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第四章 すれ違う想い
70. 南国
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第022日―1
翌日午後、コイトス行きの準備を終えた僕とハーミルは、帝都の転移の魔法陣へと向かった。
待ち合わせの30分程前には魔法陣に到着したけれど、そこには既に、先に到着していたらしいクレア様達の姿が有った。
彼女は以前会った時と似た雰囲気の、淡い色調の可愛らしいドレスを身に着けていた。
僕は彼女に頭を下げた。
「すみません、お待たせしてしまいまして」
クレア様がにっこり微笑んだ。
「いえいえ、カケル様と剣聖ハーミル様をお待たせするわけにはいかないので、私共が早くに来過ぎたのでございます」
「この度は、コイトスへご招待頂きまして、ありがとう御座います」
「私こそ、招待をお受け頂きました事、光栄で御座います」
クレア様達の一行は、キラさんと三人の護衛であろう、兵士達とを合わせて総勢五名であった。
転移の魔法陣で一度に転移できるのは五名まで。
そのため、まずクレア様達が転移して、その後、僕とハーミルが転移する事になった。
転移の光に包まれるクレア様達を見送った僕とハーミルが、続いて転移の魔法陣に入ろうとした時、一人の見知った人物が、こちらに近付いて来るのに気が付いた。
僕達よりも先に、向こうが声を上げた。
「奇遇だな。オレも今からコイトスに向かうところだ」
それはジュノであった。
ジュノは昨日と同様、黄土色のポンチョを羽織り、背中にはリュックのような大きな袋を担いでいた。
ハーミルが思いっきりジュノを睨みつけた。
「あんたねぇ。ちょっとしつこすぎるわよ?」
しかしジュノは、どこ吹く風といった雰囲気で言葉を返してきた。
「お前等もコイトスに行くんだろ? なんだったら、一緒に転移してやってもいいぜ。割り勘にすれば、お互い費用も節約出来るだろうし」
「残念でした。私達、招待されているから転移の魔法陣、使用料かからないんです!」
「ふんっ。なら正規料金、払ってやるよ。それなら文句無いだろ」
「お金の問題じゃありません! はっきり言ってあげるけど、私はあなたが嫌いなの。分かる? 嫌いな人間と一緒に行動したいって誰が思うの?」
「なんだと? 喧嘩売っているのなら買ってやるぜ」
二人のやりとりを聞いていた僕は、思わず苦笑した。
理由は不明だけど、どうやらジュノは、僕達と一緒に行動したいらしい。
僕は二人に声を掛けた。
「どうせコイトス行くなら、一緒に行こうか? 但し、向こうではジュノと一緒には行動出来ないと思うし、転移の魔法陣もちゃんと正規料金、自己負担してもらうけど」
「フンっ。金なら持っている。お前らの世話になるつもりは無い」
ハーミルが慌てた感じで口を挟んできた。
「ちょ、ちょっとカケル、どういうつもり?」
「どうせジュノもコイトス行くみたいだし、一緒に転移する位、良いんじゃない?」
ハーミルは目に見えて不機嫌になった。
そしてそっぽを向いたまま、魔法陣の中に入って、僕の右隣に立った。
ジュノも魔法陣の中に入り、こちらはハーミルとは反対側、僕の左隣に立った。
成り行きを見ていたらしい、魔法陣の調整担当の魔導士が、苦笑しながらコイトスへの転移の為の詠唱を開始した。
やがて周囲の景色が歪み、次の瞬間には潮風薫るコイトスへ到着していた。
到着した先では、クレア様達が僕達を出迎えてくれた。
因みにジュノは、到着後、すぐに挨拶も無しに、どこかへ歩き去って行った。
僕とハーミルの二人だけが転移してくると思っていたらしいクレア様が、小首を傾げた。
「今の方は……?」
「ストーカーですっ!」
不機嫌そうに答えるハーミルに、クレア様が少し戸惑ったような表情になった。
むくれているハーミルに代わって、僕が事情を説明した。
「すみません。ちょっとした知り合いが、偶然コイトスに行く所だったので、転移だけ一緒にしたんですよ」
「そうだったんですね。カケル様のお知り合いでしたら、一緒に宿舎にご案内しましたのに」
クレア様のその言葉が終わらない内に、ハーミルが声を上げた。
「それだけは、絶対にしないで下さい!」
すっかり拗ねてしまったハーミルを宥めすかしつつ、僕達はクレア様が用意してくれた瀟洒な馬車に乗り込んだ。
馬車はコイトスの街中をのんびり進んで行く。
白亜の建物が立ち並び、山がちな地形は、僕にとって、どこかギリシアの街並みを連想させる風景であった。
と言っても当然、元の世界にいた時、テレビの中で見た風景って事だけど。
「今から、お二人を宿舎にご案内します。実は私が母から譲り受けた別邸なんですよ。気に入って下さると良いのですが」
道々、クレア様が、コイトス王国について色々話してくれた。
コイトスは、ナレタニア帝国が制覇する大陸の南岸に位置する小王国である。
気候は亜熱帯で、冬でも雪を見ることは無い。
人々は古来より漁業と交易で生計を立ててきた。
百年前には、ナレタニア帝国の傘下に入ったけれども、建国自体は千年前に遡る。
クレア様の父君であり、前国王でもあったマクサイ様は昨年隠居し、今はクレア様の兄、ドテルミ様が国王の座についている。
「コイトスは小さな国です。でも、美しい自然に囲まれたこの国が、私は大好きなんです」
クレア様のおっとりとした性格や話しぶりは、僕の心を和ませてくれた。
ハーミルも同様だったらしく、宿舎に到着する頃には、ジュノの件で悪くなっていた彼女の機嫌も、すっかり回復していた。
馬車は小一時間程で、海辺に建つ、白い二階建ての建物の前に到着した。
馬車から降りた僕達を、五十代半ばと思しき品の良い男性と、メイド姿の女性達数人が出迎えてくれた。
男性が、僕達に恭しく頭を下げて来た。
「執事のマロリーで御座います。お二人のご滞在が素敵な思い出になりますよう、誠心誠意お手伝いさせて頂きます。御用の際には、何なりとお申し付けくださいませ」
マロリーと名乗ったその男性は、早速、僕達を各々の部屋へと案内してくれた。
館内は余分な装飾は無いものの、よく手入れが行き届いていた。
僕とハーミル、どちらの部屋からも、眼前に美しい砂浜とコバルトブルーの海が臨め、僕達の心も自然に弾んできた。
「それでは今日はこちらでゆっくりお寛ぎ下さい。明朝また参りますね」
そう言い置いて、クレア様は帰って行った。
荷解きを終えた僕とハーミルは、早速、宿舎の前の砂浜に出てみた。
日はまだ高く、海はきらきらと輝いていた。
「私、海見たの初めて」
はしゃぎながら、波と戯れているハーミルを眺めていると、僕の心も弾んできた。
とは言え、今年の海開き、まさか異世界で迎える事になるとは思いもしなかったけれど。
「水着に着替えて来ようかな」
「ふっふっふ、私は既に中は水着だよ?」
そう口にしたハーミルが、ラフなブラウスのボタンを外して、中のビキニタイプの水着を見せてきた。
淡いピンク色の水着に包まれたその二つの膨らみに不意を衝かれた僕は、慌てて目を逸らした。
「照れてる? カケルも意外と可愛いね~」
僕の反応が面白かったのだろう。
ハーミルが、わざと胸を強調するようなポーズを取った。
だけどそのポーズが少し滑稽に見えてしまった僕は、思わず噴き出してしまった。
「ちょっと! 女の子の水着姿を前にして、それってどうなの?」
慌てて僕は話題を逸らした。
「そんな事より、腰に剣を差したままだと、泳ぎにくいと思うよ?」
「大丈夫よ。泳ぐ時は背中に背負うし、海水で錆びるようなやわな剣じゃないから」
二人は夕方まで、浜辺ではしゃいで過ごした。
喉が渇くと、メイド達が適宜、トロピカルフルーツの生搾りジュースを作ってくれた。
夕食は、テラスで水平線に沈む夕日を眺めながら、豪勢なシーフード料理を楽しんだ。
こうして二人のコイトスでの休暇の初日は過ぎて行った。
そんな二人を、じっと監視する“目”があった。
しかし二人が、その“目”に気付く事はなかった。
翌日午後、コイトス行きの準備を終えた僕とハーミルは、帝都の転移の魔法陣へと向かった。
待ち合わせの30分程前には魔法陣に到着したけれど、そこには既に、先に到着していたらしいクレア様達の姿が有った。
彼女は以前会った時と似た雰囲気の、淡い色調の可愛らしいドレスを身に着けていた。
僕は彼女に頭を下げた。
「すみません、お待たせしてしまいまして」
クレア様がにっこり微笑んだ。
「いえいえ、カケル様と剣聖ハーミル様をお待たせするわけにはいかないので、私共が早くに来過ぎたのでございます」
「この度は、コイトスへご招待頂きまして、ありがとう御座います」
「私こそ、招待をお受け頂きました事、光栄で御座います」
クレア様達の一行は、キラさんと三人の護衛であろう、兵士達とを合わせて総勢五名であった。
転移の魔法陣で一度に転移できるのは五名まで。
そのため、まずクレア様達が転移して、その後、僕とハーミルが転移する事になった。
転移の光に包まれるクレア様達を見送った僕とハーミルが、続いて転移の魔法陣に入ろうとした時、一人の見知った人物が、こちらに近付いて来るのに気が付いた。
僕達よりも先に、向こうが声を上げた。
「奇遇だな。オレも今からコイトスに向かうところだ」
それはジュノであった。
ジュノは昨日と同様、黄土色のポンチョを羽織り、背中にはリュックのような大きな袋を担いでいた。
ハーミルが思いっきりジュノを睨みつけた。
「あんたねぇ。ちょっとしつこすぎるわよ?」
しかしジュノは、どこ吹く風といった雰囲気で言葉を返してきた。
「お前等もコイトスに行くんだろ? なんだったら、一緒に転移してやってもいいぜ。割り勘にすれば、お互い費用も節約出来るだろうし」
「残念でした。私達、招待されているから転移の魔法陣、使用料かからないんです!」
「ふんっ。なら正規料金、払ってやるよ。それなら文句無いだろ」
「お金の問題じゃありません! はっきり言ってあげるけど、私はあなたが嫌いなの。分かる? 嫌いな人間と一緒に行動したいって誰が思うの?」
「なんだと? 喧嘩売っているのなら買ってやるぜ」
二人のやりとりを聞いていた僕は、思わず苦笑した。
理由は不明だけど、どうやらジュノは、僕達と一緒に行動したいらしい。
僕は二人に声を掛けた。
「どうせコイトス行くなら、一緒に行こうか? 但し、向こうではジュノと一緒には行動出来ないと思うし、転移の魔法陣もちゃんと正規料金、自己負担してもらうけど」
「フンっ。金なら持っている。お前らの世話になるつもりは無い」
ハーミルが慌てた感じで口を挟んできた。
「ちょ、ちょっとカケル、どういうつもり?」
「どうせジュノもコイトス行くみたいだし、一緒に転移する位、良いんじゃない?」
ハーミルは目に見えて不機嫌になった。
そしてそっぽを向いたまま、魔法陣の中に入って、僕の右隣に立った。
ジュノも魔法陣の中に入り、こちらはハーミルとは反対側、僕の左隣に立った。
成り行きを見ていたらしい、魔法陣の調整担当の魔導士が、苦笑しながらコイトスへの転移の為の詠唱を開始した。
やがて周囲の景色が歪み、次の瞬間には潮風薫るコイトスへ到着していた。
到着した先では、クレア様達が僕達を出迎えてくれた。
因みにジュノは、到着後、すぐに挨拶も無しに、どこかへ歩き去って行った。
僕とハーミルの二人だけが転移してくると思っていたらしいクレア様が、小首を傾げた。
「今の方は……?」
「ストーカーですっ!」
不機嫌そうに答えるハーミルに、クレア様が少し戸惑ったような表情になった。
むくれているハーミルに代わって、僕が事情を説明した。
「すみません。ちょっとした知り合いが、偶然コイトスに行く所だったので、転移だけ一緒にしたんですよ」
「そうだったんですね。カケル様のお知り合いでしたら、一緒に宿舎にご案内しましたのに」
クレア様のその言葉が終わらない内に、ハーミルが声を上げた。
「それだけは、絶対にしないで下さい!」
すっかり拗ねてしまったハーミルを宥めすかしつつ、僕達はクレア様が用意してくれた瀟洒な馬車に乗り込んだ。
馬車はコイトスの街中をのんびり進んで行く。
白亜の建物が立ち並び、山がちな地形は、僕にとって、どこかギリシアの街並みを連想させる風景であった。
と言っても当然、元の世界にいた時、テレビの中で見た風景って事だけど。
「今から、お二人を宿舎にご案内します。実は私が母から譲り受けた別邸なんですよ。気に入って下さると良いのですが」
道々、クレア様が、コイトス王国について色々話してくれた。
コイトスは、ナレタニア帝国が制覇する大陸の南岸に位置する小王国である。
気候は亜熱帯で、冬でも雪を見ることは無い。
人々は古来より漁業と交易で生計を立ててきた。
百年前には、ナレタニア帝国の傘下に入ったけれども、建国自体は千年前に遡る。
クレア様の父君であり、前国王でもあったマクサイ様は昨年隠居し、今はクレア様の兄、ドテルミ様が国王の座についている。
「コイトスは小さな国です。でも、美しい自然に囲まれたこの国が、私は大好きなんです」
クレア様のおっとりとした性格や話しぶりは、僕の心を和ませてくれた。
ハーミルも同様だったらしく、宿舎に到着する頃には、ジュノの件で悪くなっていた彼女の機嫌も、すっかり回復していた。
馬車は小一時間程で、海辺に建つ、白い二階建ての建物の前に到着した。
馬車から降りた僕達を、五十代半ばと思しき品の良い男性と、メイド姿の女性達数人が出迎えてくれた。
男性が、僕達に恭しく頭を下げて来た。
「執事のマロリーで御座います。お二人のご滞在が素敵な思い出になりますよう、誠心誠意お手伝いさせて頂きます。御用の際には、何なりとお申し付けくださいませ」
マロリーと名乗ったその男性は、早速、僕達を各々の部屋へと案内してくれた。
館内は余分な装飾は無いものの、よく手入れが行き届いていた。
僕とハーミル、どちらの部屋からも、眼前に美しい砂浜とコバルトブルーの海が臨め、僕達の心も自然に弾んできた。
「それでは今日はこちらでゆっくりお寛ぎ下さい。明朝また参りますね」
そう言い置いて、クレア様は帰って行った。
荷解きを終えた僕とハーミルは、早速、宿舎の前の砂浜に出てみた。
日はまだ高く、海はきらきらと輝いていた。
「私、海見たの初めて」
はしゃぎながら、波と戯れているハーミルを眺めていると、僕の心も弾んできた。
とは言え、今年の海開き、まさか異世界で迎える事になるとは思いもしなかったけれど。
「水着に着替えて来ようかな」
「ふっふっふ、私は既に中は水着だよ?」
そう口にしたハーミルが、ラフなブラウスのボタンを外して、中のビキニタイプの水着を見せてきた。
淡いピンク色の水着に包まれたその二つの膨らみに不意を衝かれた僕は、慌てて目を逸らした。
「照れてる? カケルも意外と可愛いね~」
僕の反応が面白かったのだろう。
ハーミルが、わざと胸を強調するようなポーズを取った。
だけどそのポーズが少し滑稽に見えてしまった僕は、思わず噴き出してしまった。
「ちょっと! 女の子の水着姿を前にして、それってどうなの?」
慌てて僕は話題を逸らした。
「そんな事より、腰に剣を差したままだと、泳ぎにくいと思うよ?」
「大丈夫よ。泳ぐ時は背中に背負うし、海水で錆びるようなやわな剣じゃないから」
二人は夕方まで、浜辺ではしゃいで過ごした。
喉が渇くと、メイド達が適宜、トロピカルフルーツの生搾りジュースを作ってくれた。
夕食は、テラスで水平線に沈む夕日を眺めながら、豪勢なシーフード料理を楽しんだ。
こうして二人のコイトスでの休暇の初日は過ぎて行った。
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