今更愛していると言われても困ります。

二位関りをん

文字の大きさ
6 / 53

第5話 診療所での仕事

しおりを挟む
 朝食は全て完食してしまった。これはギルテット様が作ったものになる……のよね? なら彼は料理のスキルがかなりあるという事になる。また彼の手料理が食べたいなーーと思った所でギルテット様がお皿を下げに部屋に入って来た。

「失礼します。お皿下げに参りました」
「ありがとうございます。お食事とても美味しかったです。ギルテット様が全部おつくりになったものですか?」
「ああ、スープは俺が作りました。パンとベーコンは出来上がったものを買って火に通しただけなので全部手作りって事ではないです」

 そう苦笑いを浮かべている彼だがここまで料理ができる王族というのは聞いた事がない。

「すごいです。また今度料理一緒に作りたいです」
「俺で良ければお教えしますよ。でも見た目はそこまでなんであんまり品は求めないで頂けたら」
「いえ、そこは気にしませんよ」
「そうですか。じゃあ、また今度一緒に作りましょう。そろそろ診察が始まるので診察室に移動しますか」
「はい、お願いします。いつも患者の方はどれくらい来られるんですか?」

 松葉杖を使って廊下を移動しながら、ギルテット様へ質問した。

「いえ、混雑する事はないです。このデリアの町自体小さな集落ですから」

 聞けば列が並ぶほどの混雑を見せた事は今まで無いらしかった。デリアの町は小さな集落という事もあり混雑してばたばたする事もまずないとか。
 そしてこのデリアの町は一番近い隣町からもだいぶ距離があるようなので、それも関係しているらしい……。

「だからその辺は心配なさらずとも大丈夫です。ばたばたする事も無いので」
「そうですか……」
(良かった、多忙よりかはちょっと暇がある方がいいわよね)
「じゃあ照明をつけてドアも開いてきますね」

 混雑しないとはギルテット様は言ったが、診療所の始まりを外で待つ列は出来ていた。ギルテット様がドアを開いて彼らを建物の中へと招き入れる。そして列の一番前で待っていた杖を付いたおじいさんはそのまま診察室へと入っていった。私は診察室の奥に置かれた安楽椅子に座り、診察の様子を拝見させていただく。

「王子、おはようございます。このご婦人は?」

 いきなりおじいさんが持っていた杖で私の方を指しながらギルテット様へと質問した。もしかして怪しまれているのだろうか。そう考えるとちょっと不安が勝ってくる。

「ああ、この方は今度この診療所で働く事になったシェリーさんです。どうぞシェリーさん自己紹介を」
「初めまして。シェリーと申します。よろしくお願いします」
「シェリーさんね。ワシはレイルズ。よろしくお願いしますのぅ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ではレイルズさん診察を始めていきましょう。痛み止めはどうですか?」
「ああ、それを貰いに来たんですよぅ」
「わかりました。他欲しい薬はありますか?」
「他は大丈夫です。いつもの痛み止めだけで結構」
「了解しました。……こちら処方箋ね。お大事に」
「ああ、また来ます。ありがとうございました」

 レイルズはぺこりと私とギルテット様へ向けてお辞儀をして、杖を付きながら診療所を後にしていった。
 次に診察室に入って来たのは首元に紫色のスカーフを巻いた老婆。彼女以外には3人ほど玄関フロアに並んで待っている。それにいつの間にか兵士らしき人がドアの出入り口に来ていて誘導を行っていた。

「おはようございます。調子はいかがですか?」
「ええ、ぼちぼちです。風邪はもう治りましたのでいつものリウマチの薬をください」

 老婆はそう言って、変形した指をめいっぱい伸ばしてギルテット様が書いた処方箋を受け取り去っていく。
 その後も数名診察をこなした所で診療所から患者はいなくなった。

「おはようございます。王子」

 あの出入り口に立っていた兵士が診察室へと入って来た。30代後半くらいの男性で長身にぼさついた黒い髪を束ねている。口の周りには無精ひげも生えていたが目元は穏やかで優しそうに見える。

「おはよう、シュタイナー。今日も来てくれたんですね」
「ええ、王子の為ならばこれくらいお構いなく。ああ、そこのお方は?」
「初めまして。シェリーと申します」

 シュタイナーは私に目を向けた。ふんふんと頷きながら顔に右手を当てている。

「この町の娘には見えませんねぇ。どこから来たんです?」
「あ、えーーと……」
「……シェリー。シュタイナーには本当の事を話しても構いませんよ。シュタイナー、診察室の扉をしっかり閉めておいてください」
「ああ、了解です。……訳ありっすね」

 シュタイナーが診察室の扉を固く閉めた。それを確認してから私は小声で実は……。と口を開く。

「私はシュネル・アイリクスです。ソアリス様との結婚生活に嫌気が差して家を出ました」
「ああ、あの……離婚は成立してるんですかい?」
「ソアリス様がサインして役所に届けてくださっていれば成立にはなります」
「ふむ……王子はどうするおつもりで?」
「俺はここで働いてもらおうと思っています。その方が彼女の為にもなるでしょうから。それに彼女には帰る家もありませんし」
「ああ、グレゴリアスの悪魔の娘ですもんねぇ」

 グレゴリアスの悪魔って私の父親の事か? いつの間にそんなあだ名がついたのか……。

「うちの父親、そんなあだ名がついてたんですね」
「狂人だともっぱらの噂ですよ。ねえ、王子?」
「そうですね。シェリーさんからすれば衝撃的かもしれませんが」
「いや、予想通りです」

 そりゃあ、私やバティス兄様への仕打ちを考えたらそう言われるのも仕方ないし残当である。

「なるほど、住み込みで働くんですかい?」
「そうですね。まずはこの怪我を治してからになります」
「そうですか。王子良かったですねぇ」

 シュタイナーがにこにこといたずらっぽい笑みを浮かべている。そこへギルテット様が恥ずかしそうに彼の右脇腹を小突いたのだった。
 なんだか、ギルテット様がこんな反応するなんで意外。
 それからはあっという間に日々が過ぎていった。怪我は案外すぐに治り、デリアの町に来てから1週間で看護婦として働きはじめた。最初は患者の名前を呼び間違えたりするミスなどもあったりしたが、なんとか仕事に慣れていった。

「シェリーさん。今日は昼で診察終了なのでよかったら海にピクニックに行きませんか?」
「いいですね、ぜひ」

 この日は昼で診察が終わる日。シュタイナーは朝から王都に用事で向かっており、診療所にはいない。

(ギルテット様はシュタイナーが私の事をバラしたりはしないって言ってたけど……)

 でも王都では私が行方不明になっているという噂が流れているかもしれない。いや、あのソアリス様の事だ。さっさと離婚届にサインをして役所に届けてジュリエッタとよろしくやっているだろう。

(もう、ソアリス様には期待しない)

 診察終了後、私とギルテット様はバスケットにささっと作ったサンドイッチや水を入れた緑の瓶を入れて、海へと向かう。
 砂浜付近は透き通るようなエメラルドグリーン、そして沖合は深い青色と海のグラデーションはとても美しい。そこに雲がほとんどない青空と白い砂浜も美しく映える。

「綺麗ですね」
「そうでしょう。デリアの町の好きな部分です」
「良い眺めです。ずっと眺めていたいくらい」
「良いですね。では食事といきますか」

 ギルテット様が持っていたシートを砂浜に広げようとしていた時、王子! とシュタイナーの声が聞こえた。振り返ると彼は茶色い馬に跨っていた。

「……シュネル夫人を警察とソアリス様が捜索しているようで!」

 ……なんで? ソアリス様が私を?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして”世界を救う”私の成長物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー編  第二章:討伐軍北上編  第三章:魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

処理中です...