68 / 327
第3.5話「成田、塾へ行く」
陸:代返くんの正体
しおりを挟む
翌朝、成田と遠井は授業が始まる1時間前に塾へ来た。他の受講生が代返くんと会う前にケリをつけるためだった。
予想通り、玄関には他の受講生の姿はなく、代返くん1人だった。
「おや、今日は早いね」
代返くんは成田と遠井を見て、驚く。
成田はニヤッと笑った。
「まぁな。お前を……ここから追い出そうと思ってさ!」
「なっ?!」
直後、成田と遠井は代返くんの両手を思い切り引っ張り、入口に向かって放った。
入口のドアはあらかじめストッパーを使い、開け放った状態で固定してあり、代返くんはそのまま外へ放り出された。代返くんの体が軽く、2人に不意を突かれたのもあって、全く抵抗出来なかった。
「いたっ」
代返くんはコンクリートの地面に尻餅をつき、成田と遠井を睨む。
その顔にはいくつもの目や鼻、口がバラバラについていた。耳も本来の位置から大きくズレ、6つに増えている。服装も学ランとブレザーとセーラー服が混ざった、めちゃくちゃな格好に変わっていた。
「な、なんだこいつ?! 急にバグったみたいに変わったぞ?!」
「おそらく、これがこいつの本当の姿だろう。考えたくはないが、俺達も知らない間に催眠術にかけられていたんだ」
「なるほど……つーかお前、まだオカルトだって信じてなかったのか?」
「くそっ、あともうちょっとで、この塾を潰せるところだったのに……!」
代返くんはよろよろと立ち上がり、恨めしそうに塾の建物を見上げた。塾の入口は開いたままだったが、代返くんは中へ戻ってこようとはしなかった。
「やーい、残念だったな! これで全て元通りだぜ!」
成田は一向に動こうとしない代返くんを不審に思わず、挑発してみせる。
一方、遠井はその違和感に気づき、本人に尋ねた。
「何故動かないんだ? 俺達がここから立ち去るのを待っているのか?」
代返くんはいくつもの目を遠井に向け、全ての口を同時に動かし、答えた。
「……僕は同じ相手を2度は消せないんだ。だから、来年の夏季講習までここで待たせてもらうよ。1度狙った標的を見逃すなんて、有り得ないからね。必ずこの塾の連中を全て消し、僕の栄養源にしてやる」
「栄養源?」
遠井は代返くんの言葉に引っ掛かり、眉をひそめる。
しかし成田は代返くんのふてぶてしい態度に腹が立ったのか、玄関から出て、代返くんの胸倉をつかんだ。
「お前……自分が何をやったのか分かってんのか? お前がそうなっちまった身の上には同情するけどよ、だからって他人を苦しませていい理由なんかにはなんねぇだろ?!」
代返くんは成田に胸倉をつかまれたまま、冷めた目で彼を見た。
「……仕方ないよ。僕は大片努の復讐心から生まれた妖怪なんだから。君は良かったね、塾に行けるお金があって」
次の瞬間、代返くんの体が頭から真っ二つに切れた。切られた箇所からは青い光の粒子が立ち昇っていた。
「な……?!」
「ギャァァッ!」
成田は何が起こったのか分からず、目を見張る。
切られた代返くんは両手で頭を抱え、絶叫した。徐々に人間の声から、不気味な異形の声へと変わっていく。
「い、嫌だァ! ボクのフクシュウはマダ、終ワッテないンダァ! 努、ツトムゥ!」
やがて代返くんの体は完全に消滅し、彼がいた場所には1本の古びたシャーペンが残されていた。傷だらけで、ところどころ泥が付着していた。
「……どうなってるんだ?」
成田は何気なくそのシャーペンに手を伸ばし、拾い上げようとした。
しかしシャーペンは成田が拾う前にパッと消えた。周囲を見回したが、シャーペンはどこにもなかった。
「成田、一体どうなった? あいつは?」
遠井も玄関から出、代返くんの姿を探す。
成田はシャーペンを探すのを諦め、遠井を振り返った。
「いなくなった……なんか体切られて、青く光りながら消えてった。体が消えた後に古いシャーペンが残ってたんだが、それも消えちまった」
「つまり、あいつの存在そのものが催眠術による幻覚だったと? もしくは、ホログラムとか?」
遠井の考察に、成田は辛辣に返した。
「いや、そうは言ってねぇよ」
・
成田と遠井は暫くその場に留まっていたが、他の受講生が1人、また1人と塾に入っていくのを見て、2人もそれぞれの教室に向かうために塾の入口に戻った。
成田は講師から園田の電話番号を聞き出し、代返くんを倒したと報告した。講師は園田が園田だと思い出しており、彼女のスマホも使えるようになっていた。
「本当に元に戻ってるか確かめるよう、他の連中にも伝えておいてくれ」
「分かったわ……でも、私は確かめなくても大丈夫みたい」
「え? 何でだ?」
園田は泣いているのか、声をつまらせつつ言った。
「昨日、君に言われて久しぶりに家で寝たの。と言っても、廊下だったけど。そしたら、さっきお母さんに“どうしてそんなところで寝てるの?”って声をかけられて……本当に、嬉しかった」
その後、他のメンバーの成り代わりも全員元に戻っていたと報せが入り、成田は安堵した。
授業が終わると塾の入口でスマホをいじっていた遠井に声をかけ、彼にもそのことを伝えた。遠井は「そうか」とあっさり返しただけで、スマホから顔を上げようとはしなかった。
「なんだよ、嬉しくないのか? お前だってあいつらのために協力してくれたんだろ?」
「違う。俺は迷惑な部外者を排除したかっただけだ。そんな見知らぬ他人のために、1時間も早く塾に来るわけがない」
「冷たいやつだなぁ……」
成田は呆れ、ため息をつく。
すると遠井は成田を冷たく睨み、「それより、勉強はどうした?」と尋ねた。
「部外者は排除したんだ、これで勉強に集中できるだろ? それとも、飽きたのか?」
「はぁ?! 別に飽きてねぇし! 後期の期末テスト、首洗って待ってろよ! 絶対に、お前を負かすからな!」
成田は遠井を指差し、そう宣言すると、大股で去っていった。
……とはいえ、授業の半分以上の内容を理解出来ていなかったため、陽斗にメールで質問しまくっていた。
『陽斗、聞いてくれよぉ。同じオカルト研の遠井っていう冷血漢がさぁ……!』
『成田君、問1から問5の問題、全部間違ってたよ』
『げ、マジ?!』
『うん、マジ。そのトーイ君に教えてもらった方がいいんじゃない?』
『絶対嫌だ!』
予想通り、玄関には他の受講生の姿はなく、代返くん1人だった。
「おや、今日は早いね」
代返くんは成田と遠井を見て、驚く。
成田はニヤッと笑った。
「まぁな。お前を……ここから追い出そうと思ってさ!」
「なっ?!」
直後、成田と遠井は代返くんの両手を思い切り引っ張り、入口に向かって放った。
入口のドアはあらかじめストッパーを使い、開け放った状態で固定してあり、代返くんはそのまま外へ放り出された。代返くんの体が軽く、2人に不意を突かれたのもあって、全く抵抗出来なかった。
「いたっ」
代返くんはコンクリートの地面に尻餅をつき、成田と遠井を睨む。
その顔にはいくつもの目や鼻、口がバラバラについていた。耳も本来の位置から大きくズレ、6つに増えている。服装も学ランとブレザーとセーラー服が混ざった、めちゃくちゃな格好に変わっていた。
「な、なんだこいつ?! 急にバグったみたいに変わったぞ?!」
「おそらく、これがこいつの本当の姿だろう。考えたくはないが、俺達も知らない間に催眠術にかけられていたんだ」
「なるほど……つーかお前、まだオカルトだって信じてなかったのか?」
「くそっ、あともうちょっとで、この塾を潰せるところだったのに……!」
代返くんはよろよろと立ち上がり、恨めしそうに塾の建物を見上げた。塾の入口は開いたままだったが、代返くんは中へ戻ってこようとはしなかった。
「やーい、残念だったな! これで全て元通りだぜ!」
成田は一向に動こうとしない代返くんを不審に思わず、挑発してみせる。
一方、遠井はその違和感に気づき、本人に尋ねた。
「何故動かないんだ? 俺達がここから立ち去るのを待っているのか?」
代返くんはいくつもの目を遠井に向け、全ての口を同時に動かし、答えた。
「……僕は同じ相手を2度は消せないんだ。だから、来年の夏季講習までここで待たせてもらうよ。1度狙った標的を見逃すなんて、有り得ないからね。必ずこの塾の連中を全て消し、僕の栄養源にしてやる」
「栄養源?」
遠井は代返くんの言葉に引っ掛かり、眉をひそめる。
しかし成田は代返くんのふてぶてしい態度に腹が立ったのか、玄関から出て、代返くんの胸倉をつかんだ。
「お前……自分が何をやったのか分かってんのか? お前がそうなっちまった身の上には同情するけどよ、だからって他人を苦しませていい理由なんかにはなんねぇだろ?!」
代返くんは成田に胸倉をつかまれたまま、冷めた目で彼を見た。
「……仕方ないよ。僕は大片努の復讐心から生まれた妖怪なんだから。君は良かったね、塾に行けるお金があって」
次の瞬間、代返くんの体が頭から真っ二つに切れた。切られた箇所からは青い光の粒子が立ち昇っていた。
「な……?!」
「ギャァァッ!」
成田は何が起こったのか分からず、目を見張る。
切られた代返くんは両手で頭を抱え、絶叫した。徐々に人間の声から、不気味な異形の声へと変わっていく。
「い、嫌だァ! ボクのフクシュウはマダ、終ワッテないンダァ! 努、ツトムゥ!」
やがて代返くんの体は完全に消滅し、彼がいた場所には1本の古びたシャーペンが残されていた。傷だらけで、ところどころ泥が付着していた。
「……どうなってるんだ?」
成田は何気なくそのシャーペンに手を伸ばし、拾い上げようとした。
しかしシャーペンは成田が拾う前にパッと消えた。周囲を見回したが、シャーペンはどこにもなかった。
「成田、一体どうなった? あいつは?」
遠井も玄関から出、代返くんの姿を探す。
成田はシャーペンを探すのを諦め、遠井を振り返った。
「いなくなった……なんか体切られて、青く光りながら消えてった。体が消えた後に古いシャーペンが残ってたんだが、それも消えちまった」
「つまり、あいつの存在そのものが催眠術による幻覚だったと? もしくは、ホログラムとか?」
遠井の考察に、成田は辛辣に返した。
「いや、そうは言ってねぇよ」
・
成田と遠井は暫くその場に留まっていたが、他の受講生が1人、また1人と塾に入っていくのを見て、2人もそれぞれの教室に向かうために塾の入口に戻った。
成田は講師から園田の電話番号を聞き出し、代返くんを倒したと報告した。講師は園田が園田だと思い出しており、彼女のスマホも使えるようになっていた。
「本当に元に戻ってるか確かめるよう、他の連中にも伝えておいてくれ」
「分かったわ……でも、私は確かめなくても大丈夫みたい」
「え? 何でだ?」
園田は泣いているのか、声をつまらせつつ言った。
「昨日、君に言われて久しぶりに家で寝たの。と言っても、廊下だったけど。そしたら、さっきお母さんに“どうしてそんなところで寝てるの?”って声をかけられて……本当に、嬉しかった」
その後、他のメンバーの成り代わりも全員元に戻っていたと報せが入り、成田は安堵した。
授業が終わると塾の入口でスマホをいじっていた遠井に声をかけ、彼にもそのことを伝えた。遠井は「そうか」とあっさり返しただけで、スマホから顔を上げようとはしなかった。
「なんだよ、嬉しくないのか? お前だってあいつらのために協力してくれたんだろ?」
「違う。俺は迷惑な部外者を排除したかっただけだ。そんな見知らぬ他人のために、1時間も早く塾に来るわけがない」
「冷たいやつだなぁ……」
成田は呆れ、ため息をつく。
すると遠井は成田を冷たく睨み、「それより、勉強はどうした?」と尋ねた。
「部外者は排除したんだ、これで勉強に集中できるだろ? それとも、飽きたのか?」
「はぁ?! 別に飽きてねぇし! 後期の期末テスト、首洗って待ってろよ! 絶対に、お前を負かすからな!」
成田は遠井を指差し、そう宣言すると、大股で去っていった。
……とはいえ、授業の半分以上の内容を理解出来ていなかったため、陽斗にメールで質問しまくっていた。
『陽斗、聞いてくれよぉ。同じオカルト研の遠井っていう冷血漢がさぁ……!』
『成田君、問1から問5の問題、全部間違ってたよ』
『げ、マジ?!』
『うん、マジ。そのトーイ君に教えてもらった方がいいんじゃない?』
『絶対嫌だ!』
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる