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第52話 薬草調査
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「よろしく、ジャスミン」
「はい。よろしくお願いします」
馬車に乗り込むのは私とアダン様、従者の計4人。荷物もあるのでちょっと中は狭く感じるが、それでもこれまで乗ってきた馬車の中で一番の乗り心地なのは変わらない。
「すみませんね、ははは……」
アダン様の隣に座る従者がそう控えめに笑いながらつぶやいた。彼はアダン様よりも2周りくらい体格が良い。筋骨隆々な男性だ。
私の隣に座る従者もまた、鍛え抜かれた肉体を持つ若い男性である。こちらは無口だが窓から見える景色に興味を持っているように見える。
すると先ほどの従者が地図をズボンのポケットから取り出して、私達へ見せてきた。
「今回向かわれる場所がこちらになります」
北部の国境近くと聞いていたが、よく見るとここはジュナが追放された場所ではないか。
「ここ……」
「ジャスミンさん、何かご存じで?」
「あ、妹が……」
「そうだね、ジャスミンの妹君がここの町の修道院に追放されたはずだ。今回調査する場所はそこからちょっと離れているし、そこの修道院には寄るつもりはないから安心してほしい」
「お心遣いありがとうございます。アダン様」
「こちらこそごめんね、この辺はまだ国境付近という事もあって調査が及んでいないのもあって」
アダン様が気遣ってくれた。確かにジュナがこの地にいるという事で胸はざわついたが、ここはまだ調査が及んでいないという事はいずれ行かなければならない場所でもあった。なら、致し方ないというものだ。
「今回しっかり調査して記録を残しましょう、アダン様」
「ああ、そうだね」
「はいっ」
「あと、アネーラからこれを預かっていて」
アダン様が私に手渡したのは、王妃アネーラ直筆と思わしきメモだった。そこには不妊や血の巡りをよくするといった婦人科系に効く薬草があれば、何個か欲しいとの内容が書かれていた。
「なるほど……わかりました」
私はアダン様にそう返事をし、彼は硬い表情で頷いた。馬車は時折揺れながらも目的地へと向かって走り続ける。
(かなり時間がかかりそうだな)
その途中、道が落石によりふさがれ、通れなくなっている場面に出くわした。仕方がないので迂回し、別の道から向かう事となる。これにより大幅に時間をロスしたため、結果的に急遽近くにある王族所有の屋敷で寝泊まりする事が決定した。
「皆すまない。明日には到着できるはずだ」
屋敷に到着後、馬車を下りたアダン様がすぐに私含め同行している者全てに向けて謝罪した。
「王太子殿下、お気になさらず」
「仕方ないですよ」
「アダン様、お気になさらないでください」
屋敷にはメイドや執事が少数常駐している。彼らに案内されて私は使用人が使う部屋で一晩泊まる事になった。
トランクを机に置き、布団の上に座る。すると私と同い年くらいのメイドが周りを伺うようにやってきて、食事はいるかと尋ねてきた。
「すみませんが、お願いします」
「わかりました、遅くなりますがよろしいですか?」
「いえ、大丈夫です」
「では、出来ましたらこちらにお持ちします」
丁寧に頭を下げ、慎重にゆっくりと退出していくメイドの背中を見送り、私は窓から外の眺めを見る。もう気が付けば日は落ちて夜の暗闇が辺りを支配している状態だ。空の方へと視線を向けると、星が点々と光っているのが見て取れた。
(星が見える)
しばらくして夕食が部屋の中に持ち込まれた。トレイの上には丸いパン2つとお肉を焼いたものとサラダが並んでいた。
「このお肉は?」
「鳥肉です。近くで狩猟したものになります」
鳥肉はスライスされたハムのように切られてお皿の上に並んでいた。さすがにハムよりかは分厚いが、それでも柔らかそうに思える。肉の上にかかった茶色いソースも見ただけで食欲が掻き立てられる。
「いただきます」
丸いパンを半分に割って、その上に鳥肉を一枚乗せて食べてみる。パンのふわっとした食感と甘さ、鳥肉のほろほろした柔らかさと甘辛なソースがとても上手く絡み合って美味しい。これは何個でも食べられそうだ。サラダも塩気があってしゃきしゃきとした葉っぱの歯ごたえが感じられる。
鳥肉に使われているソースは何だろうか、ステーキで使われているものと似ているようで、ちょっと違うような味わいもする。
「ごちそうさまでした」
あっという間に完食してしまった。完食したお皿をトレイに戻し、厨房まで返却しに行く途中、同じ馬車に乗っていたあの体格の良い従者と遭遇する。
「あの、ジャスミンさん」
「なんでしょう」
「北部へ行く予定だったのが、もしかしたら取りやめになるらしいです」
「何かあったのですか?」
「風邪が流行っているらしく、民だけでなく修道院のシスターも何人か体調不良を訴えていて大変らしいと」
「わかりました、後でアダン様とお話しします」
「そのようになさってください。まだ王太子殿下は考えている最中なので」
確かに風邪にかかって体調を崩しては、周りに支障をきたしてしまう。
(場所を変えてもらうよう、かけあってみよう)
「はい。よろしくお願いします」
馬車に乗り込むのは私とアダン様、従者の計4人。荷物もあるのでちょっと中は狭く感じるが、それでもこれまで乗ってきた馬車の中で一番の乗り心地なのは変わらない。
「すみませんね、ははは……」
アダン様の隣に座る従者がそう控えめに笑いながらつぶやいた。彼はアダン様よりも2周りくらい体格が良い。筋骨隆々な男性だ。
私の隣に座る従者もまた、鍛え抜かれた肉体を持つ若い男性である。こちらは無口だが窓から見える景色に興味を持っているように見える。
すると先ほどの従者が地図をズボンのポケットから取り出して、私達へ見せてきた。
「今回向かわれる場所がこちらになります」
北部の国境近くと聞いていたが、よく見るとここはジュナが追放された場所ではないか。
「ここ……」
「ジャスミンさん、何かご存じで?」
「あ、妹が……」
「そうだね、ジャスミンの妹君がここの町の修道院に追放されたはずだ。今回調査する場所はそこからちょっと離れているし、そこの修道院には寄るつもりはないから安心してほしい」
「お心遣いありがとうございます。アダン様」
「こちらこそごめんね、この辺はまだ国境付近という事もあって調査が及んでいないのもあって」
アダン様が気遣ってくれた。確かにジュナがこの地にいるという事で胸はざわついたが、ここはまだ調査が及んでいないという事はいずれ行かなければならない場所でもあった。なら、致し方ないというものだ。
「今回しっかり調査して記録を残しましょう、アダン様」
「ああ、そうだね」
「はいっ」
「あと、アネーラからこれを預かっていて」
アダン様が私に手渡したのは、王妃アネーラ直筆と思わしきメモだった。そこには不妊や血の巡りをよくするといった婦人科系に効く薬草があれば、何個か欲しいとの内容が書かれていた。
「なるほど……わかりました」
私はアダン様にそう返事をし、彼は硬い表情で頷いた。馬車は時折揺れながらも目的地へと向かって走り続ける。
(かなり時間がかかりそうだな)
その途中、道が落石によりふさがれ、通れなくなっている場面に出くわした。仕方がないので迂回し、別の道から向かう事となる。これにより大幅に時間をロスしたため、結果的に急遽近くにある王族所有の屋敷で寝泊まりする事が決定した。
「皆すまない。明日には到着できるはずだ」
屋敷に到着後、馬車を下りたアダン様がすぐに私含め同行している者全てに向けて謝罪した。
「王太子殿下、お気になさらず」
「仕方ないですよ」
「アダン様、お気になさらないでください」
屋敷にはメイドや執事が少数常駐している。彼らに案内されて私は使用人が使う部屋で一晩泊まる事になった。
トランクを机に置き、布団の上に座る。すると私と同い年くらいのメイドが周りを伺うようにやってきて、食事はいるかと尋ねてきた。
「すみませんが、お願いします」
「わかりました、遅くなりますがよろしいですか?」
「いえ、大丈夫です」
「では、出来ましたらこちらにお持ちします」
丁寧に頭を下げ、慎重にゆっくりと退出していくメイドの背中を見送り、私は窓から外の眺めを見る。もう気が付けば日は落ちて夜の暗闇が辺りを支配している状態だ。空の方へと視線を向けると、星が点々と光っているのが見て取れた。
(星が見える)
しばらくして夕食が部屋の中に持ち込まれた。トレイの上には丸いパン2つとお肉を焼いたものとサラダが並んでいた。
「このお肉は?」
「鳥肉です。近くで狩猟したものになります」
鳥肉はスライスされたハムのように切られてお皿の上に並んでいた。さすがにハムよりかは分厚いが、それでも柔らかそうに思える。肉の上にかかった茶色いソースも見ただけで食欲が掻き立てられる。
「いただきます」
丸いパンを半分に割って、その上に鳥肉を一枚乗せて食べてみる。パンのふわっとした食感と甘さ、鳥肉のほろほろした柔らかさと甘辛なソースがとても上手く絡み合って美味しい。これは何個でも食べられそうだ。サラダも塩気があってしゃきしゃきとした葉っぱの歯ごたえが感じられる。
鳥肉に使われているソースは何だろうか、ステーキで使われているものと似ているようで、ちょっと違うような味わいもする。
「ごちそうさまでした」
あっという間に完食してしまった。完食したお皿をトレイに戻し、厨房まで返却しに行く途中、同じ馬車に乗っていたあの体格の良い従者と遭遇する。
「あの、ジャスミンさん」
「なんでしょう」
「北部へ行く予定だったのが、もしかしたら取りやめになるらしいです」
「何かあったのですか?」
「風邪が流行っているらしく、民だけでなく修道院のシスターも何人か体調不良を訴えていて大変らしいと」
「わかりました、後でアダン様とお話しします」
「そのようになさってください。まだ王太子殿下は考えている最中なので」
確かに風邪にかかって体調を崩しては、周りに支障をきたしてしまう。
(場所を変えてもらうよう、かけあってみよう)
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