23 / 61
23 すみすみまで丁寧に(1)
しおりを挟む年越し蕎麦や、夕美が作ってきた惣菜などを食べたあと、ソファに座ってくつろいだ。プロジェクターが映し出す、大晦日らしい番組を楽しむ。
「夕美特製のおかず、本当に美味しかったなぁ。たくさん作って大変だったよね?」
千影が申し訳なさそうに夕美の顔を覗き込む。
「ううん、そんなことない。千影さんに食べてもらえると思ったら止まらなくなって、作りすぎちゃったの」
初めて食事に誘われた時は、仕事だからという理由で夕美は一切お金を払っていない。
しかし旅行の時も千影は、夕美に一切お金を出させなかった。見合いの食事も、「自分が食べたい店を選んだ」という理由で、彼は夕美の両親に少しの値段しか伝えていない。しかも、それすら受け取ろうとしなかった。
そんな彼に、どうにかお礼が出来ないものかと考え、揚げ物やサラダ、日持ちのする煮物などを作って持ってきたのだ。
「ありがとう。残りのおかずも、明日には全部食べちゃいそうだ」
「気に入ってくれて良かった」
千影の好物は調査済みだったとはいえ、完璧ではないので心配だったが、喜んでくれてホッとする。
そうして雑談しながら二時間ほど経った頃。お風呂が沸いたお知らせのメロディが流れた。
「さて、と。じゃあ、入ろうか」
「そっ、そうね」
「緊張しすぎ」
千影は夕美の手を取って笑いかけ、一緒に立ち上がらせた。
「必要なものを準備しておいで。先に入って待ってる」
「うん」
夕美は自分の荷物のところへ行き、下着とパジャマ、スキンケアグッズ等を取り出し、バスルームへ向かった。
バスルーム横で服を脱ぎ、髪をひとつにまとめる。洗面所の大きなミラーが、自分の姿を映していた。
(旅行の時はぼんやりした明かりだったから大胆になれたけど、こんなに明るい場所だと自信なくしちゃう。というか、見えすぎじゃない? 当然、バスルームもだよね……?)
すでに千影はバスルームに入っている。機嫌の良さそうな鼻歌まで聞こえてきた。
夕美は深呼吸してから、バスルームの扉に手をかけた。
「お邪魔します……」
体の前をフェイスタオルで隠しながら入る。こちら向きに湯船に浸かる千影と目が合った。
「どうぞ。シャワーはそれを回して。天井から降ってくるやつじゃないほうがいいよね」
「……はい」
想像よりもずっと明るくて焦る。
隠しているとはいえ自分の体も彼の体も丸見えだ。しかも千影の視線は夕美の体に張り付いたままである。
あまりの恥ずかしさに、夕美はシャワーに手を伸ばせず、隅っこでぎこちなく縮こまった。
「夕美ちゃん、そんなふうに壁に張り付いてたら何もできないよ? ていうか、後ろを向いても僕から丸見えなんだけどなぁ」
千影がクスクスと楽しそうに笑っている。
「う……お願い、見ないで」
「わかった。僕が後ろを向くから、安心してシャワー浴びな」
「ほんとにほんとに、見ないでね?」
「ほんとにほんとに、見ないよ」
夕美の口調を真似て笑う声と、湯が跳ねる音が聞こえ、恐る恐る振り向いた。彼は今言った通り、夕美に背を向けて湯船に入っている。
ようやくそこで安心して、フェイスタオルを棚に置き、シャワーを浴びた。ちょうどよい温度にホッと息をつく。
「浴び終えたらこっちにおいで。一緒に浸かろう」
シャワーを止めた夕美に、千影が言った。
「うん。お邪魔します……」
湯船に足先を入れ、そろそろとお湯に浸かる。熱くもなく、ぬるくもなく、こちらもちょうど良い温度だ。じわじわと温かさが体に浸透していく。
「ふう、気持ちいい……」
「じゃあ、そっち向くね」
「えっ、ちょっ、まま、待って」
千影が体勢を変えたので、夕美は両手で胸を隠し、膝を立てて、ここでも縮こまった。
そんな様子の夕美を見て、彼が口を尖らせる。
「どうしてさっきから隠すのさ。そんなに綺麗な体してるんだから、いいじゃない。旅行の時だって……、まぁ、全部じゃないけど僕に見せたよね?」
「明るすぎて恥ずかしいの……!」
「明るくなきゃ、すみずみまで見えないし、洗えないの。ほら、後ろ向いて」
千影が夕美の肩に手を置いて指示を出す。
「う、後ろ?」
「いいから。後ろ向いたら、そのままこっちに来てごらん」
言われるがままに彼に背を向け、しずしずと後ずさった。
夕美の体の両側に彼の脚が見える。ということは、すぐ後ろに彼がいるわけで……。
「これなら恥ずかしくないんじゃない?」
後ろから包み込むように、彼が夕美を抱いた。夕美の背中が彼の胸に当たる。
「十分恥ずかしいよ……」
「恥ずかしがる夕美も可愛いけどね」
ちゅっという音と感触が届いた。千影が夕美のうなじにキスを落としたのだ。同時にビクンと夕美の体が反応する。
「あ、ダメ……」
「少しだけ、触りたい」
うなじや耳にキスを続けながら、彼の手が夕美の胸に伸びる。先端に触れるか触れないかの微妙なさわり方に、夕美の体がゾクゾクと震えた。
「ん……んっ、あ」
「大きくて、綺麗だね、夕美のここ」
言いながら、千影の手が夕美の両胸を優しく包む。そしてそっと数回、やわやわと揉んだ。
「あっ、恥ずかし……、んんっ」
「はい、おしまい。時間かけたらのぼせちゃうからね。洗ってあげる」
「え……」
「どうしたの? もっとしてほしかった?」
「……うん」
違うと否定しようとしたのに、夕美は素直にうなずいてしまった。彼に早く与えられたいという思いに抗えずに。
「……なんだよ、もう……、可愛すぎる」
ため息とともに千影の呟きが届く。
そして、先ほどから腰にあたっている彼のモノが一層大きくなったのを感じた。
36
あなたにおすすめの小説
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
エリート役員は空飛ぶ天使を溺愛したくてたまらない
如月 そら
恋愛
「二度目は偶然だが、三度目は必然だ。三度目がないことを願っているよ」
(三度目はないからっ!)
──そう心で叫んだはずなのに目の前のエリート役員から逃げられない!
「俺と君が出会ったのはつまり必然だ」
倉木莉桜(くらきりお)は大手エアラインで日々奮闘する客室乗務員だ。
ある日、自社の機体を製造している五十里重工の重役がトラブルから莉桜を救ってくれる。
それで彼との関係は終わったと思っていたのに!?
エリート役員からの溺れそうな溺愛に戸惑うばかり。
客室乗務員(CA)倉木莉桜
×
五十里重工(取締役部長)五十里武尊
『空が好き』という共通点を持つ二人の恋の行方は……
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜
みかん桜
恋愛
身長172センチ。
高身長であること以外ごく普通のアラサーOL、佐伯花音。
婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。
「名前からしてもっと可愛らしい人かと……」ってどういうこと?
そんな男、こっちから願い下げ!
——でもだからって、イケメンで仕事もできる副社長……こんなハイスペ男子も求めてないっ!
って思ってたんだけどな。気が付いた時には既に副社長の手の内にいた。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる