ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違って淫らな模様です

二位関りをん

文字の大きさ
15 / 41

第14話 ワンピース

しおりを挟む
「え、ええ?! ってか、知ってたんですか?!」
「すまん。酔った咲良がここにきて段ボールの整理してたら、あってさ……勝手に見て悪いとは思ってる!」

 謝る秀介へいえいえ! と慌てて手を振る咲良だが、動揺は止まらない。

「よかったら咲良、君とデートしたい」

 その時、甘い空気を打ち消すようにインターホンが鳴った。画面には松原が薔薇の花束とサッカーボール位の白いプレゼントボックスを抱えて立っているのが映し出されている。

「松原さん、おはようございます」
「春日さんすみません。またこのようなものが届いておりまして。花束だけならいつも勝手に処分させていただいておりましたが、今日はこのようなプレゼントボックスも届きまして……」
「ああ、箱は開けなくていいです。全部捨てちゃってください。松原さんの身に何か起きてもいけないので」
「かしこまりました」

 インターホンの画面が途切れたのもつかの間、次は秀介のスマホが鳴り響く。着信主は佳苗だ。

「教授、夜勤お疲れ様です。えっ、今日の伊藤さんのオペは延期ですか?」
「そうなの。早朝から発熱があってね……これじゃあオペには耐えそうにないから」
「わかりました。じゃあ俺もすぐに向かいます」

 一気にあわただしくなった空気に、咲良は秀介へかけるべき言葉が見つからないでいた。

「先輩……」
「心配するな。午後からのオペが無くなったから、今日は早く帰れるかもしれない。じゃあ、行ってくるわ」
「いってらっしゃい……! お気をつけて!」

 彼の姿を見送った後、咲良は自分のスマホで例の水族館について検索しながら朝食を食べ始める。

「ここかあ……」

◇ ◇ ◇

 この水族館を訪れたのは、咲良が高校1年生、秀介が高校3年生の時。中学・高校での遠足は6学年分全ての生徒が同じ箇所へ赴くシステムだったので、それはそれは大人数での移動だったのを思い出す。
 数少ない友人達とめぐりながら、秀介を探して目に焼き付け、隠し撮りしたのは良い思い出だ。
 隠し撮りした時の画像は今でもスマホのフォルダ内に残されている。

「これだ。我ながらすっごい綺麗に取れたなあ……先輩には内緒にしておかないと」

 にんまりと画像を眺めながら、穏やかな時間が過ぎ去っていく。秀介からそろそろ帰宅すると連絡を受けた咲良は作っておいた夕飯を温め直す。

「ただいま。咲良」
「先輩お疲れ様です。ご飯の準備できていますよ」
「ありがとう、じゃあ一緒に食べようか」

 こうして夕食を共にする瞬間は咲良にとってとても幸せな瞬間だ。

「ん、つくね美味しい。照り焼きうまいわ」
「へへ、ありがとうございます。レシピ調べて作ってみたんです」
「咲良の作る料理はどれも最高だよ。あぁ、そうだ。これこれ。この本に載ってたやつ」

 秀介が差し出してきたのは、彼と似たキャラクターと水族館デートをする内容の同人誌の電子版。勿論制作は咲良だ。
 突如として羞恥心が昂り、顔から火が吹き出そうになる。

「ぎょえっ! よ、良く見つけましたね?!」
「変な声出さなくても良いじゃん。せっかくだし咲良の願望を叶えてあげたいなと思って、休みの時とかに下調べしてたんだよな」
「ええっ?!」
(それって絶対願望以外の事も含まれてますよね? 例えばえっちとかえっちとか!)

 こうして彼との初デート日へ向けてあれよあれよと準備を進める事になる。
 デートの日は2週間後の日曜日に決まった。だが、その前に咲良はある事を思いつく。

「あの……私、私服そんなに持ってなくて」

 そう、退寮が唐突だったのに踏まえ、楓華からのあれこれなどもあって、私服は数えるほどしかない。

「身だしなみはしっかり整えておかないと、先輩に迷惑かけちゃいますし」
「わかった。じゃあ、明後日休みだから俺が買ってやるよ」
「買ってやるよ……ってええ?! いやいや、自分の服ですから自分で買いますよ!」
「だめか?」

 じっと見つめられると、これ以上自己主張できなくなってしまう。

「その代わり、お手頃価格のもの選びますんで……」
「じゃあ俺が選ぼうか?」
「えっいいんですか?」
(先輩が選んだ服……どういうの選ぶか気になるなあ)

 こういうのはどう? と言いながら秀介が画面を見せて来る。その画面に映し出されていたのは薄い桃色に細やかな花柄があしらわれたAラインのワンピースだった。

「おおっ? かわいらしいですね」

 華やかさこそないが、シンプルなシルエットだ。白い襟と紅くて細いリボンを見るとクラシカルな雰囲気が漂っている。
 しかし画面の下には15000円と値段が表示されているのを見て、咲良は一瞬にして全身が凍り付いた。

「えぇっ」
「どうした?」
「服自体はとっても可愛くて素敵ですけど……高くないです?!」
「そうか? こんなもんかと思ってたけど」

 彼との金銭感覚の違いを感じてしまうが、同時にこれがエリート外科医との暮らしなのかとも察知してしまう。
 それにワンピースのデザイン自体はとても可愛らしく、咲良の好みとも一致する代物なのに変わりはない。

「先輩よく私の好みがわかりましたね」
「咲良の描く同人誌、こういう系のファッションよく出て来るなって」
「えっ?! すみません、全然意識していませんでした……」

 元をたどれば母親からはあまり服に値段を掛けないでほしいと言われ、カジュアル服やプチプラ系が殆どだった。

 ――あんたにはああいうブランドものなんて似合わないだろうから。

 母親から言われた言葉を思い出してしまった瞬間、ずきりと胸の奥が痛む。そして自分とは違ってブランドものばかり買い与えられた兄・理一の姿もよぎると更に痛みが増した。

「咲良?」
「先輩。私、似合うと思いますか?」
「当たり前だろ。似合わないなんて言うやつがいたら俺がぶっ飛ばしたいくらいだ」
「!」

 最も欲しかった言葉をかけられたおかげか、胸の奥の痛みがすっとどこかへ消え去っていった。

「……母親に以前、そんな話をされたんです。うちは父親が幼い頃に亡くなって。お金には困らなかったんですけどね」
「君の母親ろくでもないな。まあ、こういった話はしない方がいいか」
「気を使わないで大丈夫です。先輩と一緒にいる以上、こういった話もしなくちゃいけない時が来るかもしれないですから」

 すると両手の頬に何かが触れた。

「俺がいる。大丈夫だ」
「っ!」
「たとえ君の家族が敵になっても、俺が君を守り抜く。それだけ俺は君が好きだから。もう離したくないって決めたから」

 彼の熱い眼差しに、目が逸らせない。瞳は満天の星々が瞬く宇宙のように煌めいていた。
 手術中の際に見せていたそれと似ているのに気がつくと、彼の手はゆっくりと名残惜しそうに離れていった。

「ありがとうございます、先輩。あなたがいてくれて本当によかったです」
「ははっ、さあ飯食べよう。デザートも楽しみだ」
「はい!」

 温かな空気の中で食べる夕食とケーキは、幸せで満ち溢れている。

◇ ◇ ◇

 数日後の休日。近くのショッピングモールで秀介が見せていたワンピースや新作のバレエシューズなどを秀介に購入してもらった咲良はコンビニに立ち寄っていた。

「あ、ささみのフライ2つください」
「かしこまりました。温めますか?」
「少しお願いします」

 会計も終えてコンビニを後にすると、外で空を見上げながら待っていた秀介へ白いレジ袋袋ごと手渡す。

「お、どした?」
「先輩ささみのフライ気になっていましたよね。良かったらいかがですか?」
「まじで?!」

 こないだケーキをおごってもらい、そして今回はワンピースなども購入してくれてランチのハンバーグ定食もごちそうになったので、何かしらお礼をしなければと考えた末の行動だった。
 レジ袋の中身を子供のように目を輝かせながら覗いている秀介は、とっても愛らしい。これまで様々な感情を見せてきた彼だが、どの表情も咲良にとってかけがえのない大事な宝物だ。

「っし、帰るか」
「そうですね」

 左手に指が絡まる。大人でどこか淫靡さを纏った動きだなと感じていた所へ、ぎゅっと力が加わり握りしめられる。

(子供っぽい。そんな先輩も大好き)

 水族館デートへ向けて、胸の高鳴りは更に加速していく。
 
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

婚活に疲れたアラサーOLの私、癒やし的存在の弟分(高校生)に「もう待てない」と外堀を埋められています ~10年分の執着は、甘すぎて重すぎる~

ダルい
恋愛
「29歳? 子供産むならもっと若い子がよかったな」  中堅企業で働く早川結衣(29)は、婚活市場における年齢の壁と、デリカシーのない男たちにすり減らされる日々を送っていた。  そんな結衣の唯一の癒やしは、マンションの隣に住む幼馴染の高校生・瀬戸湊(16)。  両親が共働きの彼に代わって、幼い頃はお世話をしてあげていた……はずが、いつの間にか立場は逆転。 手料理を振る舞われ、愚痴を聞かれ、マッサージまでされる始末。「湊がお嫁さんならいいのに」なんて冗談を言っていたけれど。 「今の結衣姉が一番綺麗だよ。……早く、誰も手出しできない『おばさん』になってくれればいいのに」  可愛い弟分だと思っていた彼が、時折見せる『オス』の顔。 16歳の高校生と、もうすぐ30歳のアラサー。  13歳差の常識と理性に抗いながら、生意気な年下男子に外堀を埋められていく、甘くて重い現状維持(ラブストーリー)。 「俺が大人になるまで、誰とも結婚しないで」 癒やされたいすべての女性に贈る、最強の年下幼馴染による溺愛包囲網、開始。

諦めて身を引いたのに、エリート外交官にお腹の子ごと溺愛で包まれました

桜井 響華
恋愛
旧題:自分から身を引いたはずなのに、見つかってしまいました!~外交官のパパは大好きなママと娘を愛し尽くす ꒰ঌシークレットベビー婚໒꒱ 外交官×傷心ヒロイン 海外雑貨店のバイヤーをしている明莉は、いつものようにフィンランドに買い付けに出かける。 買い付けの直前、長年付き合っていて結婚秒読みだと思われていた、彼氏に振られてしまう。 明莉は飛行機の中でも、振られた彼氏のことばかり考えてしまっていた。 目的地の空港に着き、フラフラと歩いていると……急ぎ足の知らない誰かが明莉にぶつかってきた。 明莉はよろめいてしまい、キャリーケースにぶつかって転んでしまう。そして、手提げのバッグの中身が出てしまい、フロアに散らばる。そんな時、高身長のイケメンが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのだが── 2025/02/06始まり~04/28完結

政略結婚の相手は、御曹司の元カレでした〜冷たいはずの彼が甘過ぎて困ってます〜

蓮恭
恋愛
『契約からはじまる、真実の愛――冷徹御曹司と、再会から紡ぐ一途な結婚譚』 「――もう、他人のままでいられないと思った」  美しいが、一見地味で物静か、けれどどこか品を纏った静香と、頭脳明晰で冷徹と噂される若き副社長の礼司。  六年前、身分違いの恋に終止符を打った二人が再会したのは――政略結婚の書類の上だった。  契約から始まる一年という期限付きの夫婦生活。  いつしか優しい嘘も、張りつめた距離も崩れていく。  すれ違いの中で募っていく想い。交錯する家同士の事情、嫉妬、そして隠されていた過去。  それでも、何度でも惹かれ合う二人の先にあったのは、『家族』という名の奇跡だった。  真実の愛を知ったとき、男はその名すら捨てて、彼女の人生を選んだ――  これは、ただ一度きりの契約が、本当の運命へ変わるまでの物語。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...