あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

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第117話 出征祝いの食事

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「沼霧さん、お疲れ!」
「お疲れ様です、千恵子さん。立派な鯛ですねえ……!」
「へへっ2匹釣れた」

 沼霧さんの持つ籠の中にはエビにサザエがぎっしりと詰まっている。

「おいしそう……!」
「エビとサザエは煮しめにしようかと思いまして」
「じゃあ、鯛で炊き込みご飯にする?」
「そうですね! 1匹は炊き込みご飯にして、もう1匹も煮つけにしましょうか」

 こうして食材を持って別荘に戻り、まずは昼食の準備を進める。余った麦ごはんをこれまた余った白菜と一緒に雑炊にして頂くのだ。

「頂きます」

 ある程度小皿に入れた雑炊が冷めたのを見計らってささっと雑炊を匙ですくって食べる。白菜の甘味もしょうゆの風味もしっかり効いていて美味しい。
 食べ終えた後は少し居間で休憩した後は、1階の部屋を掃除したり片付けしたりして綺麗にする。

「あ、これ」

 母親が箪笥の中から見つけたのは、日の丸の旗だった。枕を1周り小さくしたくらいの大きさだ。

「これに寄せ書きしましょうか」
「それいいかも」
「千人針は間に合わないし、これに皆で寄せ書きして魚道さんに渡しましょう」

 母親の提案で、日の丸の旗に寄せ書きしていく。

「ねぇ、私はなんて書いたらいい?」
「魚道さんだからぬらりひょんでも何でもいいよ」
「でも千恵子、向こうの人に見られたらどうするの?」
「ああそっか……じゃあ、とりあえず……名前考えよっか」

 相談の末、ぬらりひょんは「花子」という名前で寄せ書きを書く事にしたのだった。魚道さんと彼の母親以外全員書いた所で私は、ある事を思いつく。

「光さんにも書いてもらおうか」

 旗と筆を持って桟橋に向かい、海にいる彼を呼んだ。

「なんだ?」
「これ、良かったら光さんの名前書いてほしいなって」
「どうやって書くんだよ」

 とやや不満げな口調で語る光さんへ、私は筆の先端を光さんの口に咥えてもらい、指で誘導する。

「よし! ありがとう光さん!」

 光と書かれた文字はちょっとうねうねしてはいるが、これくらいなら全然綺麗だし大丈夫だろう。

「これ、どうすんだ?」
「魚道さんにあげるの」
「へえ」

 その後、別荘に戻って旗を母親に渡した。光さんにも署名を貰った事に母親は驚いていたが、魚道さんなら喜んでくれるだろうという反応を見せてくれたのだった。
 夕方、いよいよ食事の準備に入る。内臓を取り除き、身を洗った鯛をお米の上に置いてしょうゆと細かく刻んだしょうがを少し入れて炊く。残りの鯛はさばいて、これもしょうゆと刻んだしょうがにみりんを入れて煮つけにしていく。

「エビを剥かなきゃ」

 エビは頭を落とし、全身を覆う殻をむいて竹串で取った背ワタをつまんで取る。お椀に入れて塩を少々ふりかけて水洗いするとぬめりと汚れが綺麗に取れた。
 サザエも殻から身を取り出し切って煮しめにしていく。

「あとは出来るのを待つだけかな」
「そうなりますね」
「煮物尽しになったけど大丈夫かな?」
「大丈夫でしょう。なのでしょうゆはちょっと控えめにしておきました。鯛の煮しめの方にはしょうがを入れています」
「ありがとう。助かる」
 
 確かにしょうゆを使い過ぎるとしょっぱくなってしまうので味をちょっと変えるのもアリか。
 食事が出来上がった辺りで、魚道さんとその母親が別荘に訪れた。私と母親が招き入れ、魚道さんの母親には旗に寄せ書きしてもらった。

「光さんの名前がある!」

 魚道さんが、光さんの名前が書いてあるのに気がついてくれた。また、ぬらりひょんの名前についても一応説明しておいた。

「では、こちらへ」

 母親が魚道さん達を居間に誘導する。私達はその間に食事をお皿に盛り、食卓を拭いてお茶をそそぐ。

「千恵子、準備はこれでいい?」
「多分」
「よし、じゃあ始めましょう。魚道さんの武運長久をお祈りして、まずはこの旗を差し上げます」

 母親が、皆に寄せ書きしてもらった旗を魚道さんに手渡した。

「ありがとうございます。お国の為に力を尽くします」
「では、皆さん。頂きます」

 母親の号令で、食事が始まった。

(何から食べようか)

 まずは、エビとサザエの煮しめから頂く。小皿によそってそこからエビを1尾口に入れた。プリプリした食感に薄めの味付けが合わさって美味しい。
 サザエもコリコリした食感が癖になる。

「美味しいですね!」

 魚道さんは炊き込みご飯を食べながら、何度も美味しいと喜びの声を上げていた。ぬらりひょんも早々と満足そうな笑みを浮かべている。

(炊き込みご飯どうかな?)

 お茶碗に盛られた炊き込みご飯を一口食べてみた。しょうがの味わいが奥の方からふんわりと口の中で広がる。鯛の身も柔らかくほぐれていて美味しい。
 鯛の煮付けも、身がやわらかく煮込まれており、しょうがのおかげか、煮しめとはやや雰囲気の異なる味わいになっている。

「骨あった」

 ぬらりひょんが口に指を突っこんで、鯛の小骨を取り出した。

「ほんとだ」
「千恵子姉ちゃんも気をつけて」

 幸い、私の分には小骨は入っていなかった。どうやら小骨はぬらりひょんの茶碗にのみ、入っていたようである。

「なんだか、当たりだったのかもね」

 母親の言葉にぬらりひょんは、なるほどねえ。と頷きながらご飯を食べ進めていった。
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