【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第七章 忍び寄る悪夢

222.侵入

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第052日―5


―――ドゴォオォオォオォ……オォ……ォォ……ォ……


城内の入り口すぐの、ホールの様な場所が破壊され、轟音が氷の回廊を何度も反響した。
僕はメイと共に、城内にもし何者かが潜んでいれば当然生じるであろう反応を待った。
しかし取り立てて何も起こらない。

僕はメイにささやいた。

「さっき話していた呪法の残滓ざんしみたいなの、まだ漏れてきている?」

緊張した面持ちのまま、メイが小さく首を縦に振った。

「ええ。変化ないわ」

まさかとは思うけれど、入り口付近で行われている“破壊活動”に気付いていない? とか?

僕は再び剣を振り上げると、今度は先程より少しだけ威力を上げた殲滅の力を、城内に向けて解き放った。


―――ズズズズゥゥン……


ホール部分が盛大に破壊された。
そしてメイが緊張した面持ちのまま、口を開いた。

「呪法の発動が止まったわ」

さすがにこれだけ派手な事をすれば、城内にひそむ何者かが気付いた、という事だろうか?

僕はメイに声を掛けた。

「ちょっと入ってみようか?」


僕は霊力を展開したまま、メイも魔力を展開したまま、再び慎重に城内に足を踏み入れた。
今度は、僕の霊力は城内でも阻害されなかった。
さっきの破壊で、城内の霊力を阻害する仕掛けに不具合が生じたのかもしれない。

僕は改めて、霊力の感知網を広げてみた。
城内にはいくつか小部屋が配置されているようであったが、その全てが無人であった。
さらに上下方向にも感知の網を広げていくと、この城塞は大きく4層に分かれていることが判明した。
そしていずれの階層にも、魔族はおろかモンスターの影一つ見当たらない事も。
しかし、その最下層に……

「ナイアさん!?」
「えっ?」

思わず出た声に、隣に立つメイが反応した。

「何か視えたの?」
「うん。最下層の大きな扉の傍に、ナイアさんが倒れているのが視えたよ」
「どうしてナイアがこんな場所に?」
「分からないけれど……とにかく行ってみよう」

僕はメイの手を取ると、目を閉じて霊力を展開した。
そして今しがた見た、“ナイアさんの倒れている場所”を心の中に思い浮かべた。
次の瞬間、僕達の周りの景色が切り替わった。
そこは壁や天井が燐光を発する、薄暗い広間であった。
最初に目を引いたのは、少し向こうに見える壮麗な装飾を施された巨大な扉。
その扉のすぐ近くに、軽装鎧を身に纏った薄紅色の短髪の少女――勇者ナイア――が倒れていた。

僕はナイアさんに駆け寄り、彼女を抱き上げた。

「ナイアさん!」

しかし返事はない。
彼女の身体に目立った外傷は見当たらず、軽装鎧に覆われた胸が、規則正しく上下している。
どうやら気を失っているだけのように見えた。
僕は彼女を再び床に横たえて、メイに声を掛けた。

「どうしよう? このまま帝都に転移で連れて帰って、治療院で見てもらった方が良いかな?」
「そうね……」

メイは僕に言葉を返しながらも、目の前の壮麗な装飾を施された巨大な扉を見上げていた。

「メイ。この扉、気になるの?」
「……扉の向こう側に、魔力の感知が及ばない。カケルの霊力で、この扉の向こうの様子って探れない?」
「いいよ」

僕はその扉に近付き、手を触れ……

「あれ?」

いきなり周りの風景が切り替わった。
そこは先程まで僕とメイがいた、この謎の城の入り口部分――まあ、僕が盛大に壊したから、瓦礫の山になっているけれど――であった。


転移させられた!?


慌てて僕は霊力を展開して、最下層へと再度転移した。

戻って来た僕に、メイが飛び付いてきた。

「カケル!」

メイの瞳には、涙が溜まっていた。
メイが震える声で言葉を続けた。

「いきなり消えたから……びっくりして……カケルにもしもの事があったら……」
「ごめんね、心配かけて」

僕は安心させようと、メイを優しく抱きしめた。
腕の中のメイが落ち着くのを待って、僕は改めて起こった出来事を説明した。

「この扉を触った瞬間、入り口に転移していたんだ」

メイが小首をかしげた。

「もしかして、転移のトラップが仕掛けられている?」
「そういうのって分かる?」

メイが自分の右の手の平を扉に向けた。
しばらくそのまま何かをつぶやいた後、僕の方に顔を向けてきた。

「魔力による仕掛けやトラップは感知出来ないわ。もしかしたらここも霊力で何か仕掛けがほどこされているのかも」

僕は、今度は扉を触れる事無く、慎重に霊力を使って扉そのものを調べてみた。
そして扉の内部に大量の霊晶石が埋め込まれている事に気が付いた。


この霊晶石が、先程の転移に関係していたのであろうか?


僕は霊力を使って、扉内部の霊晶石全てを粉々に破壊した。
そしてもう一度、扉に手を触れてみた。
今度は何も起こらない。
そのまま扉に添えた手に霊力を込めようとした時……


―――ギギギィィィ……


扉が向こう側へと、勝手に開いていった。
同時に、ほのかな燐光のみのこちらの広間に向けて、明るい光が射し込んできた。

扉の向こう側には、驚くべき光景が広がっていた。

魔力の光に照らし出された中央の広大な吹き抜けには、緑豊かな木々が生い茂っていた。
そしてその木々の間を縫うように、小川が流れている。
少なくとも、言われなければ、ここが氷山に内包された謎の城塞内部の最下層とは思えない光景。

「これは一体……?」

呆然とその光景を眺めるカケルの隣で、メイがつぶやいた。

玉座の間第119話……」
「玉座の間?」
「ええ、父に連れられて、一度だけ訪れた事があるの。もっとも、その時訪れたのは、北方の最果ての地に位置する本物の魔王城の方だけど。この景色は、記憶にある玉座の間と瓜二つだわ……」

そしてメイは、きょろきょろと辺りを見回した。
僕はメイに声を掛けた。

「どうしたの?」
「黒い水晶は……無いのね。やっぱり、ここは魔王城の精巧なレプリカ……」
「黒い水晶?」
「ええ。本物の魔王城玉座の間には、中心に大きな黒い水晶が浮遊していたわ。父はその水晶が、魔王たる力の根源って話していたけれど」

その時、僕達の背後でふいに声がした。

「これは一体、どういう事だい?」

振り返ると、そこにはナイアさんが、呆然とした雰囲気のまま立っていた。
どうやら自然に意識を取り戻したのだろう。
少しホッとしつつ、僕はナイアさんに笑顔を向けた。

「ナイアさん、良かった。ところで……って、え?」

……どうしてこんな場所で倒れていたのですか?

と言葉を続けようとした僕に、ナイアさんが剣を突き付けてきた。

「あんたは?」
「カケルですよ。忘れたんですか?」

もしや気を失った衝撃で、記憶も失っている、とか?

しかし当のナイアさんは、僕とメイの様子を油断なく観察する素振りを見せながら、言葉を返してきた。

「忘れちゃいないさ。あんたはカケル。それにそこにいるのは、メイに見えるけど……」

そして僕達に探るような視線を向けつつ、言葉を継いだ。

「アレル達と、もう一人のあたしはどうしたのさ?」
「え? もう一人のナイアさん? えっと……アレル達も一緒だったんですか?」
「その様子だと、アレル達を見ちゃいなさそうだね。悪いけど、あんた達がなぜ今ここにいるのかを話してくれないかい?」

僕は今までの経緯を順々に説明した。
メイと一緒に空中散歩を楽しむため、南半球まで“飛んで”来た事。
帰り際、違和感に導かれるようにして氷山を見付けた事。
そして氷山に内包されたこの謎の城塞を発見した事。
内部に侵入してナイアさんを見つけた事……

話を聞き終えたナイアさんは思案顔になった。

「なるほど。という事は……」

そして剣を手にしたまま、つかつかと僕に歩み寄ってくると、いきなり……!?

「えっ?」

気付いた時には、僕は彼女に心臓を一突きされていた。

「カケル!?」

隣に立っているはずのメイの悲鳴のような呼びかけが、どこか遠くから聞こえてくる。
視界が真っ赤に染まり、意識が……
…………
……

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