婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

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第53話 調査地変更か

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 食器類を返却した私はメイドの案内を受けてアダン様がいる部屋に訪れた。

「ジャスミンです。失礼します」
「どうぞ」
「失礼いたします」

 アダン様は着替えないまま椅子に座り地図を広げていた。

「アダン様もご存知かもしれませんが、目的地の町では風邪が流行しているようです。その為調査地を変更してみてはいかがでしょうか?」
「ジャスミンはどう思う?」

 そういきなり尋ねられたので、私は必死に頭の中の回路を巡らせた。

「風邪にかかり、最悪爆発的感染が起こってしまえば大変な事になってしまいます。もし私達が風邪持ち帰り、宮廷内で感染が起これば……」
「確かに、政に支障が出るね」
「それに感染が起こると、重篤化するリスクもあります。あちらでどれくらい、重篤化が起こっているかどうかまではわかりませんが……」
(考えうる意見は全て、出したけど……)

 緊張で震える私の声。アダン様は目を閉じ、ふんふんと鼻を鳴らしながら考えている。

「実に医薬師長らしき考えだ。分かった、調査地を変更しよう。目的地から西側の北西部はどうかな? そこは今特に流行り病があるという話は聞いていない」
「従者の方にも聴いてみます」
「分かった。聞いたら戻ってきてね」
「はい」

 廊下を歩く従者と屋敷のメイドを捕まえて、北西部の状況を聞いてみる。

「北西部は今の所、流行り病は聞いた事が無いですね」
「私も聞いてないです。北西部なら大丈夫かと。私も伺います」

 従者と共に部屋へと戻り、アダン様へ北西部の状況を説明した所、アダン様は椅子から立ち上がった。

「分かった。北西部へ目的地を変更する」
「アダン様畏まりました」
「了解です、王太子殿下」

 こうして、目的地の変更が正式に決定した。去り際にアダン様は私を呼び止めて、従者には部屋に戻るように伝える。

「ジャスミン、さすが医薬師長らしい行動だった」
「本当ですか?」
「ああ、もっと自信を持って良いと思う」
「はい、ありがとうございます」

 私は服の裾を持ち、丁寧に礼を返した。

「風格出てきたじゃん」
「そうでしょうか?」
「謙虚だねえ」

 アダン様は私を正面から抱き締め、頭を右手でそっと撫でる。柔らかい彼の手が心地よい。
 アダン様は私にキスをする。唇だけではなく、首元や目元に雨のように口づけを落としていく。

「このまま、ここで寝る?」
「……はい」
「可愛いね」
「……今日はもっと言って欲しい気分です」
「ははっ。ジャスミンは頑張ってるからね。沢山褒めてあげなきゃだ」
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