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春編③『桜梅桃李、ツツジ色不思議王国』
第一話「もらえなかった第二ボタン、もらってしまった第二ボタン」⑵
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顔を洗いに行ってくる、と泣いていた女子高生は席を立った。
慰めていた女子高生は心配そうに彼女を見送る。やがて彼女の姿が見えなくなると、深く息を吐いた。
「お友達、大丈夫そうですか?」
「……しばらくは引きずると思います。本当は今日、好きな男子に告白するつもりだったんですけど、色々あってできなくなっちゃったんです」
女子高生は一旦口を閉ざすと、「あの、」と深刻そうな面持ちで再び口を開いた。
「クイズです」
「はい?」
女子高生はポケットから銀色のボタンを取り出し、由良に見せた。
制服のボタンだろう、表面に牡丹を模った校章が彫ってある。裏にはサインペンで名前が書いてあった。
「これはある男子が付けていた第二ボタンです。今朝、"持っていてくれるだけでいいから"と押し付けられました。私はその男子に興味がありませんが、私の友達は彼のことが大好きです。卒業式の後に告白しようと計画していました。返事がオッケーでもそうじゃなくても、第二ボタンだけは絶対に譲ってもらおうと決めていました。彼の制服から第二ボタンが消えていると知った瞬間の彼女の顔……思い出すだけで、心苦しくなります。結局、友人はショックで告白どころではなくなってしまいました」
「……」
「さて、私はこの第二ボタンをどうすればいいのでしょう?」
女子高生は紅茶でのどを潤す。サンドイッチとスイーツには手をつけない。
「貴方はどうしたいのですか?」
「まだ決めていません。正直に打ち明けたほうがいいのか、"貴方にって渡された"と嘘をついたほうがいいのか……とにかく、ずっと持っていちゃいけない気がするんです。悩みすぎて、彼女が私を責める幻聴まで聞こえるし」
女子高生は頭を抱えた。
誰にも打ち明けられず、ひとりで堪えていたのだろう。たちまち、目に涙があふれた。
「ボタンなんていらない、君のこと好きじゃないって言ったのに……どうしてあの子じゃなくて、私に渡すかなぁ? 持っているだけでいいなら、あの子にあげれば良かったのに」
由良が学生の頃は、特に気になる相手がいなかったので、告白や第二ボタンで一喜一憂した記憶はない。ボタンひとつでこんなにも悩めるなんて、かえってうらやましかった。
「質問の答えですが、」
「はい」
女子高生は姿勢を正す。
「第二ボタンをどうするかより先に、やることがあるんじゃないですか?」
「やること?」
「告白ですよ、お友達の。オッケーでもそうでなくても、告白したら吹っ切ろうって決めていたのでしょう?」
「だけど、第二ボタンはもう……」
「好きな人のボタンなら、第一でも第三でも第四でも欲しいと思いますよ」
「本当? お姉さんも?」
由良の頭の中に、自然と紅葉谷の姿が浮かび上がった。
「……私の好きな人は、ボタンがついていない服をよく着ているので」
「それって、あの人みたいな格好ですか?」
女子高生はカウンター席に座っている男性を指差す。
由良は視線を向け、ギョッとした。客の男性は眼鏡のレンズ越しに由良と目が合うと、ニヘラと微笑んだ。
「お姿は見えないですけど、もしかして〈探し人〉と僕の話してます? 僕が着ている着物も、ボタンがついていないんですけど」
「……紅葉さんはドーナッツでも食べていてください」
「わぁい」
慰めていた女子高生は心配そうに彼女を見送る。やがて彼女の姿が見えなくなると、深く息を吐いた。
「お友達、大丈夫そうですか?」
「……しばらくは引きずると思います。本当は今日、好きな男子に告白するつもりだったんですけど、色々あってできなくなっちゃったんです」
女子高生は一旦口を閉ざすと、「あの、」と深刻そうな面持ちで再び口を開いた。
「クイズです」
「はい?」
女子高生はポケットから銀色のボタンを取り出し、由良に見せた。
制服のボタンだろう、表面に牡丹を模った校章が彫ってある。裏にはサインペンで名前が書いてあった。
「これはある男子が付けていた第二ボタンです。今朝、"持っていてくれるだけでいいから"と押し付けられました。私はその男子に興味がありませんが、私の友達は彼のことが大好きです。卒業式の後に告白しようと計画していました。返事がオッケーでもそうじゃなくても、第二ボタンだけは絶対に譲ってもらおうと決めていました。彼の制服から第二ボタンが消えていると知った瞬間の彼女の顔……思い出すだけで、心苦しくなります。結局、友人はショックで告白どころではなくなってしまいました」
「……」
「さて、私はこの第二ボタンをどうすればいいのでしょう?」
女子高生は紅茶でのどを潤す。サンドイッチとスイーツには手をつけない。
「貴方はどうしたいのですか?」
「まだ決めていません。正直に打ち明けたほうがいいのか、"貴方にって渡された"と嘘をついたほうがいいのか……とにかく、ずっと持っていちゃいけない気がするんです。悩みすぎて、彼女が私を責める幻聴まで聞こえるし」
女子高生は頭を抱えた。
誰にも打ち明けられず、ひとりで堪えていたのだろう。たちまち、目に涙があふれた。
「ボタンなんていらない、君のこと好きじゃないって言ったのに……どうしてあの子じゃなくて、私に渡すかなぁ? 持っているだけでいいなら、あの子にあげれば良かったのに」
由良が学生の頃は、特に気になる相手がいなかったので、告白や第二ボタンで一喜一憂した記憶はない。ボタンひとつでこんなにも悩めるなんて、かえってうらやましかった。
「質問の答えですが、」
「はい」
女子高生は姿勢を正す。
「第二ボタンをどうするかより先に、やることがあるんじゃないですか?」
「やること?」
「告白ですよ、お友達の。オッケーでもそうでなくても、告白したら吹っ切ろうって決めていたのでしょう?」
「だけど、第二ボタンはもう……」
「好きな人のボタンなら、第一でも第三でも第四でも欲しいと思いますよ」
「本当? お姉さんも?」
由良の頭の中に、自然と紅葉谷の姿が浮かび上がった。
「……私の好きな人は、ボタンがついていない服をよく着ているので」
「それって、あの人みたいな格好ですか?」
女子高生はカウンター席に座っている男性を指差す。
由良は視線を向け、ギョッとした。客の男性は眼鏡のレンズ越しに由良と目が合うと、ニヘラと微笑んだ。
「お姿は見えないですけど、もしかして〈探し人〉と僕の話してます? 僕が着ている着物も、ボタンがついていないんですけど」
「……紅葉さんはドーナッツでも食べていてください」
「わぁい」
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