う『藤ノ井』の遊女は、身体を売ることをなしでは務まらない。それは事実だが、此処に来られる方々に疑似恋愛することを通して癒やしてその上で身体をまぐわう事が成立するのだと思っている。お年を召して気力が無くなってもここで若いΩと出会って気力を保つようになられた方々を知っている。奥様との会話がなくなってしまった方がここの遊女との話をすることで再び話し合い仲良くされている方も知っている。ラウンジで歌う遊女の歌声を日々の糧にしている若い人もいる。『藤ノ井』が、これからも続けていくには形態は変われどもお客様への心がけは変えたくない」
良弥は、自分の気持ちだけで茨棘を縛れば借金もとうの昔に支払い囲うことはできた。しかし、このいじっぱりのΩの男は、自分の身体を遊女らしく売って清算したいと願っている。それを叶えてやるのが良弥ができる唯一の相手への気持ちなのだ。だから、策を弄して茨棘を追い詰めて、茨棘が納得できるようなセリフを言わせた。
「それでは、竹の位のままでよろしいのなら御職を務めます。松の位になって気苦労はしたくありません。後2年頑張らせていただきます」
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