【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
197 / 239
第七章 忍び寄る悪夢

197.姉妹

しおりを挟む
第048日―2


ハーミルやメイと話していると、ノルン様が歩み寄ってきた。

「カケル、よくぞ無事で戻ってくれた」

僕は改めてノルン様に頭を下げた。

「『彼方かなたの地』への扉、ノルン様が開いて下さったのですよね? ありがとうございます」
「イクタス殿の指示通り儀式を行っただけだ」

ノルン様はそこで少し声のトーンを落とした。

「最初は、メイが独断で開こうとしたのだ」
「えっ?」
「結局、上手くはいかなかったのだが。恐らくカケルに少しでも会える可能性に繋がるのでは? と思っての事であろう。メイの身体への負担を考慮して、私が代役で扉を開いた、という訳だ」

僕は思わず、ハーミルと並んで立つメイの方に視線を向けた。
その視線に気付いたらしいメイが、少しバツの悪そうな顔をしてうつむいた。
メイにとって、ここ『始原の地』の祭壇での封印解除の儀式第91話には、良い思い出が無かったはず。
それでもあえて独断で挑んだのは、それだけ僕を想ってくれての事だろう。

メイが僕の反応を確認するかの如く、チラチラこちらに視線を向けながら問い掛けてきた。

「カケル……怒っている?」

僕は彼女を安心させようと、笑顔で言葉を返した。

「怒ってなんかいないよ。でも僕なんかの為に、そんな無理しちゃダメだよ」
「ごめんね。でもカケルにこのまま一生会えなかったらって思ったら……」
「メ、メイ!?」

一旦落ち着いたかに見えていたメイの瞳に、また涙が溜まっていくのが見えた。
そんなメイに、ノルン様が優しく声を掛けた。

「メイ、安心せよ。カケルはこんな事で、そなたを嫌いになったりはせぬ。そうであろう?」

話を振られた僕もうなずいた。

「う、うん。そうだよ。僕の方こそ本当にごめん。メイにいっぱい心配かけちゃったみたいだ」
「カケル……」

涙ぐむメイが、再び僕に駆け寄ろうとした。
しかしそれは、さりげなく僕達の間に割り込んだハーミルによって、やんわりと阻止された。
メイがハーミルに恨みがましい目を向け、それをハーミルがわざとらしく気付かないフリをしている。

その様子を僕と一緒に眺めつつ、ノルン様が少し真剣な顔つきで声を掛けてきた。

「カケルに少し頼みがある」
「何でしょう?」
「メイの事だ。メイはハーミルの家にかくまわれてはいるけれど、元々そなたを最も頼りにしている。それなのにそなたは、父上の命での従軍で、メイとは中々会えていないであろう?」
「そうですね……」
「それで考えたのだが、私から父上に、カケルに少し休暇を、とお願いしてみる故、これを機会に、しばらくメイとの時間を作ってやってもらえないだろうか?」

メイの顔が一気に明るくなった。

「ノルン、ありがとう」
「気にするな、私とそなたとの間柄では無いか」
「あなたが私の姉で良かった」
「えっ? 今なんと?」
「何でもない」
「いやいや、今のをもう一度……」

ノルン様とメイのやりとりを聞いていた僕は、微笑ましい気分になった。
きっとノルン様は、母を同じくするメイの事を、本当に大事な妹だと思っているのであろう。
そして可能なら、メイから“お姉さん”と呼んでもらいたいのだろう。
僕は立場上、いつも気を張っているように見えるノルン様の意外な一面を見た気がした。

そんな事を考えていると、後ろから声を掛けられた。

「カケル、あなたは幸せ者。こんなに素敵な人達が、ここには大勢いる」
「シャナ」

振り返ると、その場の皆と一通り言葉を交わしてきたらしいシャナが、微笑みを浮かべて立っていた。
僕に釣られる形で、ノルン様、ハーミル、そしてメイもシャナに視線を向けた。
シャナが彼女達に改めて挨拶した。

「私はシャナ。こことは別の世界から来ました」

シャナは、『彼方かなたの地』でイクタスさん達に話したのと同じ内容を、ノルン様やメイにも語って聞かせた。
ノルン様がシャナに問いかけた。

「シャナ殿。すると現状、元の世界に戻るすべを失っている、という認識で良いのだろうか?」
「はい」
「ならば元の世界に戻るすべが見つかるまで、シャナ殿に関しては、我が帝国で保護するという形を取らせて頂こう」
「その事に関しまして、ノルン殿下にお願いがございます」

そう口にしながら、シャナは片膝をつき、帝国式の臣礼を取った。
僕はひそかに驚いた。
帝国式の臣礼は、数千年前の世界には存在しなかった儀礼だったはず。
シャナは恐らく、この場の人々との会話と、皆の間で取り交わされる儀礼を観察して、短時間で習得してみせたのであろう。
さすがは精霊というべきか?

僕が感心する中、シャナが言葉を続けた。

「私にとって、ここは異世界。唯一の知り合いであるカケルと一緒にいられるように、ご配慮頂けないでしょうか?」
「そうだな……」

少し考える素振りを見せるノルン様に、声を掛けてみた。

「ノルン様。僕からもお願い出来ないでしょうか? シャナには、あちらの世界でとても良くしてもらいました。彼女がいなかったら、僕はここに帰って来る事は出来なかったかもしれません」

それは僕の正直な気持ちであった。
シャナは僕が危機に陥った時、想いの力だけで『始原の地女神の聖域』に駆けつけてくれた。
そして女神を倒す重要なヒントをくれて、最後の戦いの際には、自身の消滅もいとわず、生命力を分け与えて助けてくれた。
彼女がいなければ、今僕はこうしてここにいなかったかもしれない。

「ではシャナ殿に関しては、カケルの預かりという形になるよう、父上に進言しよう」
「ありがとうございます」

シャナと共に、僕もノルン様に感謝の意を伝えた。


話が一段落ついた所で、ノルン様がその場の一同に声を掛けた。

「皆の協力で、こうしてカケルをこの世界に連れ戻す事に成功した。ここに集まってくれた皆には、帝国より後日、改めて恩賞の沙汰があるはずだ。楽しみに待っていて欲しい」

ナイアさんが苦笑した。

「まあ、あたしらはここで突っ立って、ノルンの儀式を見物していただけなんだけどね~」
「何を申すか。勇者ナイアに勇者アレル。そなた達が立ち会ってくれていたからこそ、『彼方かなたの地』への扉も無事開く事が出来た。そなたら無しでは、魔王エンリルの横槍が必ず入ったであろう」
「ところで、アレはどうするのさ?」

ナイアさんが指し示したのは、この世界と『彼方かなたの地』とを繋ぐ、揺らめく不可思議なオーラに縁どられた黒い穴だった。
ナイアさんの言葉を受けて、ノルン様がイクタスさんの方に顔を向けた。

「イクタス殿。この扉は、どうするべきであろうか?」
「そうですな……」

イクタスさんは少し考える素振りを見せた後、言葉を続けた。

「元々カケル救出の一助になれば、という事で開いた扉。下手に維持しようとして、魔王エンリルに乗じられては、いささか面倒な事になりますぞ、ここはすみやかに……」
「お待ち下さい!」

突然、ジュノがイクタスさんの言葉をさえぎった。

「せっかく開いた『彼方かなたの地』への扉です。閉ざすのは、の地の調査を十二分に行ってからでも遅くないのではないでしょうか?」

イクタスさんが反論した。

「しかし、『彼方かなたの地』への扉を開き続ければ、かならずや魔王エンリルの知る所となるであろう。やつは理由不明じゃが、遮二無二しゃにむに、『彼方かなたの地』へ至らんと欲しておった。魔王エンリルの企図をくじきながら守衛維持し続けるのは、至難のわざと申す他ない」

ノルン様もイクタスさんに賛意を示した。

「私もイクタス殿の意見に賛成だ。万一、魔王エンリルに『彼方かなたの地』に入り込まれれば、不測の事態に繋がるやもしれぬ」

しかし珍しく、ジュノが食い下がってきた。

「少し考えてみて下さい。魔王エンリルは、17年前にもイクタスさん達と共に、一度、『彼方かなたの地』への扉を開いたんですよね? それなのに今また『彼方かなたの地』に行こうとしている。これは『彼方かなたの地』に、17年前には誰も気付かなかった、何か重大な秘密が隠されているからではないでしょうか? それを魔王エンリルより先に、私達が知る事が出来れば、結果的に魔王エンリルの破滅の時期を早める事に繋がる、と愚考します」



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...