侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん

文字の大きさ
37 / 61

第37話 結婚式④

しおりを挟む
 唇が離れた瞬間、レアード様が微笑んだ。ああ、なんて美しくて優しい微笑みだろう。見惚れながら私も微笑みを返す。

「愛している、メアリー」
「私もあなたを……愛しています」

 そう小さいけれど確かな声で愛を誓ったのだった。
 その後。あっという間に式及びパレードが進行していき、あっという間に披露宴の時間となった。

「もう披露宴か……」

 真っ白なウェディングドレスから深紅の披露宴用のドレスに着替え、お化粧も髪結いも新たなものに変わる。
 控室で全て準備を終えると、廊下で待っていてくださった軍服姿のレアード様と共に会場へと歩く。勿論腕を組みながら。

「では王太子殿下と王太子妃様のご入場でございます……!」

 侍従のアナウンスが発せられ、私達がゆっくりと真っ白なテーブルクロスが敷かれた席に座る。金色の燭台の上にあるろうそくからは温かな火が灯っていた。
 披露宴は穏やかに進行していく。そしてコックらによって前菜となる食事が持ち込まれてきた時、コックと同じ場所からメイド服姿の1人の女性がカツカツとこちらへと歩いてきた。その顔は……アンナだ。

「披露宴、楽しんでいるようで何よりだわ、メアリー様!」

 アンナが私を指さしながら大きな声を挙げた。隣をちらりと見ると一瞬にしてレアード様の顔が厳しいものに変わる。

「捕らえよ」

 近くにいた配下にそう伝えたレアード様。ぞろぞろと兵士がアンナめがけてやって来る。アンナは逃げる体勢を取りつつも大きな声を挙げた。

「そこにいる王太子妃様はねえ! 色んな男を手玉に取る魔性の悪女よぅ! そんな女の言う事なんて皆信じない事ね! じゃあ私は捕まりたくないから逃げるわよ!」
「メアリーを貶めた愚者を逃がすものか。絶対に捕縛しろ……!」
「王太子殿下、かしこまりました!」

 しばらくして大広間の向こう側から小さいけれどしっかりとアンナの悲鳴が聞こえ渡った。どうやら捕縛されたようだ。お邪魔虫にはご退場願うより他ない。 
 しかしアンナのせいで会場内はざわめきが広がっている。侍従が落ち着いてください! と声を何度もかけ、私とレアード様もそろってどうか皆様、落ち着いてくださいませ……! と呼びかけた事で何とか落ち着きを取り戻したのだった。
 
 こうして落ち着きを取り戻して維持したまま食事の時間は終了し、その後もなんとか穏やかに進行していくが私の胸の中にはさっきアンナが言った言葉がナイフとなって突き刺さったままだった。

「色んな男を手玉に取る魔性の悪女」

 その言葉に私は強く否定する事が出来なかった。だってウィルソン様は未練があるという事を知ったし、レアード様はいわずもがな私を愛してくれている。1人の男性から寵愛を一身に受けると言うだけでも、嫉妬が生まれる可能性があるのがこの世界。
 それと強く否定できなかった事が少し、情けなく思えてきた……。
 
 披露宴も終わりに近づき、招待客のお見送りが近づいてきた。出入り口で彼らに今日来ていただいた事への感謝を伝えるのが重要である。

「皆様、今日はお疲れ様でございました」

 侍従が宴の終わりをつげ、ぞろぞろと招待客が帰る準備をする。それぞれバックの中身を確認したりだとか席から立って周囲を眺めたりなど各々自由に動き始めた。それをレアード様と共に眺めていると、1人の淡いピンク色のドレスを着た華奢で長身の女性がこちらへとやって来る。

「ちょっとお話構いませんか? わたくし、マイラと申します」

 マイラ王女……カルドナンド王国の隣国にあるセルファー王国の第3王女で母親は王妃。彼女の異母姉である第1王女と第2王女はそれぞれ他国の公爵家や王族へと嫁いでいる。だから弟である王太子と共に彼女が名代として招待されていた……という事だったような。

「マイラ様。本日はお忙しい所お越しいただき」
「それには及ばないわ」

 私の言葉をマイラ王女が遮った。いかにも不機嫌そうな顔をしているのが見えた。それと共に私の身体が委縮していく……。

「なんの御用でございますか? マイラ王女」
「王太子様……こんな場所で仰るのは無粋なのは理解しております。それでも納得できないのではっきり言わせていただきますね。私はあなたをお慕いしておりました。本当はあなたと結婚したかった。なのになんで……離婚歴のある子爵家の令嬢である女官ごときをお選びになるのですか?」
「は?」
「王太子妃様が処女で白い結婚が成立したから離婚した……みたいな話は聞いておりますが、それでも彼女を選ぶ理由にはならないでしょう。なぜ……私みたいな女を選ばなかったのか、理解に苦しみます……!」

 マイラ王女の声には明らかな怒気が籠っていた。だがレアード様は開き直った表情をしているようにも見える。

「結婚相手を選ぶのは私です。それが何か問題でもあるのですか?」
「あなたは王太子殿下ですよ?! だったらそれなりの令嬢か他国の王女を選ぶべきです! 私のような!」
「メアリーを侮辱するおつもりですか? ……そうでしたら俺はあなたを許す訳にはいかないな……」
「れ、レアード様?!」

 怒りに満ち溢れたレアード様が腰に帯剣していた剣を抜き、剣先をマイラ王女へと向けた。その瞬間この場に居た者達のほとんどがこちらへと視線を投げる。会場内は瞬く間にぴりぴりとした冬の嵐の如き雰囲気へと変貌する。

「レアード! 落ち着くんだ!」

 これまで静かに見守って来た国王陛下が血相を変え、慌ててレアード様へと駆け寄って来た。マイラ王女の弟であるセルファー王国の王太子もマイラ王女の元へと駆け寄り、私達へ謝るようにと懇願する。

「姉上! ここは祝いの場です……! なぜレアード王太子殿下のご機嫌を損ねるような真似をしたのですか?!」
「だって我慢ならなかったもの! それにこの女官の女、男を手玉に取る魔性の悪女なんでしょう?! そんな女を王太子殿下のそばに近寄らせる訳には……!」

 まただ。アンナの言った男を手玉に取るという私の悪評。ぐさりを胸に突き刺さったままの悪評がぐりぐりと胸の奥までぐちゃぐちゃにしてこようとする。胸の中が痛くて気持ちが悪い。
 なんで、なんでこうなるの? いやだ、やめてよ……。

「私はレアード様をお慕い申しております! 私はレアード様を愛しています……!」
「愛しているのは分かってるわ。でもあなたは子爵家の令嬢じゃない、身分が違うのよ! それにあなたはかつて侯爵家と結婚していたけど離婚した。そんなの王太子殿下にふさわしくないのよ!!」

 弟に取り押さえられ、髪を振り乱しながらもそう狂ったように叫ぶマイラ王女。レアード様はマイラ王女へ剣先を向けたままだが私は動けないでいた。マイラ王女に屈してしまっているのだ……。

「捕らえよ! メアリーを侮辱する者は許さぬ!」

 レアード様の怒号が会場内にこだました……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「妹にしか思えない」と婚約破棄したではありませんか。今更私に縋りつかないでください。

木山楽斗
恋愛
父親同士の仲が良いレミアナとアルペリオは、幼少期からよく一緒に遊んでいた。 二人はお互いのことを兄や妹のように思っており、良好な関係を築いていたのである。 そんな二人は、婚約を結ぶことになった。両家の関係も非常に良好であったため、自然な流れでそうなったのだ。 気心のしれたアルペリオと婚約できることを、レミアナは幸いだと思っていた。 しかしそんな彼女に、アルペリオはある日突然婚約破棄を告げてきた。 「……君のことは妹としか思えない。そんな君と結婚するなんて無理だ」 アルペリオは、レミアナがいくら説得しても聞き入れようとしなかった。両家が結んだ婚約を、彼は独断で切り捨てたのである。 そんなアルペリオに、レミアナは失望していた。慕っていた兄のあまりのわがままさに、彼女の気持ちは冷めてしまったのである。 そうして婚約破棄されたレミアナは、しばらくして知ることになった。 アルペリオは、とある伯爵夫人と交際していたのだ。 その事実がありながら、アルペリオはまだレミアナの兄であるかのように振る舞ってきた。 しかしレミアナは、そんな彼を切り捨てる。様々な要素から、既に彼女にはアルペリオを兄として慕う気持ちなどなくなっていたのである。 ※あらすじを少し変更しました。(2023/11/30) ※予想以上の反響に感想への返信が追いついていません。大変申し訳ありません。感想についてはいつも励みになっております。本当にありがとうございます。(2023/12/03) ※誤字脱字などのご指摘ありがとうございます。大変助かっています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

私から何でも奪い取る妹は、夫でさえも奪い取る ―妹の身代わり嫁の私、離縁させて頂きます―

望月 或
恋愛
「イヤよっ! あたし、大好きな人がいるんだもの。その人と結婚するの。お父様の言う何たらって人と絶対に結婚なんてしないわっ!」 また始まった、妹のワガママ。彼女に届いた縁談なのに。男爵家という貴族の立場なのに。 両親はいつも、昔から可愛がっていた妹の味方だった。 「フィンリー。お前がプリヴィの代わりにルバロ子爵家に嫁ぐんだ。分かったな?」 私には決定権なんてない。家族の中で私だけがずっとそうだった。 「お前みたいな地味で陰気臭い年増なんて全く呼んでないんだよ! ボクの邪魔だけはするなよ? ワガママも口答えも許さない。ボクに従順で大人しくしてろよ」 “初夜”に告げられた、夫となったルバロ子爵の自分勝手な言葉。それにめげず、私は子爵夫人の仕事と子爵代理を務めていった。 すると夫の態度が軟化していき、この場所で上手くやっていけると思った、ある日の夕方。 夫と妹が腕を組んでキスをし、主に密会に使われる宿屋がある路地裏に入っていくのを目撃してしまう。 その日から連日帰りが遅くなる夫。 そしてある衝撃的な場面を目撃してしまい、私は―― ※独自の世界観です。ツッコミはそっと心の中でお願い致します。 ※お読みになって不快に思われた方は、舌打ちしつつそっと引き返しをお願い致します。 ※Rシーンは「*」を、ヒロイン以外のRシーンは「#」をタイトルの後ろに付けています。

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
突然、婚約解消を告げられたリューディア・コンラット。 彼女はこのリンゼイ国三大魔法公爵家のご令嬢。 彼女の婚約者はリンゼイ国第一王子のモーゼフ・デル・リンゼイ。 彼は眼鏡をかけているリューディアは不細工、という理由で彼女との婚約解消を口にした。 リューディアはそれを受け入れることしかできない。 それに眼鏡をかけているのだって、幼い頃に言われた言葉が原因だ。 余計に素顔を晒すことに恐怖を覚えたリューディアは、絶対に人前で眼鏡を外さないようにと心に決める。 モーゼフとの婚約解消をしたリューディアは、兄たちに背中を押され、今、新しい世界へと飛び出す。 だけど、眼鏡はけして外さない――。

処理中です...