ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違って淫らな模様です

二位関りをん

文字の大きさ
26 / 41

第25話 送り主の名前

しおりを挟む
 この日は初めて秀介と手を握りしめて就寝した。彼の美しい芸術作品の如き繊細な手つきに包まれているだけで安心感は桁違い。それに非現実さも感じる事が出来てある意味一粒で二度おいしい体験を得たのである。
 そのおかげか翌日、咲良は予想以上にしゃきっと目を覚ました。自分から見て左側ではまだ秀介がぐっすり眠っているのを目に焼き付けてから、台所へ向かう。

(よし。今日は手の込んだお弁当にしよっと)

 生姜焼きに卵焼き、ピーマンとキノコに鰹節をふりかけた炒め物などを用意していると、秀介が目をこすりながらおはよう~~と台所に姿を現す。
 まだ眠たそうにしている彼の姿は可愛らしい。それでいて端正な顔立ちは全く崩れていないのだからずるさもある。

「おはようございます。先輩」
「良い匂いがする。昨日はよく眠れた?」
「はい。先輩のおかげです」
「よかった。今度から眠れない時もそうでない時もぎゅっと握りしめてあげるから」

 穏やかに笑う顔は本当に頼もしい。弁当の残りに納豆などを用意した朝食を食べ終えた後は、出勤する彼を玄関で見送る。

「咲良。もし母親が来ても出なくていいからな。松原さん達にも伝えておく。業者以外は俺の許可なく立ち入らないようにしてくれって」
「ありがとうございます。その方が助かります」
「そうだろ? 君は余計な事考えなくていい。俺の事だけに集中して」
「なんだかそう言ってくれて嬉しいです。先輩、今日もお気をつけて」

 額にキスを落とされ、黒いリュックを背負った彼の背中をじっと見つめる。がちゃりと扉が閉まった音がすると、1人になった事を実感させられた。

(もう出ない。お母さんと一緒にいるよりも、先輩と一緒にいた方が楽しい。それに実家に戻ったって私の居場所はないんだもの)

 頼むから来ないでくれ。そう願った咲良は寂しさを打ち消すようにテレビをつけた。

「こんなの、やってるんだ」

 映し出されたのは韓国ドラマ。宮廷を舞台としたもので、夕暮れを背に古風な宮殿の中、ヒロインとヒーローが抱きしめあっている様子が見て取れる。

(王子様の先輩と町娘な私の禁断の愛……なんてのも想像したっけ)

 ちなみに完成した小説はまだ秀介には見せていない。そこで咲良はあるアイデアを思いついた。

(特別にファンタジーなストーリーも書いちゃおっか)

 すぐにスマホを手に取り、文字を打ち込んでいく。
 秀介はある国の若き国王で、運命の花嫁を探す為に変装をして街に繰り出している。自分は下町で花屋を営んでいる女性。下町の人々は優しくて気さくで何かあったらいつも相談に乗ってくれる。
 花屋に眼を付けた国王がやってきて、女性と運命の恋に落ちる――。あらすじを考えただけでも咲良の胸はトキメキが止まらない。

「ふふっ、楽しい! 今の世界もいいけど、ファンタジーな異世界もいいかも……!」

 そうして設定を考えているうちに昼が来る。さすがに母親の件があった為、ここから外に出るのは怖い。しかし幸運にも冷蔵庫には食材がぎっしりつまっているので、それらを使ってスープにして頂く事にした。

(このスープもなんだか、ファンタジーの世界に出てくるような感じがする)

 自分の妄想を昂らせながら食事を終えた後、インターホンが鳴った。音を聞いた瞬間咲良の心臓がどきりと跳ねる。
 嫌な予感を抱えながら咲良が画面を確認すると、そこには秀介の医療秘書である博則が松原と共に並んで立っていた。彼の特徴的な天然パーマヘアは汗のせいか、べっちゃりとトーンダウンしている。

「松原さんと矢木さん……! お世話になっております!」
「松原でございます。咲良さん、今お時間よろしいでしょうか?」
「あ、はい!」
「どうもお世話になっております、矢木です! 咲良さん、唐突で申し訳ございませんがご自宅お邪魔させていただきます!」

 なぜ博則がここにいるのかと言う疑問を覚えた咲良は、洗面台の鏡を見ながら髪を梳き、恐る恐る玄関のドアを開く。すると博則が白い紙袋を持っている全身像が見えた。

「矢木さん、その紙袋は……」
「ああ……今からご説明させていただきますね。もし可能でしたらこの後大学病院にお越しいただく事は可能でしょうか?」
「はい。大丈夫ですよ」

 2人をリビングに招き、コップに温かいお茶を注いで机に置く。博則は相当喉が渇いていたのかすぐに飲み干してしまった。

「はあ……今日、こちらへお越しいただいた理由についてご説明いたしますね。実はうち、最近変な手紙が春日先生宛に届くようになったんですね」
「変な手紙?」
「こちらです!」

 手紙は既に博則が確認したのか封が開けられていた。中を読んでみると、以前ストーカーから届いたものと同じ筆跡かつ内容の文言が記されている。
 そしてもう2枚ほどは、今結婚している妻とは別れるように迫る脅迫めいたものだった。

(うわっ……怖い。でもこっちの怖くない方は見覚えある)
「これ、うちによく届く花束の……!」
「咲良さんそうなんです。そして今日、また花束が届いたのですが、送り主が記されていたのですよ……!」
「えっ松原さん……?!」

 博則の左隣に座る松原がすっと薄い伝票のような紙を差し出してきた。そこに書かれてあったのは咲良の実家の住所と楓華の名前だった。

「え、楓華さん?!」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

婚活に疲れたアラサーOLの私、癒やし的存在の弟分(高校生)に「もう待てない」と外堀を埋められています ~10年分の執着は、甘すぎて重すぎる~

ダルい
恋愛
「29歳? 子供産むならもっと若い子がよかったな」  中堅企業で働く早川結衣(29)は、婚活市場における年齢の壁と、デリカシーのない男たちにすり減らされる日々を送っていた。  そんな結衣の唯一の癒やしは、マンションの隣に住む幼馴染の高校生・瀬戸湊(16)。  両親が共働きの彼に代わって、幼い頃はお世話をしてあげていた……はずが、いつの間にか立場は逆転。 手料理を振る舞われ、愚痴を聞かれ、マッサージまでされる始末。「湊がお嫁さんならいいのに」なんて冗談を言っていたけれど。 「今の結衣姉が一番綺麗だよ。……早く、誰も手出しできない『おばさん』になってくれればいいのに」  可愛い弟分だと思っていた彼が、時折見せる『オス』の顔。 16歳の高校生と、もうすぐ30歳のアラサー。  13歳差の常識と理性に抗いながら、生意気な年下男子に外堀を埋められていく、甘くて重い現状維持(ラブストーリー)。 「俺が大人になるまで、誰とも結婚しないで」 癒やされたいすべての女性に贈る、最強の年下幼馴染による溺愛包囲網、開始。

諦めて身を引いたのに、エリート外交官にお腹の子ごと溺愛で包まれました

桜井 響華
恋愛
旧題:自分から身を引いたはずなのに、見つかってしまいました!~外交官のパパは大好きなママと娘を愛し尽くす ꒰ঌシークレットベビー婚໒꒱ 外交官×傷心ヒロイン 海外雑貨店のバイヤーをしている明莉は、いつものようにフィンランドに買い付けに出かける。 買い付けの直前、長年付き合っていて結婚秒読みだと思われていた、彼氏に振られてしまう。 明莉は飛行機の中でも、振られた彼氏のことばかり考えてしまっていた。 目的地の空港に着き、フラフラと歩いていると……急ぎ足の知らない誰かが明莉にぶつかってきた。 明莉はよろめいてしまい、キャリーケースにぶつかって転んでしまう。そして、手提げのバッグの中身が出てしまい、フロアに散らばる。そんな時、高身長のイケメンが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのだが── 2025/02/06始まり~04/28完結

政略結婚の相手は、御曹司の元カレでした〜冷たいはずの彼が甘過ぎて困ってます〜

蓮恭
恋愛
『契約からはじまる、真実の愛――冷徹御曹司と、再会から紡ぐ一途な結婚譚』 「――もう、他人のままでいられないと思った」  美しいが、一見地味で物静か、けれどどこか品を纏った静香と、頭脳明晰で冷徹と噂される若き副社長の礼司。  六年前、身分違いの恋に終止符を打った二人が再会したのは――政略結婚の書類の上だった。  契約から始まる一年という期限付きの夫婦生活。  いつしか優しい嘘も、張りつめた距離も崩れていく。  すれ違いの中で募っていく想い。交錯する家同士の事情、嫉妬、そして隠されていた過去。  それでも、何度でも惹かれ合う二人の先にあったのは、『家族』という名の奇跡だった。  真実の愛を知ったとき、男はその名すら捨てて、彼女の人生を選んだ――  これは、ただ一度きりの契約が、本当の運命へ変わるまでの物語。

『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』

星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】 経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。 なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。 「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」 階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。 全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに! 「頬が赤い。必要だ」 「君を、大事にしたい」 真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。 さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!? これは健康管理?それとも恋愛? ――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...