【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第七章 忍び寄る悪夢

223.幻惑

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第052日―6


ナイアは手に持つ剣で、【カケルに見える何者か】の心臓を一突きした。
【カケルに見える何者か】はひとしきり痙攣した後、動かなくなった。
それを確認してから、ナイアは剣を引き抜いた。
【カケルに見える何者か】の身体が血だまりの中、床に力なく崩れ落ちた。
これで【カケルに見える何者か】は事切れたはず。

さてと……

改めて【カケルに見える何者か】だった死体をよく観察しようとしたナイアに、無詠唱で凶悪な魔力が襲い掛かって来た。
しかしナイアは難なくそれをかわし、魔力を放ってきた存在へと視線を向けた。
そこには、自分に対する憎悪で顔を歪めた【メイに見える何者か】が立っていた。

「よくも、カケルを!」

彼女が再び連続で放ってきた魔力による攻撃をかわしながら、ナイアはひとちた。

「とりあえず、こっちも試しとくか」

ナイアは【メイに見える何者か】目掛けて、突撃した。
【メイに見える何者か】も慌てて詠唱を開始するが、ナイアは一足早く、彼女を羽交い絞めにして、その首筋に剣を押し当てた。



……
…………

しゅしゅうと湯気を上げながら傷口が塞がるにつれ、次第に意識が戻って来た。

ナイア?と会話を交わしていたら、いきなり心臓を一突きされた!?

咳込みながらも、とにかく霊力の恩恵により無事“復活”した僕は身を起こした。
その僕の視界の中、ナイア?がメイを羽交い絞めにして、その首元に剣を押し当てるのが見えた。

「メイを離せ!」

僕は飛び起きながら、ナイア?を霊力で拘束した。

「カケル!」

その隙に、ナイア?の拘束を逃れたメイが、僕の胸元に駆け込んできた。
僕は彼女を優しく抱きしめながら、身動き一つ出来なくなっているナイア?を思いっ切り睨みつけた。

「ナイアさん、これは、どういう事ですか?」

ナイア?の口元が僅かに歪んだ。

「ちょっと、試させて貰ったのさ」
「試す? 何をですか?」
「あんた達が本物かどうか」
「試すために僕を刺したんですか?」
「あんたは守護者の力を継承している。本物なら心臓突いた位じゃ、すぐに復活するだろ?」

つまり僕の不死性確認のため、僕を“殺してみた”って事だろうか?
それはそれで乱暴な話だ。
まあ、ナイアさんらしいと言えばらしいけれど。
それはともかく、この後どうしよう?

少し考えていると、ナイア?が嘆息した。

「分かったよ。降参だ」

僕の霊力で拘束されたままの彼女が、手の中の剣を投げ捨てた。
そしてメイに声を掛けてきた。

「この城の中、妙な呪法は作動してなかったかい?」

メイはナイア?に険しい表情を向けたまま口を開いた。

「……何の話?」
「だから呪法さ。禁呪か大魔法、或いはそれに近い形の大規模な呪法が作動していたかどうか、あんたなら宝珠を顕現すれば、その種類も含めて分かるんじゃないの? ま、あんたがホンモノだったらって前提の話だけどさ」

メイが僕に顔を向けてきてささやいた。

「どうしよう?」

城内で使用されていた可能性のある呪法に関しては、僕達も関心のある話なわけで。

「可能だったら、無理しない範囲で調べてみて」
「分かった」

メイが詠唱を開始した。
そして彼女の額に、白の宝珠が顕現した。
そのまま数秒……

メイが詠唱を止めて呟いた。

「これは……幻惑の呪法? それも禁呪レベルの?」
「やっぱりね」

ナイア?が口を開いた。

「あたしとした事が、まんまとしてやられたってわけだ」
「どういう事ですか?」
「カケル。この城内、霊晶石だらけって認識で正しいかい?」
「……ええ、まあ」
「つまり、禁呪レベルの呪法を霊晶石で増幅して、私に幻を見せていたってわけだ」

ナイア?は何かを納得したかのように一人うなずいた。
僕はナイア?に問い掛けた。

「すみません、話が見えないんですが」
「分かった。ちゃんと話すよ。でもその前に、この拘束、解いてくれないかい?」
「もう妙な方法で、僕達を試そうとはしないで下さいね。次は失神させますよ」
「分かったよ。でも拘束した女の子に、今度は失神させちゃうぞって、カケルクンも過激だねぇ」

ニヤニヤ笑うナイア?を見て、僕はすっかり毒気を抜かれてしまった。



拘束から解放したナイアが、改めて今まで彼女自身が置かれていたらしい状況第206話について、説明してくれた。

「……で、結局、アレル達と【もう一人のあたし】は玉座の間の手前で、あたしに襲い掛かって来た。あたし達が戦っていると轟音が響いて、なぜか急速に意識が遠のいた。その後気付いたらあたし一人、あそこで目を覚ましたってわけさ。今考えると、ナブー達と交戦した時に受けた魔力で、ここへ転移させられていたんだろうね。そっから先は全部、仕掛けられた幻惑の夢の中での、あたしの一人芝居だったんだろうさ。あたしの悪夢を終わらせてくれたあんた達には、感謝しないとね」

ナイアは自嘲気味に、そう吐き捨てた。

彼女の話を聞き終えた僕の心の中で、当然ながらの疑問が浮かんできた。

「でも魔王エンリルは、どうして、そんな手の込んだ事をしたんでしょうか? そんな呪法を使えるのなら、例えば、ナイアさんが幻惑に引っ掛かっている内に、その……強力な攻撃をかけたり……」

さすがに直接的な表現は出来ないけれど、言いよどんだ僕の言外の意味を、ナイアは正確に理解してくれていた。

「つまりなんで殺さなかったか、だろ? それは、あたしも少し不思議な所さ」

魔王エンリルは、ナイアが幻惑の中でもがくのを、ただ眺めて楽しんでいたのだろうか?

それとも……

「魔王は決して、勇者を倒せない第192話?」

思わず口にした僕の言葉を、ナイアが聞きとがめた。

「何だい、そりゃ?」
「あ、いや、独り言です。気にしないで下さい」

僕は一人、苦笑した。
まさかそんな事は……
いやでも、しかし……?

ナイアは束の間、さらにまだ何か言いたげな様子を見せた後、しかしすぐに真剣な表情になった。

「あんたが、『彼方かなたの地』から戻って第196話、今日で何日目だい?」
「4日目だと思いますけど」
「そうかい……」

ナイアは指折り何かを数えて、自嘲気味に笑った。

「手の込んだ幻惑だね。経過日数は、きっちり同じだ」
「4日間、ここに閉じ込められていたって事ですか?」
「そういう事になりそうだね。それよりカケル。本物のアレル達と銀色のドラゴンが心配だ。あんたの霊力で、あたしを魔王城に連れてってくれないかい?」
「すみません。本物の魔王城、行った事無いんで、霊力での転移、無理なんですよ」

僕は今の所、行った事があるか、少なくともそこの情景を思い浮かべられる状態でなければ転移出来ない。

ナイアは、今度はメイに顔を向けた。

「そっか……メイ、あんたどうだい? あんたなら魔王城の近くに転移するの、可能なんじゃないのかい?」
「それは……」

メイが複雑な表情を浮かべてうつむいた。
彼女にとっては、魔王エンリルは実の父親。
決別したとは言え、自分の父を討滅する、と公言している勇者の手助けをするのは、やはり抵抗があるのだろう。
ここは助け舟を出した方がいいかな?

しかし僕が口を開く前に、ナイアがあっさり自分の願いを取り下げた。

「まあいいさ。それじゃ、せめて帝都までは一緒に転移させてもらえないかい?」
「帝都の近くの森の中まででも良いですか?」
「ん? あ、その力、あんまり大勢の人には、知られないようにしろって、ノルンが言っていたね。それで人気ひとけの無い森の中か」
「そうなんですよ」
「あたしは送ってもらえるだけでおんの字さ」
「じゃあ、僕の傍に来てください」

僕の両脇に、メイとナイアが立った。
そしてメイは僕の腕にしがみつき、ナイアは服の裾を掴んできた。
二人の様子を確認してから、僕は目を閉じて霊力を展開した。
次の瞬間、僕達は帝都に程近い森の中に立っていた。
ナイアが感心したような声を上げた。

「相変わらず凄いね。あんたの力」
「ナイアさんは、これからどうするんですか?」
「とりあえず、帝都の魔法陣から魔王城に一番近そうな街に転移するよ。そこからは、足の速いモンスターでも調達して、もう一度魔王城に向かうつもりさ」

僕は少し考えた後、メイに声を掛けた。

「メイ、僕を魔王城に連れてってくれないかな?」
「「えっ?」」


メイとナイア、二人が揃って目を丸くした。

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