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第29話 甘えていたい
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明後日がユングミル城を離れて宮廷に戻る日となる。アダン様への診察を終えた私は、部屋から退出しようとするといきなり後ろからアダン様に抱きつかれた。
彼の爽やかで少し淫靡な雰囲気の漂う香水の匂いがふわっと鼻の奥まで届く。
「あっ、どうかしましたか?」
「ちょっとだけ、こうさせて」
まるで子供が母親に甘えるような声で、私の右肩に顔を埋める。
私は母親に甘えた事はあっただろうか。
「ジャスミン、あなたは貴族令嬢でジュナの姉なのだからしっかりなさい。甘えを見せてはだめよ」
「はい、お母様」
物心ついた時から、誰かに甘えられてはいない気がする。
「ジャスミン?」
何かを感じ取ったようなアダン様の口調。私は目を細めながら、胸の内を正直に話す事にした。
「私、物心ついた時から誰かにそうして甘えた事あったっけと思い返していまして」
「……あった?」
「記憶の限りでは、無いかと。妹もいましたし両親は厳しかったので」
「そっか……じゃあ、俺で良かったら甘えてよ」
「へっ?!」
「俺も幼い時に母上を亡くしているし、父上は多忙だからなんとなくジャスミンの気持ち分かるよ」
アダン様が腕を解き、私の身体の向きを変えると真正面から抱き締め、頭を優しく撫でた。
「ずっとずっと、甘えていいから」
「アダン様……」
(嬉しい)
誰かにこうして甘く構ってもらえるのは、こんなに嬉しいのか。
「ありがとうございます……」
なんでか分からず、涙がほろりほろりと両目から流れ出した。それを見たアダン様が、やや慌てるような顔つきに変わる。
「あっ、ハンカチいる?! 俺の使っていいから!」
「大丈夫、でず。自分のありまず。嬉しくて、づい……」
「そっか……落ち着くまでここにいな。落ち着くまでずっとジャスミンを抱き締めるから」
「ありがとう、ございます」
その日の夕方。届いたばかりの薬の入った荷物を確認している時、メイドが私を呼ぶ。
「私ですか?」
「王妃様がお呼びです」
ハイダが気をつけて。とアイコンタクトを私にばちって送った。私はメイドに連れられ、王妃アネーラのいる部屋に入る。
「ジャスミンです」
「どうぞ」
「失礼いたします」
「ジャスミン、忙しい所あなたを呼んで悪かったわね。手短に話すわ」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
窓側の椅子に黒いフリルを幾重にも纏わせた真っ赤なドレスを身にまとった王妃アネーラが座っている。
彼女の放つ圧に、蹴落とされてしまいそうな自分がいた。
「単刀直入に言うけど、あなた。アダンから寵愛を受けているみたいね」
「え」
「隠したって無駄よ。私にはお見通し。あなたがヨージス侯爵家出身の令嬢で、婚約破棄された事もあるってね」
(そこまで知ってるのか……!)
ジョージとの婚約破棄まで知られていた事に、私は動揺を隠しきれない。一番の動揺は多分、アダン様との逢瀬について知られている部分な気はする。
「侯爵家出身の令嬢なら、王太子妃になるのも許されるでしょう。元奴隷の私と違って。なのになぜ薬師にこだわるのかしら? 何か企んでもいるの?」
彼の爽やかで少し淫靡な雰囲気の漂う香水の匂いがふわっと鼻の奥まで届く。
「あっ、どうかしましたか?」
「ちょっとだけ、こうさせて」
まるで子供が母親に甘えるような声で、私の右肩に顔を埋める。
私は母親に甘えた事はあっただろうか。
「ジャスミン、あなたは貴族令嬢でジュナの姉なのだからしっかりなさい。甘えを見せてはだめよ」
「はい、お母様」
物心ついた時から、誰かに甘えられてはいない気がする。
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何かを感じ取ったようなアダン様の口調。私は目を細めながら、胸の内を正直に話す事にした。
「私、物心ついた時から誰かにそうして甘えた事あったっけと思い返していまして」
「……あった?」
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「そっか……じゃあ、俺で良かったら甘えてよ」
「へっ?!」
「俺も幼い時に母上を亡くしているし、父上は多忙だからなんとなくジャスミンの気持ち分かるよ」
アダン様が腕を解き、私の身体の向きを変えると真正面から抱き締め、頭を優しく撫でた。
「ずっとずっと、甘えていいから」
「アダン様……」
(嬉しい)
誰かにこうして甘く構ってもらえるのは、こんなに嬉しいのか。
「ありがとうございます……」
なんでか分からず、涙がほろりほろりと両目から流れ出した。それを見たアダン様が、やや慌てるような顔つきに変わる。
「あっ、ハンカチいる?! 俺の使っていいから!」
「大丈夫、でず。自分のありまず。嬉しくて、づい……」
「そっか……落ち着くまでここにいな。落ち着くまでずっとジャスミンを抱き締めるから」
「ありがとう、ございます」
その日の夕方。届いたばかりの薬の入った荷物を確認している時、メイドが私を呼ぶ。
「私ですか?」
「王妃様がお呼びです」
ハイダが気をつけて。とアイコンタクトを私にばちって送った。私はメイドに連れられ、王妃アネーラのいる部屋に入る。
「ジャスミンです」
「どうぞ」
「失礼いたします」
「ジャスミン、忙しい所あなたを呼んで悪かったわね。手短に話すわ」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
窓側の椅子に黒いフリルを幾重にも纏わせた真っ赤なドレスを身にまとった王妃アネーラが座っている。
彼女の放つ圧に、蹴落とされてしまいそうな自分がいた。
「単刀直入に言うけど、あなた。アダンから寵愛を受けているみたいね」
「え」
「隠したって無駄よ。私にはお見通し。あなたがヨージス侯爵家出身の令嬢で、婚約破棄された事もあるってね」
(そこまで知ってるのか……!)
ジョージとの婚約破棄まで知られていた事に、私は動揺を隠しきれない。一番の動揺は多分、アダン様との逢瀬について知られている部分な気はする。
「侯爵家出身の令嬢なら、王太子妃になるのも許されるでしょう。元奴隷の私と違って。なのになぜ薬師にこだわるのかしら? 何か企んでもいるの?」
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