【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
71 / 239
第四章 すれ違う想い

71. 王宮

しおりを挟む
第022日―2


【彼女】は、空中に浮遊したまま、眼下で燃え盛る炎の海を眺めていた。
能面のように整ったその顔には、いかなる感情も見出せない。
ここは帝国北方支配限界領域にもほど近いヴィンダの街……だった場所。
400年前、三人の勇者達の活躍により、数千のモンスターの群れを撃退したこの街は、今、たった一人の黒髪の少女によって滅ぼされたところであった。

「ば、化け物め!」

【彼女】に対して、生き残りの衛兵達が、最後の絶望的な攻撃を実施した。
しかし斉射された矢は、【彼女】を護る不可視の力場によって阻まれ、決して【彼女】を傷付ける事は出来ない。
【彼女】は右手を高々と掲げ、そしておもむろに振り下ろした。
同時に発せられた不可視の力が、この街最後の生き残り達の命を、いとも簡単に摘み取って行く。
と、唐突に【彼女】の右腕がひび割れ、崩れ去った。
【彼女】はそのおのが右腕を、少しの間不思議そうに眺めていたけれど、すぐにその顔からは感情が消え去った。
やがて街の壊滅を見届けた【彼女】は命令通り、北方へと帰還して行った……


――◇―――◇―――◇――


第023日―1


翌朝、僕とハーミルが朝食を終えたタイミングで、クレア様が宿舎を訪ねて来た。

「おはようございます。昨夜はゆっくりお休みになられましたか?」

ハーミルと共にクレア様を出迎えた僕は、頭を下げた。

「おはようございます、クレア様。生まれて初めてな位、とても楽しませてもらっています」
「カケル様は、お世辞がお上手でいらっしゃいますね。でも、そう言って頂けると、クレアも嬉しゅうございます」
「あの……クレア様は一国の王女様なのですから、僕なんかに敬語を使うのは変ですよ」

ハーミルも僕の言葉に同調した。

「そうそう、カケルの事はともかく、私の事は呼び捨てで良いよ」
「何をおっしゃいますか。カケル様は、私の大切な宝物を取り戻して下さったお方。それに、皇帝陛下からも御信任が厚い冒険者様と剣聖様のお二人に、敬意を払わないわけには参りません」

そう言えば皇帝ガイウス直々じきじきに、クレア様の招待を受けるように頼まれたっけ?
皇帝ガイウスが、僕とハーミルの事を必要以上に持ち上げて、クレア様に伝えているのかもしれない。

「コイトスは海だけではなく、山にも美しい所があるのですよ。今日は午前中、マリサの滝へご案内しますので、お昼御飯をそこで頂きましょう。午後からは王宮の方にも御案内出来ればと考えております」


1時間後、準備を終えた僕達は、クレア様の用意してくれた馬車に乗り込み、マリサの滝を目指して出発した。
今日も天気が良く、朝からよく晴れている。
街中は少し汗ばむような陽気だった。
しかし馬車がよく整備された山道に入って行くと、涼しい風が車内に吹き込んできた。

マリサの滝へは二時間ほどで到着した。
落差三十メートル位であろうか。
豪快と言うより、繊細と言った言葉が似合いそうなその滝は、僕の心をとてもリラックスさせてくれた。
滝壺は少し広目の天然のプールになっており、水は澄んで綺麗であった。
水底が見え、中を泳ぐ小魚達の姿もはっきりと見える。
僕達は早速水着に着替えて滝壺に飛び込んだ。
クレア様の連れて来た侍女達が、キラさんの指示の下《もと》、てきぱきとお昼の準備を進めていく。

ちょうど正午ごろ、皆で昼食を頂く事になった。
滝壺傍の河原に設置されたテーブル上には、所狭しとフルーツやパンが並べられ、侍女達が手際よく魚介類を焼いていく。

「この魚、凄く美味しいね」

ハーミルはいつになくはしゃいで見えた。
幼い頃から剣の修行一筋って言っていたし、お父さんが倒れた後はその介護に専念していたみたいだし、多分、彼女にとって生まれて初めての“バカンス”なのではないだろうか?
彼女の様子に釣られるように、心が浮き立つのを感じた僕は、彼女に言葉を返した。

「うん、それにフルーツもパンもとても美味しいよ」

そんな僕達に、クレア様が優しい笑顔を向けてきた。

「お二人に喜んで頂けて、クレアも嬉しゅうございます」
「なんか、想像以上に贅沢させてもらって、本当にありがとうございます」

御礼の言葉を伝える僕の隣で、ハーミルがクレア様の胸元を指差した。

「そう言えば、クレア様のそれ、カケルが取り返したっていうネックレス?」
「そうなんですよ。これは母から頂いた大事な宝物なのです」

クレア様が愛おしそうに胸元のネックレスに手をやった。
そして、少し居住まいを正してから話し始めた。

「実は私の母は……」

クレア様の母親は、十年前、クレア様がまだ七歳だった時に、若くして世を去った。
病床で日に日におとろえて行く母親に、クレア様はただすがりついて泣きじゃくる事しか出来なかった。
そんなクレア様に、母親が自身の身に着けていたネックレスを、手ずから掛けてくれたのだという。

「これをくした時には、足元から世界が崩れ去った気分でした。ですから、これを取り戻して下さったカケル様は、私の英雄様なのです」

そう話すと、クレア様はにっこり微笑んだ。


マリサの滝でのピクニックを存分に楽しんだ僕とハーミルは、午後、街に戻ってそのまま王宮に招待された。
コイトスの王宮は、壮麗な帝城のそれとは異なり、やや大き目の商館のような質素な造りであった。
そこかしこに南国の植物が植えられ、手入れの行き届いた中庭を囲むような形で、建物が配置されている。
国王陛下の居室へは、クレア様自らが案内してくれた。
居室に通されると、クレア様と目元のよく似た優しい顔立ちの、20代と思われる若い男性が、僕達を笑顔で出迎えてくれた。

「コイトスにようこそ。私が国王のドテルミです」

ドテルミと名乗ったその男性に促されて、僕達は部屋に置かれたソファに腰を下ろした。
僕達は改めて自己紹介を行い、今回の招待について、ドテルミ様に感謝の言葉を伝えた。

「帝都と比べたら何もない所だけど、自然の美しさだけは自信があるんだ。ゆっくりしていってくれ」

ドテルミ様は国王という肩書を感じさせない位、気さくな人柄であった。
しばしの間、彼と歓談した後、王宮内を見学させて貰える事になった。
ドテルミ様、そしてクレア様と一緒に歩いて行くと、王宮勤めの衛兵や侍女達と時折すれ違った。
しかし彼等は必要以上にかしこまることなく、そして僕とハーミルには人懐っこい笑顔で話しかけてくれた。
ここは帝城と違い、南国特有ののんびりした雰囲気に包まれているようだった。


僕達が宿舎に戻ると、丁度夕食の支度が出来ていた。
水平線に沈みつつある夕陽に照らされて、全てが美しい茜色に染め上げられていく。

「なんだか、最高の贅沢だね」

こうしてコイトスでの休暇二日目も、何事も無く終わろうとしていた。
…………
……


第024日―1


夜半、僕はふと目が覚めてしまった。
まだ日付が変わった頃合いであろうか?
もう一度眠ろうとしたけれど、何故か目が冴えて中々寝付けない。

「ちょっと夜風にでも当たってこようかな」

僕はそっと起き上がると、部屋のベランダから浜辺に下りた。
宿舎は中心街からは少し距離があるせいか、周辺に人工的な明かりは少なかった。
見上げると、満天の星空に、僕の知らない星座が輝いていた。
僕は浜辺を少し散歩してみる事にした。
水平線には漁火いさりびが見え、夜風が心地良い。
しばらく夜の浜辺で散歩を楽しんでいた僕は、唐突に何者かに見られている気がして足を止めた。

慎重に周囲に目を凝らす……

しかし見える範囲で、怪しい影は見当たらない。
僕は少し迷った後、右腕に嵌めている腕輪に意識を集中した。
霊力が身体にみなぎり、感覚が鋭敏になっていく。
そのまま感知の網を周辺に広げようとして……

突然数メートル先に、一人の少女がたたずんでいる事に気が付いた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...