【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第五章 正義の意味

109. 予感

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第038日―1


空が白み始める頃、戦場で昏倒していた千数百名の共和国軍兵士と5名のハイエルフ達は、全て帝国軍の新しい野営地へと連れてこられた。
彼等は縛られて、軍営の一角に集められていた。
特にハイエルフ達は自決を防ぐため、猿ぐつわをかまされた上に、魔力を抑制する拘束具によって自由を奪われていた。
皇帝ガイウスは、直々にハイエルフ達の取り調べを行った。
彼等が不穏な行動に出た場合に備えて、僕も同席を求められた。

「予はナレタニア帝国皇帝ガイウスじゃ。お前達の所属と目的を述べよ」

猿ぐつわを外されたハイエルフ達は、自決できない事を悟ると、皆一様に、問いに答える代わりに、皇帝ガイウスを口汚く罵った。
皇帝ガイウスは一通り尋問を試みた後、彼等から有益な情報が引き出せないと悟ると、躊躇する事無く、全員の処刑を命じた。
同席し、彼等の自決を阻止するために霊力を展開し続けていた僕は、彼の下した命令に驚愕した。

「陛下、ここは時間を空けて、もう一度尋問なさっては?」
「こやつらは二晩に渡って捨て身の襲撃をかけてきた。それにこの様子では絶対に口を割らん。ならば、生かしておくだけ無駄というもの」

皇帝ガイウスは、冷たい表情でそう言い放った。
狼狽した僕は、すがるような思いでノルン様の方に視線を向けた。
しかし彼女もまた、悲しそうに首を横に振った。

「カケルよ、彼等の襲撃により、我が軍の計画が大きく狂わされ、兵士達も多数殺された。ここは戦場だ。父上のご命令は至極妥当なもの」

呆然とする僕を尻目に、5人のハイエルフ達は、次々と外へ引きずり出されていった。


退席を許可された僕は、ハーミルやジュノの待つ場所へと帰って行った。
自分でも自覚できる位、酷い顔をしていたのだろう。
ハーミルが驚いたような声で問いかけてきた。

「カケル、どうしたの?」

しかし僕は上手く言葉を返せず、覚束ない足取りのまま、地面に座り込んでしまった。

あのハイエルフ達は、確かに大勢の兵士達を殺傷した。
しかしそれは、元をたどれば、帝国が彼等の故国を騙し討ちで滅ぼしたせいであって……


―――復讐の連鎖をどこかで止めなければいけない


そんな陳腐で使い古されたフレーズは、綺麗事にしか過ぎないのかもしれないけれど、ともかく、自分が昏倒させて捕えた彼等は、今から殺される。
それを止める手立ては無くて……いや、霊力を使えば、彼等を逃がす事も可能かも?
しかしこの場から逃走出来たら、やっぱり彼等は再び兵士達を殺しに来て……

「どうせ皇帝陛下がハイエルフ共の処刑でも命じて、ショックを受けているんだろうよ」

まとまらない考えが、頭の中を堂々巡りし続ける中、ジュノの声が聞こえてきた。

「所詮、力あるものが正義なんだ。あいつらはカケルより弱かった。だからこうして捕まって、殺されるんだ。あいつらがカケルや帝国軍より強かったら、殺されるのはオレ達だったはずさ」

自嘲気味にそう口にするジュノに、僕は返す言葉を見付ける事が出来なかった。


――◇―――◇―――◇――


街の一角から続く隠された階段を、一人の男性が下りていく。
狭い手掘りのトンネルのような通路を、魔法のあかりを片手に進むこと約1時間。
唐突にトンネルは終わりを告げ、天井の高い巨大な鍾乳洞のような場所に到着した。
奥に固く封印された巨大な門があり、その門を守るように、両脇に一対の巨大な獅子のような獣の像が配されている。

【翡翠の谷】
獣人族の英雄ゼラムの秘宝が眠るとされている場所。

約1ヶ月前、彼は自身が手にした“力”により、数千年、誰も訪れる事の無かったであろうこの遺跡の存在に気が付いた。
この遺跡の封印を解く事が出来れば、“世界が本来あるべき姿”の全貌が分かる。
彼の“力”は、そう告げている。
それこそ、彼自身が幼い頃から抱いてきた問いへの答えとなるはずだ。


―――この世界は間違っている。正されるべきではないのか?


そして彼の“力”が告げる所によれば、この遺跡の封印を解く事になる人物が、間もなくこの街にやってくる。

「もうすぐ、もうすぐだ……」

固く封印されたその扉を撫ぜながら、彼はこみ上げる歓喜の予感を抑える事が出来なかった。


――◇―――◇―――◇――


二晩続けての襲撃は、帝国軍に甚大な損害をもたらしていた。
数千人の死傷者、そして輜重を多数失った事により、軍需物資等にも不足が生じていた。
皇帝ガイウスは、このまま一気呵成いっきかせいに短期決戦を挑むか、それとも後続の増援を待って、満を持して行軍を再開するか、難しい選択を迫られていた。
彼は時間稼ぎの思惑もあって、まずはカケル達を含めた軍使をヤーウェン共和国に派遣する計画を、前倒しで実施する事にした。



僕、ハーミル、ジュノの三人は、昼過ぎに皇帝ガイウスに呼び出された。

「本来はヤーウェンを軍で包囲した後に、と思っておったのだが、予定を早めて、軍使を派遣する事とした。ついては、カケル、ハーミル、ジュノの三名にも、軍使に同行してもらいたい」

皇帝ガイウスの言葉を聞いた僕の背中を、さっと緊張が走った。
僕は内心の動揺を表に出さないよう、気を付けながら言葉を返した。

「かしこまりました。ところで相手に提示する“条件”は、どうされるのでしょうか?」

軍使派遣の真の目的は、既に昨日、皇帝ガイウス自身の口から聞かされてはいた。
だけど、だからこそ、僕はこの“条件”を確認しておく必要がある。

「条件は、僭主ヒエロン直々に謝罪に訪れる事、そして領土の割譲、賠償金の支払いじゃ。細部は、もし本当に講和が成立するなら、その時考えよう」
「……僭主ヒエロン様は、直々に謝罪に来られるような御方でしょうか?」
「まず来んだろうな。あやつは、そんな殊勝な男では無い」
「それでは……」

講和が成立しないのでは、と言いかけて、言葉を呑みこんだ。
皇帝ガイウスは、元々講和の為と言うより、謀略の為の軍使派遣を計画していた。
僕を軍使に同行させるのも、僕自身がヤーウェンの中枢へ転移門を設置できるように条件を整えるのが主目的だったはず。
交渉が成立すればよし、成立しないなら、あとから僕の設置した転移門を使って、帝国軍がヤーウェンの中枢になだれ込むだけ。

二晩続けて襲撃を受けた今、皇帝ガイウスの頭の中には、講和の二文字は最早存在しないように感じられた。

僕は暗澹あんたんとした想いで、皇帝ガイウスのもとを辞した。
そんな僕の様子に気付いたらしいハーミルが、僕の顔を覗き込んできた。

「カケルは難しく考えすぎ。向こうから先に仕掛けて来たんだから、ヤーウェンが滅んでも、それは自業自得よ」
「でも、僕がもし転移門を開けば、帝国と戦争したくない人達も巻き込まれて、殺されちゃうかもしれないじゃないか」
「じゃあ軍使と同行した時、交渉決裂したら、無理矢理ヒエロンを捕まえちゃえば?」
「えっ?」

僕は一瞬言葉を失って、ハーミルの顔を見た。

しかし考えてみれば、悪くない考えかもしれない。
霊力を展開して、ヒエロンだけさらって、皆で転移門を使って戻ってくれば……

少しだけ気持ちが楽になった僕は、ハーミルやジュノ達と一緒に、ヤーウェンにおもむく準備を急ぐ事にした。


「お目にかかるのは、お初ですな。私が軍使のマルクです」

準備を済ませて幕舎を出た僕達三人を待ち受けていたのは、恰幅の良い中年の男性であった。
マルクと名乗ったその人物の傍らには、以前、僕達がヴィンダの調査の時乗せてもらった、チャリオットを改造したような、二頭立ての馬車が用意されていた。

僕は彼に、軽く頭を下げた。

「初めましてマルクさん。僕達こそ、宜しくお願いします」
「それでは行きましょうか。すぐに出立すれば、夕方には、ヤーウェンに到達出来るはずです」

人懐っこい笑顔を浮かべるマルクさんに促され、僕達も馬車に乗り込んだ。

「交渉事は私に任せて下さい。カケル殿やハーミル殿、ジュノ殿は、私の護衛という事になっていますので、いざという時は宜しくお願いしますよ」

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