後悔のない生き方

お鮫

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余命という常に張り付く影におびえながらそれでも、家族や慧の前では笑顔でいる。
そう心がけてはいる。

その仮面が少しずつ、少しずつ。メッキがはがれていくように。
繕えなくなった。
時折家族が痛ましいような顔をするからバレているのかもしれない。
それでもいいや、と思えるくらいには諦めている。
取り繕うのは疲れる。
痛みに面会を拒否することもあったし、慧にさえ会いたくないときもあった。


季節は梅雨から夏に移り変わっていた。
窓の外ではせわしなく蝉の鳴き声が聞こえる。

6月の暑さの比ではない猛暑が各地を襲う中、病院では変わらない空気が漂っていた。
お見舞いにくる人々が、外の暑さから逃れるように病院内に入ってくる。
廊下で人の出入りを眺めていると知っている顔が見えた。
ハンカチで額を拭きながらやってきたのは父だった。


私の病気は止まることを知らないようで薬もたいして効果はなかったが、一ついいこともあった。
少しずつ父と話をするようになっていたのだ。

まだまだ親子らしい会話ではないけれど以前より父を許せるようになっていた。

慧との会話で思ったのだ。
「今、いる人が明日もいるとは限らない」

慧の言葉は残される側の言葉だった。兄が亡くなったのだから当たり前だ。
だけど…私は家族より先に死んでしまうから。
みんなを置いていってしまうから。

私が寝ているベッドの横で泣く父の姿を見てしまったら怒る気力も失せてしまった。
というより、今は生きることだけに力を注いでいる。注がなくちゃいけない。

だから怒りの感情に人生を消費されたくなかった。
そんなこんなで今に至るわけだが…

「それでね、お父さんったらいらないって言ってるのにいろんなもの買ってくるの!食べられないって言ってるのに!お母さんだって怒ってるんだから」

そう愚痴を吐いているのに、慧はにこにこと話を聞いていた。
自分の事のように喜ぶ彼がうれしくもあり気恥ずかしくもあった。
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