不思議な二匹が、水門とマンブルスゾーンの経典を見に行くお話。不思議な文体で書かれています。

武志

文字の大きさ
1 / 1

水門とミケ猫

しおりを挟む
 ミケ猫のバンビーノは言いました。

「やい、何だってお前は、十二階門じゅうにかいもんの流れに水をさすんだ。じき三河みかわのとっつぁんが来て、集合写真を撮りに来るでねぇか」

 ミッチ材木の上であぐらをかいていた、珍鳥ちんちょう(カルガモの一種)は、バンビーノの言い分は大変理解しがたかったのです。

 ドンと天井で音がしました。また小鹿こじかがラインダンスや何かをマネているのでしょう。

 珍鳥ちんちょうは言いました。

「代わりにノロケ羊のピータンが口を聞いてくれるさ。少しまってくれ」

 そう言うと彼は、ガーガー言いながら、右に左によろめきながら飛んでいってしまったのです。

 雷の音がピシャリと鳴りました。

 水門が開いたのです。

 そういう言っている間に、ピータンが入ってきました。

 風がモワッと入ってきました。

 しおのにおいです。

 粉薬こなぐすりをまんべんなくまぜたような、むせかえるようなほこりっぽさでした。

 ピータンは座るやいなや言いました。

「ああ、ひでぇやな。ミンカーチャ共和国のドライソーセージでもつまむかい」

 するとバンビーノはブリブリ怒りだしました。

「ああ、おぬし、失礼な奴だな。深海しんかいの中でもこんなに無礼な奴はいねぇ。さてどうだ、マンブルスゾーンの経典きょうてんに対する覚悟は出来たかね」

 ピータンはバンビーノを、「まあそう言うなや」となだめました。

 バンビーノの言い草はもっともでしたが、あまり怒ると体によくないと思っていました。

 シャー。

 天井で音がしました。

 小鹿こじかがラインダンスで流した汗を、シャワーで洗っているのでした。

 ピータンはしかめっ面をして、「さて本題だ」と言いました。

「なぜ、ヒエロ文鳥ぶんちょうは、十二階じゅうにかいのあの門に、水色のシートをくるりときつめなさったかだ。全世界の注目の的だよ」

 バンビーノは驚いて叫びました。

「何だって、全世界だって。そんなら、州のテリヒアート会長もお知りになっているっていううわさは、本当だったのかい」
「まあ、そうだ。実際彼はホワイト副会長に存在価値を認められた、若者だぁな」

 静かなピータンの言い草でしたが、バンビーノはショックを隠しきれないようです。

 さて、煮干にぼしのシチューが王宮横丁に運ばれてきました。

 二人は何も言わすにそれを食べました。今日の王宮横丁はとても静まり返っていました。

 バンビーノはうなずいて言いました。

「仕方ない。じゃあピータン、とりあえず水門の近くに行ってみっか。そして十文字のキーを差し込んで、水面の様子を確かめに行こうよ」
「やっと話がまとまった。料金は出世ばらいでいいよ。とっつぁんがまた怒りだしたらやっかいだし、カメラの品質を落とされたら、それこそ元のもくあみだぁよ」

 二人はやっとうなずきあいました。



 さて二人はシチューを食べ終わると、外の料金所を抜け、ミンガス草原の警官の様子をうかがいながら、海岸の水門の近くにたどりつきました。

 お空はもうすでに朱色に染まり、トロリとした魚の血のような色になっていました。

 しおのかおりがとても強く、何だか二人とも息切れしそうになってしまいました。

 バンビーノは肩を落としながらこうつぶやきました。

「俺らにゃもう時間はないが、俺はもう力が出ないよ」
「仕方のない奴だな。あれを見ろよ」

 ピータンが水面を指差すと、バンビーノは舌がつるくらい叫びました。

「あ、あっ!」

 何と水面はすでに、お空の方に向かって、光を放っているではありませんか。バンビーノはあわてました。

「大変だ、大変な事態だ」
「さわぐな、バンビーノ」

 ピータンはバンビーノをなぐさめました。

 そしてもうすでに水門は開き、門の奥には美しい花や木々の草原、『ジルウィーター・ガーデン』が見えるのです。

 バンビーノは肩を落としました。

「ああ、まいったなぁ。とっつぁんがこれを見たら何と言うかわからない。白銅貨五枚を借りてたし、とてもじゃないがこの代償だいしょうは払いきれない」

 バンビーノは、今はそんなことを言っている場合じゃないと思っていましたけれども、あせっていましたし、心がぐらぐらと熱くなってしまっていたのです。

 ピータンは力強くうなずくと、「行こう!」と水門の方に走り始めました。

 ピータンの手には十文字のキーが握られていました。

 バンビーノは驚いて叫びました。

「危ない! やめろよ!」
「バンビーノ、お前も来るんだ。あの深海しんかいのリーマ三帝さんていの二の舞になりたいのか?」
「だって、王宮横丁なんて、後でどうにでもなるじゃねぇか。このままだと一生笑いものだぜ」

 しかしバンビーノは、ピータンが、「行こう」というので、しぶしぶ彼と走り始めました。
すると突然水門が大きく輝き、水面に美しい水柱みずばしらが上がりました。
 


 その頃、ジルウィーター・ガーデンになる美しいヒデリ海岸で、一人の少女がイークスィーサーのいを練習していました。

 クルクルと何十分なんじゅっぷんも舞っていましたが、やがてつかれ、海岸の砂浜にしゃがみ込みました。

「ああ、マンブルスゾーンのおみやに、経典きょうてんを見に行きたいな」

 少女はつぶやきました。少女の名はナツミといいました。

 小さい耳をそばだてて、海の海の音を聞くのが好きな少女です。

 でも、旅行をするにも、今は自由が無いのでした。

 すると突然目の前が光り、空中からミケ猫と羊がドチャリと落ちてきました。

「あらっ!」

 ナツミはきもをつぶして、その場にへたり込みました。

「ああ、これは絵本にあった、ジベロさんとヌーヤーナーさんですね」

 ナツミは勇気をもって二人に話しかけました。

 二人はバンビーノとピータンでした。バンビーノはうめいて、「あいたたた、なんだい、あんた」と声を上げました。

「ここがシャクリーパイの下宮げきゅうかい? ああ、違うな。ヒデリ海岸か」
「何だって、ヒデリ海岸だって?」

 ピータンが急いで起きて、叫びました。

「ここがそうか! ああなるほど。するとマンブルスゾーンには一歩近づいたわけだ」
「えっ!」

 ナツミは二人に聞きました。

「あなた様方は、マンブルスゾーンに行くのですか」

 ピータンは答えました。

「ああ、左様さようだ。まあここからだと一ヶ月は歩いてかかるだろう」
「あら何てこと。私も連れていって下さらない」

 ナツミは二人に頼みましたが、バンビーノは首を横に振りました。

「ダメだ、ダメだ。水門のことで手一杯なんだ。君のことまで気にしていられない。さあ、ピータン、行くよ」
「まぁ、そう言うな。でもなかなか大変だからね」

 そう言って、バンビーノとピータンは海岸を歩いていってしまいました。

 ナツミは二人を見ていましたが、何だかもう一度会うような、そんな気がしていたのです。

 お空は緑に光り、雲は黄色であまりにも不気味です。

 草原を歩きながら、ピータンはバンビーノに言いました。

「さあ、マンブルスゾーンまで一直線だ」
「方向は合っているのかい」
「さぁ?」

 二人は言い合いながら、東の方を歩いていきました。

 そして、二度と王宮横丁には戻りませんでしたとさ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

地味で結婚できないと言われた私が、婚約破棄の席で全員に勝った話

といとい
ファンタジー
「地味で結婚できない」と蔑まれてきた伯爵令嬢クラリス・アーデン。公の場で婚約者から一方的に婚約破棄を言い渡され、妹との比較で笑い者にされるが、クラリスは静かに反撃を始める――。周到に集めた証拠と知略を武器に、貴族社会の表と裏を暴き、見下してきた者たちを鮮やかに逆転。冷静さと気品で場を支配する姿に、やがて誰もが喝采を送る。痛快“ざまぁ”逆転劇!

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

処理中です...