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「蝉の命って七日じゃないって知ってた?」
窓の外を見ながら慧に問うと私の視線を追った慧はああ、と納得したようにうなずいた。
唐突な質問にも、「なんで?」なんて言わずに聞いてくれる。
そんなところにも胸がきゅっとなる。
「そうなん?知らなかった」
「私も最近知ったんだけどさ、蝉は土の中にいることがほとんどで外に出たら七日しか生きられないってよく聞くじゃない?」
窓の外で割れんばかりに鳴く蝉たちの声が聞こえる。
「うん」
「だけど、本当は長いと一ヵ月くらい生きられるんだって」
「まじ?!なんで一週間なんて言われてんの?」
「蝉は樹液を吸って栄養としてるんだって。だから飼育下に置いちゃうと樹液が吸えなくて一週間くらいで死んじゃう。飼育が難しいことから来てるらしいよ」
「へぇ~。すごいな。蝉って夏の間あんなに鳴いてうるさいなって思うけど、あいつらにとっては子孫を残すために必死にメスを呼んでるわけだから。うるさいなんて思っちゃだめだよな」
「ちなみにだけど、蝉ってカメムシの仲間らしいよ」
そういった瞬間、慧が顔をしかめた。
「うえっ、マジ?!それは知りたくなかったわ」
「ふふ、私も」
テレビで流れる蝉の雑学を聞きながら、ふと思った。
蝉がうらやましい。
生きるために、子孫を残すために。
ただ、それだけのために生きる彼らの一生はなんて美しいんだろう。
悩むことも苦しむことも考えない。
彼らは自分がどれだけ生きられるかなんて知らない。
それでもただまっすぐに生きている。
私もそんな風に生きたかった。
自分の余命なんて知らずに生きたかった。
”死”というものが近づいてきていた。死ぬことってもっと遠くにあるものだと思ってた。
遠くであってほしかった。
生きているものはみんな通るものだ。それでも、あの頃はどこか他人事に考えていた。
まだ、他人事に考えていたかった。
私の未来は冬の夜みたいに真っ暗で少し先も見えない。
もうそろそろ、お別れの準備をしなきゃだ。
窓の外を見ながら慧に問うと私の視線を追った慧はああ、と納得したようにうなずいた。
唐突な質問にも、「なんで?」なんて言わずに聞いてくれる。
そんなところにも胸がきゅっとなる。
「そうなん?知らなかった」
「私も最近知ったんだけどさ、蝉は土の中にいることがほとんどで外に出たら七日しか生きられないってよく聞くじゃない?」
窓の外で割れんばかりに鳴く蝉たちの声が聞こえる。
「うん」
「だけど、本当は長いと一ヵ月くらい生きられるんだって」
「まじ?!なんで一週間なんて言われてんの?」
「蝉は樹液を吸って栄養としてるんだって。だから飼育下に置いちゃうと樹液が吸えなくて一週間くらいで死んじゃう。飼育が難しいことから来てるらしいよ」
「へぇ~。すごいな。蝉って夏の間あんなに鳴いてうるさいなって思うけど、あいつらにとっては子孫を残すために必死にメスを呼んでるわけだから。うるさいなんて思っちゃだめだよな」
「ちなみにだけど、蝉ってカメムシの仲間らしいよ」
そういった瞬間、慧が顔をしかめた。
「うえっ、マジ?!それは知りたくなかったわ」
「ふふ、私も」
テレビで流れる蝉の雑学を聞きながら、ふと思った。
蝉がうらやましい。
生きるために、子孫を残すために。
ただ、それだけのために生きる彼らの一生はなんて美しいんだろう。
悩むことも苦しむことも考えない。
彼らは自分がどれだけ生きられるかなんて知らない。
それでもただまっすぐに生きている。
私もそんな風に生きたかった。
自分の余命なんて知らずに生きたかった。
”死”というものが近づいてきていた。死ぬことってもっと遠くにあるものだと思ってた。
遠くであってほしかった。
生きているものはみんな通るものだ。それでも、あの頃はどこか他人事に考えていた。
まだ、他人事に考えていたかった。
私の未来は冬の夜みたいに真っ暗で少し先も見えない。
もうそろそろ、お別れの準備をしなきゃだ。
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