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第四章 すれ違う想い
69. 虚勢
しおりを挟む第021日―4
「ありがとう。わざわざ守ってくれたんだ? クロスボウだっけ、その武器。君も凄いね」
僕の言葉を聞いた小柄な人物は、少し拍子抜けしたような顔になった。
「ふんっ。目の前で死なれても寝覚め悪いからな。どうせヘルハウンド狩ろうと思っていたから、ついでに助けてやっただけだ」
口調は荒かったけれど、僕にはどうにも、どれが虚勢を張っているだけにしか聞こえなかった。
自然と口元が緩んでしまったのに気付かれたのだろう。
小柄な人物が、やや憮然とした表情になった。
「なんだよ、気持ち悪い顔するんじゃねえよ!」
しかしすぐに僕の反応を探るような雰囲気で、言葉を重ねてきた。
「な、なぁ、どうだ? オレは強いだろ?」
「うん、それは素直にそう思うよ。動き回るヘルハウンドの目、正確に射抜いていたしね」
「強い奴がパーティーにいれば、心強いだろ?」
「それはそうだね」
「なら、お前がどうしてもって言うなら、仲間になってやらなくもないぞ」
僕は思わず噴き出してしまった。
どうやら、この人物は冒険の仲間を探していて、でもこの性格で、あちこちで上手くいってないって事のようだ。
「おい、そこは笑うところじゃないだろ!」
「ちょっとあなた!」
ハーミルが、憤慨した様子で口を挟んできた。
「黙って聞いていたら、さっきから随分言いたい放題ね。悪いけど、あなたみたいな協調性ゼロっぽい人、こっちから願い下げよ」
僕はハーミルを宥めつつ、小柄な人物に今更だけど、自己紹介を試みた。
「ところで僕の名前はカケル。で、こっちにいるのが、もう知っていると思うけれど、ハーミル。君の名前を聞いても良いかな?」
「……オレはジュノ。最強の冒険者を目指している者だ」
「さっき仲間がどうとか話していたけれど、僕達多分、明日からしばらくは冒険の依頼こなしたりしないと思うんだ」
「は?」
「明日から、コイトス王国に招待されていてね。ちょっと最近忙しかったから、久し振りにのんびりしてくる予定なんだ」
「……剣聖仲間にして、コイトス王国に招待されているだと? お前、一体何者だ?」
「カケル、そんな奴ほっとこ」
ハーミルが僕の腕を引っ張った。
そしジュノと名乗った小柄な人物の方に向き直った。
「あなた、その辺のヘルハウンドの魔結晶あげるから、早くおうちに帰りなさい」
「なんだと? 剣聖だかなんだか知らないけど、オレとまともにやりあったら、お前でもタダじゃすまないぜ」
「どうタダじゃすまないのかしら? あなたのその止まって見えるクロスボウじゃ、目瞑っていても躱せるんですけど」
「ハーミル、止めなって」
僕はいがみ合う二人を仲裁し、ヘルハウンドの魔結晶を抜き取る作業に戻る事を促した。
結局、ジュノが15個、僕とハーミルが46個の魔結晶を手に入れた。
僕は改めて、ジュノに先程の加勢には感謝をしている事、しかし、仲間には出来ない事を説明した。
結局、僕とハーミルはヘルハウンドの追撃は行わず、日の高い内に街に戻る事にした。
ジュノもこれで引き上げるようであった。
来る時と同様、僕達が先行し、少し遅れて不貞腐れた雰囲気のジュノが付いてくる。
僕達はそのまま、来た道を逆方向に、微妙な距離感を保ちつつ、アルザスの街へ向かって歩き始めた。
アルザスの街まで戻って来たのは、西日が周囲を茜色に染め上げる時間帯であった。
僕達はそのまま、買い物客が行き交う通りを抜け、冒険者ギルドへと向かう事にした。
少し後ろから、ジュノも不貞腐れた雰囲気のまま付いてくる。
冒険者ギルドの建物の中は、今日の依頼を終えて戻って来たらしい冒険者達で混雑していた。
受付カウンターの方に視線を向けると、奥で黙々と事務仕事をしているらしいミーシアさんの姿が有った。
そのままカウンターに近付いていくと、途中で僕達に気付いたらしいミーシアさんが、笑顔で手を振ってきた。
「おかえり。どうだった?」
僕達はミーシアさんに、回収してきたヘルハウンドの魔結晶を見せた。
ミーシアさんが少し驚いたような顔になった。
「凄いじゃない。さすがは剣聖とカケル君っていったところかしら。これで、ヘルハウンドもあまり悪さ出来なくなるかもね」
話しながら、ミーシアさんが手際よく、換金のための手続きを行っていく。
「ミーシアさん、あの子……」
ハーミルが目線で、僕達の少し後ろに立っているジュノを指した。
「勝手に付いて来て、勝手にヘルハウンド倒して、オレは強いだろって」
ハーミルがミーシアさんに、今日の南の森での経緯について、やや不愉快そうに説明した。
ミーシアさんが苦笑した。
「今朝の子ね? そういえばあの子、ここ一週間程この街を拠点に冒険しているみたいなんだけど、時々他の冒険者達ともめているみたいなの」
「やっぱり問題児なんですね」
「どうだろ? 話してみたら、そんなに悪い子じゃないんだけどね」
そしてミーシアさんは、ジュノにも声を掛けた。
「あなたもヘルハウンドの魔結晶持っているんでしょ? 手続きしてあげるから、出してね」
ジュノは声を掛けられる事を予期していなかったのか、少し驚いた表情を見せた。
しかしすぐにまた不貞腐れた感じに戻って、自分の魔結晶が入った袋をどさっと受付カウンターに置いた。
ミーシアさんが袋の中身を丁寧に確認していく。
ジュノは目線を合わせないまま、僕に話しかけてきた。
「お前ら、今夜はどうするんだ?」
「明日に備えて、帝都に戻るよ」
「コイトスへはいつ行くんだ?」
僕が答えるより先に、ハーミルが声を上げた。
「ちょっと、まさかついてくるつもりじゃないでしょうね!?」
「なんだよ、オレの勝手じゃねえか」
「分からないの? 迷惑なの!」
そう言うと、ハーミルはいきなり僕の右腕に抱き付いて来た。
「ちょ、ちょっとハーミル?」
思わず声が上ずったけれど、ハーミルはジュノを睨みつけたまま、構わずぐいぐい身体を押し付けてくる。
彼女の意外と女性らしい柔らかい身体を腕に感じて、知らず鼓動が早くなるのを自覚した。
ジュノはそんな僕等の様子に、一瞬驚いたような顔をした後、舌打ちした。
「ちっ、お前ら出来てんのかよ?」
「そうよ。だから子供は早く帰りなさい」
「フンっ。いちゃつくなら他所でやれ」
ジュノは不貞腐れた表情のまま、ミーシアさんから換金証明書を受け取った。
そしてこちらを振り返ることなく、換金所の方へと去って行った。
ハーミルはジュノの後姿を睨みながら、悪態をついた。
「ホントに何なの、あいつ」
ジュノが去ったので、この“恋人同士のフリ”も必要無くなったはず、と判断した僕は、ハーミルにそっと声を掛けた。
「もうそろそろ、いいんじゃないかな?」
「よくないわよ! ホント、少しくらいお仕置きしてあげれば良かったわ!」
「そっちじゃなくてさ」
僕は自分の右腕を軽く揺すってみた。
ハッとした感じになったハーミルは、今更ながら気恥ずかしくなったのか、ぱっと僕から身を離した。
成り行きを生暖かく見守っていたらしいミーシアさんが、ハーミルに茶化すような声を掛けた。
「良かったわね、ハーミル。カケル君に抱き着く理由を作ってくれたジュノって子には、今度会ったら、お礼を言わなきゃ」
「違いますよ~」
ハーミルは顔を赤くしながら、僕に謝ってきた。
「カケルごめんね。ああでもしないと、コイトスまでついて来そうな勢いだったし」
「でも悪い子じゃなさそうだったよ?」
「ああいうのは、悪い子って言うのよ」
僕達はひとしきりミーシアさんと談笑した後、換金所へ報酬を受け取りに行った。
「結構、お金貰えたね。よ~し、コイトス行ったら、爆買いするぞ!」
これが人生初めての依頼達成しての報酬受け取りだったらしいハーミルは、無邪気に喜んでいた。
僕達は改めてミーシアさんに別れの挨拶をしてから冒険者ギルドを出た。
ちょうど日没を迎える時間帯。
見える範囲内に、ジュノの姿は無かった。
諦めて帰ったのかもしれない。
久し振りにアルザスのレストラン、『バルサムの力車亭』で夕食を一緒に楽しんだ僕達は、転移の魔法陣経由で帝都に戻る事にした。
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