薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

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第四章

紅玉から瑞葵への挨拶

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紅玉は、松の位に決まったことを直接瑞葵に伝えたくて彼が、一時的に住んでいるホテルを訪ねる。
「おはようございます、瑞葵にいさん」
 紅玉は、瑞葵に頭を下げる。瑞葵も笑顔で紅玉を見る。
「おはようございます、紅玉さん、松の位就任おめでとうございます」
「ありがとうございます、瑞葵にいさん程の統率力があるとも思わないですが、頑張らせていただきます」
 紅玉は、少し顔を紅葉させて微笑む。良い笑顔だと瑞葵は思った。
「大丈夫だよ。お前は賢いから今まで通りで良いんだ。松の位って言っても昼のミーティングに楼主から挨拶を受けることと見受けが決まった遊女の見届け人として立ち会うぐらいだよ。特にあれこれと言う仕事はない、村雨にいさんが殆どしてくれるからお願いします、ありがとうございますと村雨にいさんに言っておけば万事終わる」
「そんなで良いのですか?」
「うん」
 2人の頭にはいつもキリキリと微に入り細にかまう村雨の姿を思い大声で笑う。そして急に紅玉は、改まった声で瑞葵に問いかける。
「あのー、前に渡したレイプ事件の調査なんですが、どうなっていますか? 報告書を確認させて頂きました」
「あぁ、アレね。お前は野末病院を訴えるのか?」
「もう、今まで色々あり過ぎてレイプ事件自体が私の中では過去なんです。慰謝料をもらったとしても何の意味があるのかわからないです。だから、Ω保護法を訴えたいんです」
 紅玉は、あの時なら絶対に言わないと思えるようなことを思うようになったのは事実だ。まだ3年しか経っていないが、その3年間が濃密で自分の心の傷跡を探しても見つからない程に忘れさせた。その為にレイプ事件よりΩ保護法の矛盾の方が気になっていた。
「法を訴えたいか? 面白いことを言う」
 瑞葵は、紅玉の意図していることは理解できるが、果たしてそれをどのように訴えるのかわからなかった。
「Ωを保護するなら、ちゃんとした勉強なり就職なりを整備して欲しい。Ωが発情期を安全に迎えられるようにして欲しいです。Ωは奴隷じゃないのに奴隷のように扱って良いわけないと思うです」
 紅玉は、准看護師として働いてもただの雑用だと扱われた。Ωだからだったのか准看護師だったからなのか今でも釈然としない。
「そうか、Ω保護法って言うのに保護されているのはΩではない。下手するとΩ以外の人間たちが保護されてると言うところを糾弾したいと言うんだな」
「はい、レイプ事件後に警察官が面談に来た時に民事訴訟だから積極的には調べられないと言うのにすごくカチンときました」
「お前が、カチンと思うなら俺だったら相手を殴ってたなぁ」
 瑞葵は、笑っていても思考は頭を巡り始める。
「そんな怖いこと言わないでください」
 紅玉は瑞葵の激しさを知った上で笑って見つめる。瑞葵もそれを理解している。
「実は、野末病院はもう閉院してる。あそこは結構脱税や診療報酬の水増し請求をしていたのが原因で客足が途絶えがちになった。その後院長が軽い脳溢血になって閉院してる。跡継ぎの兄、お前をレイプしたやつは、ハワイに放置して、弟は優秀だったようで、離島に派遣医として勤務している」
「あぁ、そうなんですね、慰謝料はもう良いです。それじゃ訴えても債権者に名を連ねるだけですよね」
「そうだな、その方がすっきりとは思うが……。俺も色々調べておく法を訴えるとなれば、結構大変だと思うから準備が必要だから、政治家が必要だなぁ、すぐにとは行かないが良いんだな」
「はい、お願いします。確実に仕留めたいと思っています」
 紅玉は、瑞葵をしっかりと見据えてニーっと笑う。瑞葵は、紅玉のこれまでにない笑顔を見て成長していると感じた。
 その後ランチを食べながら色々な話をした。
 
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