【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
195 / 239
第七章 忍び寄る悪夢

195.悶着

しおりを挟む

16日目―――14


僕とシャナの唇が触れる寸前、その隙間に剣の刃が差し込まれた。
そして抑揚のない問いが投げかけられた。

「何をしている?」

声の方に顔を向けると、『彼女サツキ』が能面のような無表情で、殲滅の力をまとわせた剣を片手に立っていた。

「何って、生命力を返そうかと……」

僕はしどろもどろになりながらも、とりあえず、決してよこしまな感情での行動では無い事を説明しようとした。
しかし『彼女サツキ』は僕の言葉に反応する事無く、シャナを睨みつけた。

「精霊の生命力は、口移しでしかやり取り出来ないのか?」
「……別に口移しの必要は無い。手で触れるだけでも可能」
「そ、そうなの!?」

しれっとした感じのシャナの答えを耳にして、僕は思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
最後の戦いの時に生命力を分けてもらった状況と、シャナの思わせぶりな仕草のせいで、口移しでしかやり取り出来ないものと勘違いしていた自分が、今更ながら猛烈に恥ずかしくなってきた。

彼女サツキ』の顔が、見る見るうちに真っ赤になっていく。

「お前は! 私とカケルとの関係を尊重すると誓った先から、これはどういう事だ?」
「今のは不可抗力。生命力は、救世主が好意で返してくれるもの。私がその方法を指定したりするのはおかしい」
「ずっと見ておったぞ! お前はわざとカケルの方から、キ、キ、キスするように仕向けていたではないか?」

シャナが小首をかしげた。

「私からしようとした訳では無いし……まあ、それ位は大目に見ても良いのでは?」
「やっぱり、確信犯であったな!? さっき、カケルの世界について行っても良いと言ったのは、取り消しだ。お前はずっとここにおれ!」
「サツキ、落ち着いて!」
「大体、カケルもカケルだ。こんな見え見えの手に引っ掛かって! まさか本当に、この精霊の娘の事も好きなのか?」
「そんな事無いよ。君が一番だ」
「守護者が一番で、私は二番目でも十分嬉しい」
「シャナは、ちょっと黙っていて!」

僕が『彼女サツキ』をなだめ、シャナに触れる事で生命力を返す事が出来たのは、それからたっぷり1時間以上が経った後だった。


ようやく落ち着いたところで、僕は改めて『彼女サツキ』に聞いてみた。

「もし魔神を完全に消滅させる事が出来れば、君は封印のかなめから解放される?」
「おそらく。まあその時は『彼方かなたの地』自体が、その役目を終えることになるだろう」
「何か良い方法って無いのかな?」

しかし『彼女サツキ』は、難しい顔で黙り込んでしまった。

封印されてなお、世界を呪い、勇者と魔王の不毛な戦いの元凶であり続ける魔神。
完全に消滅させてこそ、本当の意味で世界を解放する事が出来た、と言えるのではないか?

シャナが僕たちの会話に参加してきた。

「魔神のことわりを書き換える事が出来れば、或いは……」
ことわりを書き換える?」
「そう。魔神はこの地に封印されていても、魔神の残したことわりは今も世界を縛り続けているはず。だから魔神は消滅する事無く、呪いを世界に及ぼし続ける事が出来る」
「どうすれば書き換えられるかな?」
「ごめんなさい。私達精霊にはことわりを書き換える力が無い。だから方法も分からない。だけど……」

シャナがまっすぐに僕を見つめてきた。

「救世主なら……あの女神と同じ力を有するあなたなら、或いは……」
「可能かもって事?」

シャナが黙ってうなずいた。
状況証拠から考えて、僕が“守護者アルファから継承した”霊力を含めた能力全ての起源は、どうやらあの女神魔神に行き着くのは確実のようだ。
実際僕はあの世界で、女神超越者の如く霊力を従え、死者を復活させる事が出来た。
そして最後の戦いの際には、女神超越者ことわり捻じ曲げ書き換え?、世界の“想い”と共に、あの女神魔神を封印する事が出来た。
だけど残念ながら、全ては僕が能動的にと言うより、自然にと表現した方が適切な状況で成し得た事だった。

僕は『彼女サツキ』に聞いてみた。

「君はことわりを書き換える方法って、心当たり無いかな?」

しかし『彼女サツキ』は、首をゆっくり横に振った。

「見当もつかない」
「そっか……」

あの女神魔神に仕え、直接その力を奪う形になった『彼女サツキ』なら、何か知っているかもと期待したのだけど。

僕の雰囲気を察したらしい『彼女サツキ』が苦笑した。

「力を有するという事と、それを使いこなす事とはまた別の問題だ」

まあ、それはその通りなわけで。
と言うより、そういう話になれば、僕なんて全然この力を使いこなせてないわけで。

気を取り直した僕は、『彼女サツキ』に向き直った。
そして自分の中にある素直な気持ちを彼女に伝えた。

「サツキ。僕は何年かかっても、必ず魔神を消滅させる方法を探し出して見せる。だから、もう少しだけ待っていて欲しい」
「カケル……」

目を潤ませ、何かを言おうとした矢先、『彼女サツキ』の顔が突然強張った。

「どうしたの?」
「何者かが……この『彼方かなたの地』への扉をこじ開けようとしている」

そう言えば、魔王エンリルはメイを使って、『彼方かなたの地』への扉を開こうとしていた。
メイは今、ハーミルの家に匿われているはず。
しかしもしかすると、僕が数千年前の世界に飛ばされている間に、何かあった!?

身構える僕に、『彼女サツキ』が顔を寄せてきて囁いた。

「カケル、ここで一旦、お別れだ。ここが外界と接続される前に、私は再び、封印のかなめに戻らねばならない」

言葉と同時に、『彼女サツキ』の顔が視界いっぱいに広がった。
そして僕の唇に柔らかい物が触れた。


「!?」

身を離した『彼女サツキ』は、悪戯っぽい笑顔を向けてきた。

「ふふ。私がおらずとも、精霊の娘に惑わされるでないぞ?」
「サツキ……」

そのまま『彼女サツキ』は、溶けるように消え去っていった。
その直後、僕とシャナのすぐ近くの空間にヒビが入り始めた。

そして……


―――パリン!


空間が砕け散り、揺らめく不可思議なオーラで縁取られた、どこまでも黒い穴が出現した。
僕とシャナが身構える中、何者かがその穴を潜り抜けて……って、えっ?

「ハーミル!? それに、イクタスさん達まで!?」

黒い穴を潜り抜け、ここ、『彼方かなたの地』にやってきたのは、僕のよく知る人々――ハーミル、ジュノ、イクタスさん、それにミーシアさんの4人――だった。
束の間、周囲を警戒する素振りを見せた後、彼らの方も僕の存在に気が付いた。
顔をくしゃくしゃにしたハーミルが僕の胸の中に飛び込んできた。

「カケル、カケル、カケルっ!」

しがみつき、号泣するハーミルの背中を優しく撫ぜながら、僕は彼女にささやいた。

「ハーミル、ただいま」


この瞬間、僕は本当の意味で数千年前の世界から帰還した。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...