49 / 88
ジュナ視点⑥ 私は欲しかっただけなのに
しおりを挟む
朝、この日の私はいつも以上に目覚めが良かった。しゃきっと起床できたが、胸の中には言語化できない黒いもやもやがたまっている。
「おなかすいた……」
寝間着のまま食堂に向かうと、母親がいた。まだ父親とジョージ様は来ていないようだ。
「お母様おはよう」
「おはようジュナ」
「おなかすいた」
「あらもう?」
「うん。早く食べたい」
今日の朝食はいつも通りのパンにスクランブルエッグ。そしてソーセージときのこのポタージュスープだ。
「美味しい」
いつになく朝食が美味しく感じられる。私はそのまま朝食を頂き、自室に戻って私服とお化粧をしていると部屋の向こうからがやがやと誰かが騒ぐ音が聞こえて来る。
「何かしら」
するとばたばたがしゃがしゃとした靴音がこちらに向かってきたと思うと部屋の扉が乱暴に開かれた。
「ジュナ・ヨージス! 貴様を捕縛し宮廷へと連行する!」
「はっ?」
私は乱暴に武装した屈強な兵達に両手を後ろに回されてそのまま取り押さえられた。縄で痛いくらいに縛り上げられ、歩くように命じられる。
私は侯爵令嬢よ? 何よこの仕打ち。
「ほら! さっさと歩いて馬車に乗れ!!」
「なっ……!」
両親もジョージ様も後ろからじっと見つめているだけだ。動く気配も何かを話す気配もない。3人の両端にはこれまた武装した兵が取り囲んでいる。
私は兵に言われた通りに馬車に乗り込む。これは、罪人用の馬車ではないか。
「私、罪人なの?」
そう兵士に問うが無視された。
その子私は出禁にされていた宮廷に連行されて、王太子殿下の前に引き出された。
「ジュナ・ヨージスか?」
「はい、王太子殿下」
王太子殿下の目には明らかに殺気が宿っている。私がその殺気に圧倒されているのは自分でも分かるくらいだ。
しばらくしてお姉様ともう1人華奢な女が来た。お姉様は相変わらずだらしない見た目だ。それにお化粧も地味。お姉様を見ているだけでイライラする。
(ふん、何よあれ)
やっぱり、王太子殿下とお姉様は仲が良いんだ。そうじゃないならわざわざお姉様をこの場に連れては来ないはず。
「では再度聞こう。ジュナ・ヨージス。不貞は事実か?」
「いいえ、王太子殿下。全て執事の妄言ですわ」
「未だ否定するか。もう証拠は出ているのだぞ」
「だから、その証拠も全て嘘よ」
そう、その場しのぎの嘘をついたが次々と証拠が露わになる。あの執事め、ここまでバラすなんて。
「はい、認めます。王太子殿下」
「ようやく認めたか。理由は?」
「欲しかったからです」
欲しかった。だって幼い頃から欲しいものは全て手に入れてきたのだから、欲しいのは当たり前じゃない。
「ジュナ、あなたジョージがいるじゃない」
「お姉様が羨ましかった。それにジョージ様では物足りなくなっちゃったの」
「なんで羨ましかったの?」
「薬師になって、王太子殿下を手に入れようとしているんでしょ?」
そうだ。お姉様は王太子殿下を手に入れようとしているんでしょう?
そう考えていたら、お姉様の顔はみるみるうちに殺気めいたものに変わっていった。
「ジュナ。あなたも私と同じ目に合えばよかったのに。だったら私の事も理解出来たでしょう。私は令嬢としての暮らしに嫌気がさして、なりたかった薬師になっただけ。まあ、あなたには分からないでしょうね」
「……」
私を呪うような声音で、その言葉をなげかけたお姉様に私は記憶している限りでは初めて恐怖を抱き、言葉が出なかったのだった。
「では、父上に報告する。しばし待て」
王太子殿下が立ち上がり、その場を後にした。無言のピリピリした空気が流れた後、彼が戻って来た。
「ジュナ・ヨージス。そなたをジョージ・ヨージスと離縁のち流刑の処分と致す。そしてヨージス家は侯爵から伯爵家に降格と致す。以上だ」
こうして、私は断罪された。
ジョージ様とは正式に離縁した。離縁を示す書類にサインする時も、ジョージ様は終始私に話しかける事は無かったのだった。
流刑先は北部の国境付近の修道院。そこは修道院になる前は監獄だったらしく、その施設に私は屋敷軟禁のち移送された。
「はあ、何でこうなったのか意味がわからない」
とりあえず胸の中に溜まったもやもやを口に出して吐き出しても、もやもやは消えてくれない。なので途中でやめた。
(修道院生活なんて面白くない)
修道院に到着した後、私は荒々しく馬車の中から荷物と共に降ろされた。その様子をシスター達は怯えるような目つきで見ている。
(何よ、その目)
そして私は修道院の中にある個室へと案内された。小さくて簡素で全く面白みの無い部屋。牢獄じゃないだけまだましだけど、それでも嫌という感情が湧いて出てくる。
家具は簡易ベッドと机と椅子だけ。クローゼットや化粧台などは一切ない。
「ここで暮らせと言うの?」
と口に出すと、シスター達は怯えながら国王陛下の指示なので。としか言ってくれない。
(はあ……私は欲しかっただけなのに。なんでこうなったんだろう)
お姉様は欲しいものを手に入れて、私は手に入れられないなんて納得出来ない。全部全部手に入れないと気に食わないのに。
「おなかすいた……」
寝間着のまま食堂に向かうと、母親がいた。まだ父親とジョージ様は来ていないようだ。
「お母様おはよう」
「おはようジュナ」
「おなかすいた」
「あらもう?」
「うん。早く食べたい」
今日の朝食はいつも通りのパンにスクランブルエッグ。そしてソーセージときのこのポタージュスープだ。
「美味しい」
いつになく朝食が美味しく感じられる。私はそのまま朝食を頂き、自室に戻って私服とお化粧をしていると部屋の向こうからがやがやと誰かが騒ぐ音が聞こえて来る。
「何かしら」
するとばたばたがしゃがしゃとした靴音がこちらに向かってきたと思うと部屋の扉が乱暴に開かれた。
「ジュナ・ヨージス! 貴様を捕縛し宮廷へと連行する!」
「はっ?」
私は乱暴に武装した屈強な兵達に両手を後ろに回されてそのまま取り押さえられた。縄で痛いくらいに縛り上げられ、歩くように命じられる。
私は侯爵令嬢よ? 何よこの仕打ち。
「ほら! さっさと歩いて馬車に乗れ!!」
「なっ……!」
両親もジョージ様も後ろからじっと見つめているだけだ。動く気配も何かを話す気配もない。3人の両端にはこれまた武装した兵が取り囲んでいる。
私は兵に言われた通りに馬車に乗り込む。これは、罪人用の馬車ではないか。
「私、罪人なの?」
そう兵士に問うが無視された。
その子私は出禁にされていた宮廷に連行されて、王太子殿下の前に引き出された。
「ジュナ・ヨージスか?」
「はい、王太子殿下」
王太子殿下の目には明らかに殺気が宿っている。私がその殺気に圧倒されているのは自分でも分かるくらいだ。
しばらくしてお姉様ともう1人華奢な女が来た。お姉様は相変わらずだらしない見た目だ。それにお化粧も地味。お姉様を見ているだけでイライラする。
(ふん、何よあれ)
やっぱり、王太子殿下とお姉様は仲が良いんだ。そうじゃないならわざわざお姉様をこの場に連れては来ないはず。
「では再度聞こう。ジュナ・ヨージス。不貞は事実か?」
「いいえ、王太子殿下。全て執事の妄言ですわ」
「未だ否定するか。もう証拠は出ているのだぞ」
「だから、その証拠も全て嘘よ」
そう、その場しのぎの嘘をついたが次々と証拠が露わになる。あの執事め、ここまでバラすなんて。
「はい、認めます。王太子殿下」
「ようやく認めたか。理由は?」
「欲しかったからです」
欲しかった。だって幼い頃から欲しいものは全て手に入れてきたのだから、欲しいのは当たり前じゃない。
「ジュナ、あなたジョージがいるじゃない」
「お姉様が羨ましかった。それにジョージ様では物足りなくなっちゃったの」
「なんで羨ましかったの?」
「薬師になって、王太子殿下を手に入れようとしているんでしょ?」
そうだ。お姉様は王太子殿下を手に入れようとしているんでしょう?
そう考えていたら、お姉様の顔はみるみるうちに殺気めいたものに変わっていった。
「ジュナ。あなたも私と同じ目に合えばよかったのに。だったら私の事も理解出来たでしょう。私は令嬢としての暮らしに嫌気がさして、なりたかった薬師になっただけ。まあ、あなたには分からないでしょうね」
「……」
私を呪うような声音で、その言葉をなげかけたお姉様に私は記憶している限りでは初めて恐怖を抱き、言葉が出なかったのだった。
「では、父上に報告する。しばし待て」
王太子殿下が立ち上がり、その場を後にした。無言のピリピリした空気が流れた後、彼が戻って来た。
「ジュナ・ヨージス。そなたをジョージ・ヨージスと離縁のち流刑の処分と致す。そしてヨージス家は侯爵から伯爵家に降格と致す。以上だ」
こうして、私は断罪された。
ジョージ様とは正式に離縁した。離縁を示す書類にサインする時も、ジョージ様は終始私に話しかける事は無かったのだった。
流刑先は北部の国境付近の修道院。そこは修道院になる前は監獄だったらしく、その施設に私は屋敷軟禁のち移送された。
「はあ、何でこうなったのか意味がわからない」
とりあえず胸の中に溜まったもやもやを口に出して吐き出しても、もやもやは消えてくれない。なので途中でやめた。
(修道院生活なんて面白くない)
修道院に到着した後、私は荒々しく馬車の中から荷物と共に降ろされた。その様子をシスター達は怯えるような目つきで見ている。
(何よ、その目)
そして私は修道院の中にある個室へと案内された。小さくて簡素で全く面白みの無い部屋。牢獄じゃないだけまだましだけど、それでも嫌という感情が湧いて出てくる。
家具は簡易ベッドと机と椅子だけ。クローゼットや化粧台などは一切ない。
「ここで暮らせと言うの?」
と口に出すと、シスター達は怯えながら国王陛下の指示なので。としか言ってくれない。
(はあ……私は欲しかっただけなのに。なんでこうなったんだろう)
お姉様は欲しいものを手に入れて、私は手に入れられないなんて納得出来ない。全部全部手に入れないと気に食わないのに。
20
あなたにおすすめの小説
余命一ヶ月の公爵令嬢ですが、独占欲が強すぎる天才魔術師が離してくれません!?
姫 沙羅(き さら)
恋愛
旧題:呪いをかけられて婚約解消された令嬢は、運命の相手から重い愛を注がれる
ある日、婚約者である王太子名義で贈られてきた首飾りをつけた公爵令嬢のアリーチェは、突然意識を失ってしまう。
実はその首飾りにつけられていた宝石は古代魔道具で、謎の呪いにかかってしまったアリーチェは、それを理由に王太子から婚約解消されてしまう。
王太子はアリーチェに贈り物などしていないと主張しているものの、アリーチェは偶然、王太子に他に恋人がいることを知る。
古代魔道具の呪いは、王家お抱えの高位魔術師でも解くことができない。
そこでアリーチェは、古代魔道具研究の第一人者で“天才”と名高いクロムに会いに行くことにするが……?(他サイト様にも掲載中です。)
だったら私が貰います! 婚約破棄からはじまる溺愛婚(希望)
春瀬湖子
恋愛
【2025.2.13書籍刊行になりました!ありがとうございます】
「婚約破棄の宣言がされるのなんて待ってられないわ!」
シエラ・ビスターは第一王子であり王太子であるアレクシス・ルーカンの婚約者候補筆頭なのだが、アレクシス殿下は男爵令嬢にコロッと落とされているようでエスコートすらされない日々。
しかもその男爵令嬢にも婚約者がいて⋯
我慢の限界だったシエラは父である公爵の許可が出たのをキッカケに、夜会で高らかに宣言した。
「婚約破棄してください!!」
いらないのなら私が貰うわ、と勢いのまま男爵令嬢の婚約者だったバルフにプロポーズしたシエラと、訳がわからないまま拐われるように結婚したバルフは⋯?
婚約破棄されたばかりの子爵令息×欲しいものは手に入れるタイプの公爵令嬢のラブコメです。
《2022.9.6追記》
二人の初夜の後を番外編として更新致しました!
念願の初夜を迎えた二人はー⋯?
《2022.9.24追記》
バルフ視点を更新しました!
前半でその時バルフは何を考えて⋯?のお話を。
また、後半は続編のその後のお話を更新しております。
《2023.1.1》
2人のその後の連載を始めるべくキャラ紹介を追加しました(キャサリン主人公のスピンオフが別タイトルである為)
こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
離宮に隠されるお妃様
agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか?
侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。
「何故呼ばれたか・・・わかるな?」
「何故・・・理由は存じませんが」
「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」
ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。
『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』
愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる