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第23話 秀介side
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◇ ◇ ◇
秀介の父親は国内有数の大学病院で教授を務める医者で、母親は有名企業の社長令嬢である。2人の出会いは大学病院の懇親会に母親が訪れていたのがきっかけだった。そこから話が弾んでとんとん拍子に結婚まで進み、秀介が生まれた。
彼は物心ついた時には、自分もゆくゆくは医者になるものだと思っていた。父親は心臓血管外科医と救急医を兼ねているのもあって家にいない日が殆どだったが、たまに帰って来た時には好きなおもちゃを買ってくれたり勉強を教えてくれたり。更にはおもちゃ風の模型を用意して手術方法を簡単に解説したりもしてくれた。
秀介は両親から暴力を振るわれたり、怒鳴られたりした体験は一切ない。怒ると言っても何がいけなかったのかをしっかり説明されたりするくらいで、いい意味で放任主義な育児の元で育ったのだった。咲良とは正反対の環境と言えるだろう。
当たり前のように中高一貫校へ進学した後は、その穏やかで棘のない性格とアイドル顔負けの外見から両性にモテる人気者になる。クラスメイトの女子から告白されるのもしょっちゅうだったが、当時まだ男女の付き合いへぴんと来るものが無かった為、断り続けていた。
そんな秀介が咲良の存在を知ったのは、彼が卒業を控えた高校3年時の冬。この時咲良は1年生。秀介は既に推薦で進学が決まっており、後は来るべき入学に向けての準備を進めている段階だった。学校の図書館で秀介が何度も繰り返し読んでいる医学書を3冊ほど借りたのが、咲良を知るきっかけとなる。
――これ、借ります。
いつものように本を借りた後は、教室に戻って黙々と読み進めていく。2冊ほど読み終えた所で秀介はある事実に気がついた。
――俺の後、どれも「中崎咲良」って子が借りてるのな……。
図書館に収蔵されている本の最後の頁には、これまで借りてきた生徒達の名前を書くカードが収められている。そして3冊ともに秀介の後には咲良の名前が記されていたのだ。
――どれも借りてるなんて、医療系に興味がある子かな?
そう考えた秀介は、再び本の最後の頁をめくり、カードを確認する。咲良が1年の生徒だと知った秀介は、遠くから彼女のいる教室を眺めてみる事にした。
彼の視界に映し出されたのは、静かにノートへペンを走らせる咲良の姿である。
――勉強熱心な子だなあ。
ちなみにこの時、咲良は勉強していたのではない。秀介との妄想を小説にして書きなぐっていただけである。秀介に見られているとはつゆ知らずに。
執筆していた内容は、クリスマスに1人でコンビニに立ち寄っていた所、秀介と遭遇し彼と近くにあるイルミネーションスポットへ赴き、手を握りながら夜を満喫すると言うもの。彼女の健全さと純粋さと好意がこれでもかとつまったものだ。
結局秀介はこれ以上咲良への接触を試みる事はしなかった。
その後も自分がよく借りる本には必ずと言っていい程咲良の名前を見つける。
――これもだ。中崎さんの名前がある。
だが、自分を追いかけてきたりつきまとったりする気配は全くない。図書室で一度すれ違っただけで、彼女はおどおどしながら会釈した位だ。
秀介が教室を遠くから覗けば、咲良は必ずと言っていい程黙々とノートに何かを書いている。
――ひょっとして、俺と気が合うのかな? なんてね……
そして卒業式が目前に迫ったある登校日。周囲の女子から好意の目を向けられながら廊下を歩いていると、ある異変に気がつく。
――やば、ハンカチが無い。どこで落としたかなあ……
一度教室に戻ると、クラスメイトの男子から自分の机を指差される。
――あれ、春日のハンカチだろ?
淡い水色のハンカチはまさに自分のものだ。誰が拾ったのかをクラスメイトに聞くと、1年の中崎っていう女子が拾ってくれたと返って来る。
――お前モテるしさ、あの子も帰って来るまで待ってるのかな~って思ったけど、さっさと帰ってったな。なんていうの? すっごい緊張してたな。お前目当てって感じはしなかったつぅか……
机の上に置かれたハンカチを手に取ると、遠くから眺めていた彼女の横顔がぼんやりと脳裏によぎった。それと同時に胸の奥に矢が刺さったような感覚がしたのも覚えている。
――俺目当てじゃない、か……。そんな女子もいるんだ。なんか逆に気になって来たかも。
だが結局彼女にお礼を言えぬまま卒業し、疎遠になってしまった秀介。大学時代も夢で彼女が出てきたりと少しだけ意識する事はあった。とはいえこうしてまた会う日が来るなんて夢にも思っていなかったのである。
秀介の行きつけである居酒屋を訪れた時。既に席にいた彼女の横顔は、当時のそれと殆ど変わらなかった。その瞬間、彼の胸の中でくすぶり続けていた謎の感情は確信へと変わる。
――このチャンスを逃しちゃ絶対にダメだ。
こうして秀介は咲良に声をかける。
会話が弾んだ後彼女があそこまで泥酔するとは完全に予想外だったものの、色気めいた姿はもはや彼の理性を崩し、定まらなかった感情を固定させるのに十分すぎる威力だった。
秀介の父親は国内有数の大学病院で教授を務める医者で、母親は有名企業の社長令嬢である。2人の出会いは大学病院の懇親会に母親が訪れていたのがきっかけだった。そこから話が弾んでとんとん拍子に結婚まで進み、秀介が生まれた。
彼は物心ついた時には、自分もゆくゆくは医者になるものだと思っていた。父親は心臓血管外科医と救急医を兼ねているのもあって家にいない日が殆どだったが、たまに帰って来た時には好きなおもちゃを買ってくれたり勉強を教えてくれたり。更にはおもちゃ風の模型を用意して手術方法を簡単に解説したりもしてくれた。
秀介は両親から暴力を振るわれたり、怒鳴られたりした体験は一切ない。怒ると言っても何がいけなかったのかをしっかり説明されたりするくらいで、いい意味で放任主義な育児の元で育ったのだった。咲良とは正反対の環境と言えるだろう。
当たり前のように中高一貫校へ進学した後は、その穏やかで棘のない性格とアイドル顔負けの外見から両性にモテる人気者になる。クラスメイトの女子から告白されるのもしょっちゅうだったが、当時まだ男女の付き合いへぴんと来るものが無かった為、断り続けていた。
そんな秀介が咲良の存在を知ったのは、彼が卒業を控えた高校3年時の冬。この時咲良は1年生。秀介は既に推薦で進学が決まっており、後は来るべき入学に向けての準備を進めている段階だった。学校の図書館で秀介が何度も繰り返し読んでいる医学書を3冊ほど借りたのが、咲良を知るきっかけとなる。
――これ、借ります。
いつものように本を借りた後は、教室に戻って黙々と読み進めていく。2冊ほど読み終えた所で秀介はある事実に気がついた。
――俺の後、どれも「中崎咲良」って子が借りてるのな……。
図書館に収蔵されている本の最後の頁には、これまで借りてきた生徒達の名前を書くカードが収められている。そして3冊ともに秀介の後には咲良の名前が記されていたのだ。
――どれも借りてるなんて、医療系に興味がある子かな?
そう考えた秀介は、再び本の最後の頁をめくり、カードを確認する。咲良が1年の生徒だと知った秀介は、遠くから彼女のいる教室を眺めてみる事にした。
彼の視界に映し出されたのは、静かにノートへペンを走らせる咲良の姿である。
――勉強熱心な子だなあ。
ちなみにこの時、咲良は勉強していたのではない。秀介との妄想を小説にして書きなぐっていただけである。秀介に見られているとはつゆ知らずに。
執筆していた内容は、クリスマスに1人でコンビニに立ち寄っていた所、秀介と遭遇し彼と近くにあるイルミネーションスポットへ赴き、手を握りながら夜を満喫すると言うもの。彼女の健全さと純粋さと好意がこれでもかとつまったものだ。
結局秀介はこれ以上咲良への接触を試みる事はしなかった。
その後も自分がよく借りる本には必ずと言っていい程咲良の名前を見つける。
――これもだ。中崎さんの名前がある。
だが、自分を追いかけてきたりつきまとったりする気配は全くない。図書室で一度すれ違っただけで、彼女はおどおどしながら会釈した位だ。
秀介が教室を遠くから覗けば、咲良は必ずと言っていい程黙々とノートに何かを書いている。
――ひょっとして、俺と気が合うのかな? なんてね……
そして卒業式が目前に迫ったある登校日。周囲の女子から好意の目を向けられながら廊下を歩いていると、ある異変に気がつく。
――やば、ハンカチが無い。どこで落としたかなあ……
一度教室に戻ると、クラスメイトの男子から自分の机を指差される。
――あれ、春日のハンカチだろ?
淡い水色のハンカチはまさに自分のものだ。誰が拾ったのかをクラスメイトに聞くと、1年の中崎っていう女子が拾ってくれたと返って来る。
――お前モテるしさ、あの子も帰って来るまで待ってるのかな~って思ったけど、さっさと帰ってったな。なんていうの? すっごい緊張してたな。お前目当てって感じはしなかったつぅか……
机の上に置かれたハンカチを手に取ると、遠くから眺めていた彼女の横顔がぼんやりと脳裏によぎった。それと同時に胸の奥に矢が刺さったような感覚がしたのも覚えている。
――俺目当てじゃない、か……。そんな女子もいるんだ。なんか逆に気になって来たかも。
だが結局彼女にお礼を言えぬまま卒業し、疎遠になってしまった秀介。大学時代も夢で彼女が出てきたりと少しだけ意識する事はあった。とはいえこうしてまた会う日が来るなんて夢にも思っていなかったのである。
秀介の行きつけである居酒屋を訪れた時。既に席にいた彼女の横顔は、当時のそれと殆ど変わらなかった。その瞬間、彼の胸の中でくすぶり続けていた謎の感情は確信へと変わる。
――このチャンスを逃しちゃ絶対にダメだ。
こうして秀介は咲良に声をかける。
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