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第5話 診療所での仕事
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朝食は全て完食してしまった。これはギルテット様が作ったものになる……のよね? なら彼は料理のスキルがかなりあるという事になる。また彼の手料理が食べたいなーーと思った所でギルテット様がお皿を下げに部屋に入って来た。
「失礼します。お皿下げに参りました」
「ありがとうございます。お食事とても美味しかったです。ギルテット様が全部おつくりになったものですか?」
「ああ、スープは俺が作りました。パンとベーコンは出来上がったものを買って火に通しただけなので全部手作りって事ではないです」
そう苦笑いを浮かべている彼だがここまで料理ができる王族というのは聞いた事がない。
「すごいです。また今度料理一緒に作りたいです」
「俺で良ければお教えしますよ。でも見た目はそこまでなんであんまり品は求めないで頂けたら」
「いえ、そこは気にしませんよ」
「そうですか。じゃあ、また今度一緒に作りましょう。そろそろ診察が始まるので診察室に移動しますか」
「はい、お願いします。いつも患者の方はどれくらい来られるんですか?」
松葉杖を使って廊下を移動しながら、ギルテット様へ質問した。
「いえ、混雑する事はないです。このデリアの町自体小さな集落ですから」
聞けば列が並ぶほどの混雑を見せた事は今まで無いらしかった。デリアの町は小さな集落という事もあり混雑してばたばたする事もまずないとか。
そしてこのデリアの町は一番近い隣町からもだいぶ距離があるようなので、それも関係しているらしい……。
「だからその辺は心配なさらずとも大丈夫です。ばたばたする事も無いので」
「そうですか……」
(良かった、多忙よりかはちょっと暇がある方がいいわよね)
「じゃあ照明をつけてドアも開いてきますね」
混雑しないとはギルテット様は言ったが、診療所の始まりを外で待つ列は出来ていた。ギルテット様がドアを開いて彼らを建物の中へと招き入れる。そして列の一番前で待っていた杖を付いたおじいさんはそのまま診察室へと入っていった。私は診察室の奥に置かれた安楽椅子に座り、診察の様子を拝見させていただく。
「王子、おはようございます。このご婦人は?」
いきなりおじいさんが持っていた杖で私の方を指しながらギルテット様へと質問した。もしかして怪しまれているのだろうか。そう考えるとちょっと不安が勝ってくる。
「ああ、この方は今度この診療所で働く事になったシェリーさんです。どうぞシェリーさん自己紹介を」
「初めまして。シェリーと申します。よろしくお願いします」
「シェリーさんね。ワシはレイルズ。よろしくお願いしますのぅ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ではレイルズさん診察を始めていきましょう。痛み止めはどうですか?」
「ああ、それを貰いに来たんですよぅ」
「わかりました。他欲しい薬はありますか?」
「他は大丈夫です。いつもの痛み止めだけで結構」
「了解しました。……こちら処方箋ね。お大事に」
「ああ、また来ます。ありがとうございました」
レイルズはぺこりと私とギルテット様へ向けてお辞儀をして、杖を付きながら診療所を後にしていった。
次に診察室に入って来たのは首元に紫色のスカーフを巻いた老婆。彼女以外には3人ほど玄関フロアに並んで待っている。それにいつの間にか兵士らしき人がドアの出入り口に来ていて誘導を行っていた。
「おはようございます。調子はいかがですか?」
「ええ、ぼちぼちです。風邪はもう治りましたのでいつものリウマチの薬をください」
老婆はそう言って、変形した指をめいっぱい伸ばしてギルテット様が書いた処方箋を受け取り去っていく。
その後も数名診察をこなした所で診療所から患者はいなくなった。
「おはようございます。王子」
あの出入り口に立っていた兵士が診察室へと入って来た。30代後半くらいの男性で長身にぼさついた黒い髪を束ねている。口の周りには無精ひげも生えていたが目元は穏やかで優しそうに見える。
「おはよう、シュタイナー。今日も来てくれたんですね」
「ええ、王子の為ならばこれくらいお構いなく。ああ、そこのお方は?」
「初めまして。シェリーと申します」
シュタイナーは私に目を向けた。ふんふんと頷きながら顔に右手を当てている。
「この町の娘には見えませんねぇ。どこから来たんです?」
「あ、えーーと……」
「……シェリー。シュタイナーには本当の事を話しても構いませんよ。シュタイナー、診察室の扉をしっかり閉めておいてください」
「ああ、了解です。……訳ありっすね」
シュタイナーが診察室の扉を固く閉めた。それを確認してから私は小声で実は……。と口を開く。
「私はシュネル・アイリクスです。ソアリス様との結婚生活に嫌気が差して家を出ました」
「ああ、あの……離婚は成立してるんですかい?」
「ソアリス様がサインして役所に届けてくださっていれば成立にはなります」
「ふむ……王子はどうするおつもりで?」
「俺はここで働いてもらおうと思っています。その方が彼女の為にもなるでしょうから。それに彼女には帰る家もありませんし」
「ああ、グレゴリアスの悪魔の娘ですもんねぇ」
グレゴリアスの悪魔って私の父親の事か? いつの間にそんなあだ名がついたのか……。
「うちの父親、そんなあだ名がついてたんですね」
「狂人だともっぱらの噂ですよ。ねえ、王子?」
「そうですね。シェリーさんからすれば衝撃的かもしれませんが」
「いや、予想通りです」
そりゃあ、私やバティス兄様への仕打ちを考えたらそう言われるのも仕方ないし残当である。
「なるほど、住み込みで働くんですかい?」
「そうですね。まずはこの怪我を治してからになります」
「そうですか。王子良かったですねぇ」
シュタイナーがにこにこといたずらっぽい笑みを浮かべている。そこへギルテット様が恥ずかしそうに彼の右脇腹を小突いたのだった。
なんだか、ギルテット様がこんな反応するなんで意外。
それからはあっという間に日々が過ぎていった。怪我は案外すぐに治り、デリアの町に来てから1週間で看護婦として働きはじめた。最初は患者の名前を呼び間違えたりするミスなどもあったりしたが、なんとか仕事に慣れていった。
「シェリーさん。今日は昼で診察終了なのでよかったら海にピクニックに行きませんか?」
「いいですね、ぜひ」
この日は昼で診察が終わる日。シュタイナーは朝から王都に用事で向かっており、診療所にはいない。
(ギルテット様はシュタイナーが私の事をバラしたりはしないって言ってたけど……)
でも王都では私が行方不明になっているという噂が流れているかもしれない。いや、あのソアリス様の事だ。さっさと離婚届にサインをして役所に届けてジュリエッタとよろしくやっているだろう。
(もう、ソアリス様には期待しない)
診察終了後、私とギルテット様はバスケットにささっと作ったサンドイッチや水を入れた緑の瓶を入れて、海へと向かう。
砂浜付近は透き通るようなエメラルドグリーン、そして沖合は深い青色と海のグラデーションはとても美しい。そこに雲がほとんどない青空と白い砂浜も美しく映える。
「綺麗ですね」
「そうでしょう。デリアの町の好きな部分です」
「良い眺めです。ずっと眺めていたいくらい」
「良いですね。では食事といきますか」
ギルテット様が持っていたシートを砂浜に広げようとしていた時、王子! とシュタイナーの声が聞こえた。振り返ると彼は茶色い馬に跨っていた。
「……シュネル夫人を警察とソアリス様が捜索しているようで!」
……なんで? ソアリス様が私を?
「失礼します。お皿下げに参りました」
「ありがとうございます。お食事とても美味しかったです。ギルテット様が全部おつくりになったものですか?」
「ああ、スープは俺が作りました。パンとベーコンは出来上がったものを買って火に通しただけなので全部手作りって事ではないです」
そう苦笑いを浮かべている彼だがここまで料理ができる王族というのは聞いた事がない。
「すごいです。また今度料理一緒に作りたいです」
「俺で良ければお教えしますよ。でも見た目はそこまでなんであんまり品は求めないで頂けたら」
「いえ、そこは気にしませんよ」
「そうですか。じゃあ、また今度一緒に作りましょう。そろそろ診察が始まるので診察室に移動しますか」
「はい、お願いします。いつも患者の方はどれくらい来られるんですか?」
松葉杖を使って廊下を移動しながら、ギルテット様へ質問した。
「いえ、混雑する事はないです。このデリアの町自体小さな集落ですから」
聞けば列が並ぶほどの混雑を見せた事は今まで無いらしかった。デリアの町は小さな集落という事もあり混雑してばたばたする事もまずないとか。
そしてこのデリアの町は一番近い隣町からもだいぶ距離があるようなので、それも関係しているらしい……。
「だからその辺は心配なさらずとも大丈夫です。ばたばたする事も無いので」
「そうですか……」
(良かった、多忙よりかはちょっと暇がある方がいいわよね)
「じゃあ照明をつけてドアも開いてきますね」
混雑しないとはギルテット様は言ったが、診療所の始まりを外で待つ列は出来ていた。ギルテット様がドアを開いて彼らを建物の中へと招き入れる。そして列の一番前で待っていた杖を付いたおじいさんはそのまま診察室へと入っていった。私は診察室の奥に置かれた安楽椅子に座り、診察の様子を拝見させていただく。
「王子、おはようございます。このご婦人は?」
いきなりおじいさんが持っていた杖で私の方を指しながらギルテット様へと質問した。もしかして怪しまれているのだろうか。そう考えるとちょっと不安が勝ってくる。
「ああ、この方は今度この診療所で働く事になったシェリーさんです。どうぞシェリーさん自己紹介を」
「初めまして。シェリーと申します。よろしくお願いします」
「シェリーさんね。ワシはレイルズ。よろしくお願いしますのぅ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ではレイルズさん診察を始めていきましょう。痛み止めはどうですか?」
「ああ、それを貰いに来たんですよぅ」
「わかりました。他欲しい薬はありますか?」
「他は大丈夫です。いつもの痛み止めだけで結構」
「了解しました。……こちら処方箋ね。お大事に」
「ああ、また来ます。ありがとうございました」
レイルズはぺこりと私とギルテット様へ向けてお辞儀をして、杖を付きながら診療所を後にしていった。
次に診察室に入って来たのは首元に紫色のスカーフを巻いた老婆。彼女以外には3人ほど玄関フロアに並んで待っている。それにいつの間にか兵士らしき人がドアの出入り口に来ていて誘導を行っていた。
「おはようございます。調子はいかがですか?」
「ええ、ぼちぼちです。風邪はもう治りましたのでいつものリウマチの薬をください」
老婆はそう言って、変形した指をめいっぱい伸ばしてギルテット様が書いた処方箋を受け取り去っていく。
その後も数名診察をこなした所で診療所から患者はいなくなった。
「おはようございます。王子」
あの出入り口に立っていた兵士が診察室へと入って来た。30代後半くらいの男性で長身にぼさついた黒い髪を束ねている。口の周りには無精ひげも生えていたが目元は穏やかで優しそうに見える。
「おはよう、シュタイナー。今日も来てくれたんですね」
「ええ、王子の為ならばこれくらいお構いなく。ああ、そこのお方は?」
「初めまして。シェリーと申します」
シュタイナーは私に目を向けた。ふんふんと頷きながら顔に右手を当てている。
「この町の娘には見えませんねぇ。どこから来たんです?」
「あ、えーーと……」
「……シェリー。シュタイナーには本当の事を話しても構いませんよ。シュタイナー、診察室の扉をしっかり閉めておいてください」
「ああ、了解です。……訳ありっすね」
シュタイナーが診察室の扉を固く閉めた。それを確認してから私は小声で実は……。と口を開く。
「私はシュネル・アイリクスです。ソアリス様との結婚生活に嫌気が差して家を出ました」
「ああ、あの……離婚は成立してるんですかい?」
「ソアリス様がサインして役所に届けてくださっていれば成立にはなります」
「ふむ……王子はどうするおつもりで?」
「俺はここで働いてもらおうと思っています。その方が彼女の為にもなるでしょうから。それに彼女には帰る家もありませんし」
「ああ、グレゴリアスの悪魔の娘ですもんねぇ」
グレゴリアスの悪魔って私の父親の事か? いつの間にそんなあだ名がついたのか……。
「うちの父親、そんなあだ名がついてたんですね」
「狂人だともっぱらの噂ですよ。ねえ、王子?」
「そうですね。シェリーさんからすれば衝撃的かもしれませんが」
「いや、予想通りです」
そりゃあ、私やバティス兄様への仕打ちを考えたらそう言われるのも仕方ないし残当である。
「なるほど、住み込みで働くんですかい?」
「そうですね。まずはこの怪我を治してからになります」
「そうですか。王子良かったですねぇ」
シュタイナーがにこにこといたずらっぽい笑みを浮かべている。そこへギルテット様が恥ずかしそうに彼の右脇腹を小突いたのだった。
なんだか、ギルテット様がこんな反応するなんで意外。
それからはあっという間に日々が過ぎていった。怪我は案外すぐに治り、デリアの町に来てから1週間で看護婦として働きはじめた。最初は患者の名前を呼び間違えたりするミスなどもあったりしたが、なんとか仕事に慣れていった。
「シェリーさん。今日は昼で診察終了なのでよかったら海にピクニックに行きませんか?」
「いいですね、ぜひ」
この日は昼で診察が終わる日。シュタイナーは朝から王都に用事で向かっており、診療所にはいない。
(ギルテット様はシュタイナーが私の事をバラしたりはしないって言ってたけど……)
でも王都では私が行方不明になっているという噂が流れているかもしれない。いや、あのソアリス様の事だ。さっさと離婚届にサインをして役所に届けてジュリエッタとよろしくやっているだろう。
(もう、ソアリス様には期待しない)
診察終了後、私とギルテット様はバスケットにささっと作ったサンドイッチや水を入れた緑の瓶を入れて、海へと向かう。
砂浜付近は透き通るようなエメラルドグリーン、そして沖合は深い青色と海のグラデーションはとても美しい。そこに雲がほとんどない青空と白い砂浜も美しく映える。
「綺麗ですね」
「そうでしょう。デリアの町の好きな部分です」
「良い眺めです。ずっと眺めていたいくらい」
「良いですね。では食事といきますか」
ギルテット様が持っていたシートを砂浜に広げようとしていた時、王子! とシュタイナーの声が聞こえた。振り返ると彼は茶色い馬に跨っていた。
「……シュネル夫人を警察とソアリス様が捜索しているようで!」
……なんで? ソアリス様が私を?
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