婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

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第1話 婚約破棄と家出

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 私のいる家へとアポもなく、勝手にずかずかとやって来たのは私の婚約者。
 そんな彼から突然言い渡されたのは、私との婚約破棄だった。
 
「ジャスミン、君との婚約を破棄したい」

 ……あれだけ私を束縛しておいてその台詞。これまで私が舞踏会で別の男と踊っていただけで、ネチネチ文句を言っていた癖に。私はニコッと笑ってそうですか。と返す。

「……悲しんだりしないのか」
「あら、未練がお有りで? ジョージ様?」
「なっ……そう言う君はどうなんだい?!」

 この男、ジョージは実に面白くない、くだらない男だ。陰気で不器用で束縛癖のある男。容姿も地味。私の家と同じ格式高い侯爵家とはいえこんな男と結婚生活なんて、こちらから願い下げと言いたい。
 これまで内心そう考えていたのだった。だが、両親はこの結婚を熱望していたし、そして、妹は頼りがいが無くわがままな子(たまに良いところもあるけど)なのでずっと我慢してきたのだった。

「あら。まさか婚約破棄した後…またどなたかと婚約するんでして?」
「あ、ああ。君の妹だ」

 すると、私達の話を聞いた妹・ジュナがゆっくりと歩いてやって来た。
 ジュナはニコニコと笑顔を浮かべている。

「お姉様。私この方と結婚するの!」

 というジョージの左腕を抱きながら勝ち誇った笑みを浮かべるジュナ。
 勿論、ジュナが最近ジョージと夜会や舞踏会で仲を深めていたのは知っていた。
 しかし、そこまで話が進んでいたとは……驚きだ。両親は知っているのだろうか?
 そう考えていると、両親がやって来た。

「ジャスミン、話すのが遅くなってごめんなさいね」
「やはり、姉のお前よりジュナの方が相手として適していると思ってな」

 両親は元来、ジュナをずっとずっと可愛がって来た。しかし姉の私には花嫁教育、社交界教育……教育、教育、教育ばかり。厳しかったのだ。
 あれだけ厳しく教育しておいて、最後はこれか。

「ジュナ……姉の分まで幸せになるのよ」

 とりあえずは、そうジュナに告げたのだった。

「そんなの、お姉様に言われなくても分かってるわ。ふふっ。お姉様はもう、この家から居場所は無くなるわね。かわいそうに。ふふっ」
「ジャスミン。もうお前は好きなように生きよ」
「お父様……」
(用済みって事か)

 私はそんな彼らを置いて部屋から退出したのだった。
 自室へと戻ると、私はベッドに思いっきりダイブし、周囲へ声が漏れないように小声でやったーー!!!と叫んだのだった。

(よし、よし! ナイス妹そしてお父様!! これを口実に家を出る事が出来る!!)

 そうだ。私は兼ねてより夢があった。それは家を出て宮廷で薬師として働く事だ。
 何故なら昔から薬や医学に興味があるからだ。東方由来の薬膳なるものにも興味がある。
 過酷なのは分かってはいるが、それでも憧れてきた場所だ。そう簡単には諦められないでいた。

(もし王族に気に入られれば……妾にもなれる可能性がある)

 だが、妾や妃なんかには興味は無い。令嬢の地位もしがらみも捨てて新しく人生を切り開いていきたいのだ。好きなものに熱中していたい。
 色々口うるさかった両親からも離れて、自分の好きに生きてやる。

(実家なんて妹に任せておけば良い。めんどくさい)

 そう決意してからは早かった。両親はなんだかんだで私を実家に置いてくれたのは非常に助かった。あれだけ勉強勉強教育教育言っていたのが全く口にしなくなったのも、却って楽になった。
 私は家族に内緒で薬師になるための勉強をし、資格を取ってすぐに宮廷へ履歴書を書いて送ると、妹には外出と嘘をつき、宮廷にて面接を受けた。

 そして……。

「ジャスミン・ヨージス様。合格です」

 医薬師長から直々に宮廷にて、合格を頂いたのだった。

「早速ですけど、明日から出仕出来るでしょうか?」

 医薬師長……ハイダからそう尋ねられる。だが、明日は妹とジョージの結婚式で、私も参列するように両親から言われている。

「明日は……結婚式が」
「ああ、思い出したわ。ジュナ様が結婚なさると」
「そうです」
「……大変でしょう」

 ハイダが私を気遣う表情を見せてくれた。それにしてもハイダには大人の余裕のような、そのような雰囲気が垣間伺える。すらりとしていて、茶髪を束ね、艷やかな肌から感じさせる品の高さはまるで貴族出身のようにも見受けられる。

「大丈夫です。抜け出してきます」
「本当に? 大丈夫なんです?」
「……任せてください。今から家出します。寝泊まりは宮廷内の部屋になるんですよね?」

 私は宮廷を飛び出し、家に帰ると結婚式のムード高まる廊下を早歩きで通って自室へ戻り、トランクにドレスや服に日用品なんかを大量に詰める分だけ詰めた。

「よし」

 両親とジュナへの挨拶は……しなくて良いか。私の事なぞ今は眼中に無い。
 私はさっさと家から出ていく。しかし。

「あら、お姉様?」

 ジュナに見つかった。ジュナは腕組みをして目を細めつつじろりと私を睨みつける。

「その荷物はなんですの?」
「あなたには関係無いわ」
「ふん。明日の結婚式の準備には見えないけれど」

 いかにも悪女らしい振る舞いをしてくる妹はとりあえず無視して、そのまま家を出たのだった。

「すみません医薬師長。遅くなりました!」
「ジャスミン様……」
「ジャスミンで良いです。もう、あんな家には戻る気は無いので」
「そ、そうですか……」

 私はまだ動揺が残るハイダに、早速部屋を紹介してもらった。

「部屋は個室なんですか?」
「ええ。元は2人部屋だったのですが、脱走などトラブルがあったもので……」

 隣の部屋も、その隣の部屋も個室だ。自室の三分の一程の広さだが、気にはならない。
 するとかつかつと威勢の良い靴音が聞こえてきた。

「!」
「王太子殿下!」

 目の前に現れたのは、王太子殿下……アダン様だった。見目麗しく、ほんの少し幼さが残る顔つきをした人物だ。金色の髪はさらさらで、やや白目の肌は服と映えて見える。

「君……もしかしてヨージス家のジャスミンじゃないか? ハイダあってる?」
「アダン様……」
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