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プロローグ // 6号vs銀行強盗集団

2話 それは化け物

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銀行強盗集団の討伐を完了した青年――6号は胸元から小型の無線機を取り出して口を開いた。

「こちら6号、目標の殲滅に成功した」

ノイズ交じりに、無線機の向こうから了解の声が返ってくる。他にも二言、三言、状況を説明してから6号は無線機をコートの内ポケットにしまい込んだ。

愛用の銃を軽く確認していると、数人の男女がやってきた。そのうちの二人は6号の部下、残りは警察官のようだ。ちらり、とそちらに視線を送った6号に気づき、一人の男性が小さく頷く。

「お疲れ様であります」
「ああ。後始末は警察に任せて良いか?」
「ハッ、問題ありません。港の方もすでに制圧完了しています」

そうか、と6号は頷いた。警察官達が銀行強盗集団の死体を検分するのを眺めてから、6号は歩き出した。もう自分の仕事は終わりだ。今回の任務は逃走した銀行強盗集団の討伐のみ。その後始末については、警察の領分である。

歩き出した6号に付き従うのは先ほど話しかけてきた青年。彼は6号付きの副官であるノンベルだ。6号に忠誠を誓う、腹心の部下である。

「次の予定は?」
「特にありません。ただ、ノックス司令からは『近々、大掛かりな作戦がある』とお話がありました」

その言葉に、6号は無表情ながらも片眉を上げる。治安維持部隊をまとめあげるトップが直々に先触れを出してくる、ということはそれなりに何か大きな物が動いているのだろう。テロか、モンスターの異常発生か、ドラゴンでも襲来したか。

いくつか6号は考えられる予想を打ち立ててから頭を振った。何があっても6号がやることは変わらない。示された目標に向かって作戦を遂行するのみ。

「ノンベル、備品の再確認と人員の状況を整理しよう。司令がそう仰るからには、何かがあるのは違いない。私達はそれを万全の態勢で受け入れるべきだ」
「了解です」
「それから情報収集を」
「ハッ! 6号隊長はどうされますか? この後、予定はありませんが……」

6号はノンベルの顔を見上げて「基地に戻ってトレーニングを行う」と静かな声で言った。その様子に、ノンベルも黙って頷く。

ノンベルが6号の下に就いて長い。事前に「感情がない」「あいつは機械だと思え」と前上司に言われていた通りに、6号は非常にわかりやすい人間であった。笑うこともなければ怒鳴り声をあげることもない、泣き言を言う事もなければ何か娯楽を楽しむ様子もない。ノンベルが知る限り、彼はいつも6号小隊に割り当てられた執務室で書類仕事をするか、基地のトレーニングルームでトレーニングに励むか、任務を受けて外に出ているか、のどれかだ。

スケジュールを尋ねたのも、単なる予定の再確認に過ぎない。この、機械とも揶揄される隊長が自発的に仕事以外の何かをするだなんて――

「おーっ! いたいた!」

大声の元を振り向けば。そこには、6号と同じ黒のロングコートを身にまとった長身の男、12号がいた。ノンベルはその姿を見て嫌そうに顔を歪める。6号は、相変わらずの無表情であった。……そして、さらに12号の後ろに目を向ければ、肩で息をして今にも吐きそうなほどに真っ青な顔をした彼の副官がいた。

「なあなあ、6号、仕事帰り? あれだろ、さっきの銀行強盗集団のやつ……」
「それならもう片付けた」
「さっすが! じゃあさ、今から飯行かね? 6号が好きそうなパスタの店、見つけたんだよ~」

12号の怒涛の誘いに、6号は少しだけ首を傾げる。その後、一人で何か納得したかのように頷いた。それを見て、ノンベルは小さくため息をつく。

「私がそれを好きかどうかはわからないが、特にこの後は予定もない。同僚である君との友好を深めるのも良い事だろう」
「だよね! 俺と友好と親愛とラブを深めよう、な!」

12号が6号の肩に馴れ馴れしく手を回そうとしている。それを見てノンベルは大げさに咳ばらいをした。

「食事に行くこと自体を止めはしませんが、どうか節度を守って頂くよう」
「……? ノンベル、私は食事に行くだけだぞ」
「6号隊長に言っているのではありません」

ノンベルが12号を睨めば12号はどこ吹く風と言わんばかりににんまりと笑みを深めていた。

「やだなあ、食事に行くだけだよ食事に。ね?」

12号の噂はノンベルだって知っている。いや、この首都ラッサにおいて知らぬ者はいないだろう。悪名高き「遊び人」の噂を。12号は老若男女、誰彼構わず気に入ればすぐに声をかけ、あっという間に自身の虜にさせて美味しく頂く、と非常に有名なのだ。

その12号の食指が、今や自分のところの敬愛して止まない隊長殿に向けられているのだから、ノンベルとしてはたまったものではない。特に6号は感情がない点だけでなく、どこか一般常識にも欠けていて危なっかしい。そんなノーガードで生きている6号にこんな悪い虫がつくだなんて……!

ノンベルは眦を吊り上げて、12号の副官であるクリフを見た。青い顔をして口元に手を当てているところを見ると、彼もまた傍若無人な12号の犠牲者なのだろうと察せられる。とは言え、12号の面倒はしっかり見てもらわなければならない。

「クリフ君」
「は、はいぃ……」
「ちゃんと隊長の手綱を握っておくように」
「うぷ……わかりましたぁ……うぅ、ランチのお店、僕が見つけたところだし、この後は会議あるんで……」

半泣きになりながらもぼそぼそと言い訳をするクリフに、ノンベルは重く頷いた。ランチさえ乗り切れば、12号隊のほうで問題児の隊長はしっかり回収してくれそうだ。……だとしても、このヨレヨレ状態のクリフでは頼りがいがない。

ノンベルは溜息をつきながら、制服のベルトに引っかけていた無線機を手に取る。

「マリア君にも連絡を入れておくよ」
「お願いしますぅ……」

もう一人の12号付きの副官マリア女史なら間違いなくこの長身男を御してくれるだろう。目の前で自分の隊の隊長である6号に抱き着いたりべたべた触ったりする12号に殺気を飛ばしながらノンベルは無線機のスイッチを入れた。

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ここまで書いたんですけどまだこの先どうするかなんも決めてないんですよね(小声)
超人ハイスペックエリートマンが日常だとポンコツなギャップが私は好きです


自分用も兼ねた今回出てきたサブキャラのみなさん

・ノンベル
6号付きの副官。6号との付き合いは長く、故に治安維持部隊でも古株にあたる。
真面目。事務仕事はお任せあれ、なのとついでに日常がポンコツな6号のためにいろいろ世話を焼いたりする。
年齢は決めてない。

・クリフ
12号付きの副官。たぶん新人っぽい。体力はあんまりない。事務方とかから配属転換してきたのかも?
なんか12号隊に配属されるような特殊能力の持ち主かもね。
一応、治安維持部隊は警察よりもエリートな感じなのでたぶんきっと(書きながら今決めた)
12号のワガママや突拍子もない行動によく振り回されている

・マリア
12号付きの副官その2。頼れるお姉さんみたい。
12号の躾に余念がないとかなんとか。
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