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第122話 聖女の密印

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 今日は酒呑童子さんとミレ、ミカ、ミナ、そしてなぜかシーラと瑞歌さんが一緒に旧世界、まぁいわゆる人間たちの世界に来ている。
 ボクにとっての世界は日本と新世界の方なので、ここでは訪問者みたいなものだ。
 といっても、この世界では大神殿以外では実績を残していないため、一部の人しかボクの存在を知らない。
 この世界はのんびりしているようで忙しなく、そして血生臭い。

「今日は酒呑童子さんたちの登録をするからアルテ村に行きますよ」
「おう」
 みんなが頷いたのを確認してさっそく馬車に乗り込んだ。

「にしてもよ、森の中で馬車とか頭おかしいんじゃねえかっておもったが、なかなかどうして」
 木々の生い茂る森の中で馬車というのは確かに変かもしれない。
 しかし、この馬車には木除けの印が刻まれているので気をすり抜ける形で進んでいくのだ。
 前のお守りでは気が避ける形だったのだが、今回のは木が触れる前に透過するという謎技術が使われている。
 なんでも木除けと幽鬼の印がどうのと瑞歌さんが言っていた。

「幽鬼の印を使って透過しているだけですわ。ちゃんとした道がほしいなら整備計画を立ててからになさいませ」
「お、おう」
 若干押され気味になる酒呑童子さん。
 まぁこの辺りの道は整備計画がないからどうしてもね……。

「まぁそのうち立てましょうか。正直、アルテ村に繋がる道を作るメリットがないんですけどね」
 人間を呼び入れたいわけではないのであんまり乗り気じゃないけどね。

 そんなことを話しながら森を進んでいると、遠くから剣劇の音が聞こえてきた。
 どうやらハンターがいるようだ。

「ミレ、迂回お願いします」
 了解とばかりに頷いたミレは、さっそく馬車を剣劇のした方向から距離を取るように動かす。

「距離を取るのですか? わかりました」
「ふぁっ!?」
 今使っているのは二頭立ての馬車なのだが、今回も一頭の白い馬がしゃべった。
 よく見るとなんとなく見たことがある。

「この前のペガサスさん夫妻ですか?」
「その通りです。小さな女神様」
「お久しぶりです」
 そうボクに挨拶してくれたのは、マルムさんたちと出会った時にも話したことのあるペガサスさんたちだった。

「人間も悪い子ばかりではないのですが、名誉とお金が絡むと途端に面倒な存在になりますからね」
 ペガサスさんは何か辛い思いででもあるのだろうか?

「アルテはまだまだと聞きましたが、ほかの都市では私たちのようなペガサスを捕まえると破格の金銭と名誉を与えるそうです。なんでも貴族として箔が付くとか」
「は、はぁ……」
 ペガサスさんの奥さんも同じようにそう話す。
 しょうもない話だと思うけど、それはボクが子供だからなのだろうか?
 これでも高校一年生なはずなんだけど……。

 なんとなく悲しい気持ちになりながらも森を抜け、平原へとやってきた。
 その時点でペガサスさんたちは普通の白い馬に偽装していた。

「では参りましょう」
 ペガサスさんたちに引かれ、ボクたちはアルテ村へと向かった。

 アルテ村周辺の平原や森ではハンターや木こりが働いている。
 特にゴブリン種の数が微増しているらしく、若手のハンターが駆り出されている姿が見えた。
 どこかでみたことのある男の子も混じっていたので忙しいのだろう。

 馬車は土で整えられた街道を進む。
 小石などもあり、時々軽く馬車が揺れるが大きく上下することはない。
 アルテ村の門は大きくなっていて、前に見た時よりさらに村自体が大きくなったように見える。
 まぁ前の時点でも村部分と街部分は分けられていたようだけど……。

 アルテ村前に到着すると街側の門へと進み、そこで検査を受ける。
 ボクたちの前にはたくさんの人と馬車、そして一部豪華な馬車が存在しているのが見えた。
 おそらく貴族的な人なのだろう。

 門は3か所あり、大きくて頑丈そうな門は貴族専用らしく豪華な馬車はそちらへと向かっていった。
 対してボクたちは小さな門へと向かう。
 ここが一般入場門とのことだ。
 ちなみにもう1つの入り口は神殿関係者専用とのことで、大神殿の僧兵が守っていた。

「とまれー!」
 門に辿り着くと、衛兵さんに静止される。
 衛兵さんは馬と馬車を見て訝しみ、さらに御者のフェアリーノームを見て驚いていた。

「な、なんなんだお前たちは」
 これは衛兵さんの第一声である。

「あら、アルテ村に入村しようとしているただの旅人ですわよ?」
 その声に答えたのは瑞歌さんだった。

「え? あっ、き、貴族の、方?」
 見目麗しい瑞歌さんを見た衛生さんは急に恐縮してしまう。
 どうやら立ち振る舞いから貴族だと思い込んだようだ。

「違いますわ。ただの平民ですわよ。検査をするなら早くお願いしてもいいかしら? ただ、中にいる白い髪の少女にはくれぐれも触れないようにお願い致しますわ。私の主様ですの」
「わ、わ、わかりました」
 何かに当てられたのか、衛兵さんは瑞歌さんの言葉に従ってしまう。
 そしてそのままボクたちの馬車を確認し、乗っているメンバーを見て絶句する。

「ほ、本当に平民、なのですか!?」
「あら? でも家紋も何もありませんわよ?」
「そ、そうですが……。あれ? この紋様は?」
 衛兵さんは馬車の先頭部分に小さく描かれた紋様を見つけた。
 それはミレイさんがお守りとして描いてくれたものだった。

「ちょっと照会します。しばらくお待ちを」
 そう言うと衛兵さんは詰所の中へと入っていってしまった。
 この衛兵さん、最初とは違ってすっかり大人しくなってしまっている。

「瑞歌さん、何かしました?」
「いえ? 特に何もありませんわ。あぁでも、種族の特性として下位者を従えるというのはありますけれど」
「あ、たぶんそれです」
 何でもないように瑞歌さんはそう言うが、原因はそれで間違いないようだ。
 
「にしても、弱っちそうなやつらばっかりだな~」
 車内にいる酒呑童子さんがつまらなそうに言う。

「間違っても人に向かってそう言っちゃダメですからね」
「あぁ、わかってるって」
 酒呑童子さんから見れば大抵の人は弱いだろうけど、それを言うと怒る人もいるかもしれないからテレパシーだけで言ってほしい。

 しばらく話していると、詰所のほうがバタバタとし始めた。
 そして誰かがどこかに行くと、神殿関係者専用門の僧兵さんがやってきたのだ。

「ご案内致します。どうぞ、こちらへ」
「わかりましたわ。馬車を」
 僧兵さんの言葉を聞き、瑞歌さんがミレにそう指示する。
 馬車は誘導に従って神殿関係者専用門を通り抜け、アルテ村の街部分へと入っていったのだった。

 神殿関係者専用門を抜けると、そこには比較的大きな神殿があった。
 比較的最近大急ぎで作ったものらしい。

「アルテ村猟師ギルドのギルドマスター兼大神殿第二級司祭のヒンメスが面会を希望しておりますが如何致しますか」
 門と通り抜け神殿側へと向かっている途中、付き従っていた僧兵さんがそう口にした。

「ギルドには登録の幼児がありますので、ついででよければ構いませんわ。それで、ヒンメス様はどちらに?」
「はっ。ヒンメスは現在猟師ギルドの執務室におります。ご案内致します」
 瑞歌さんがそう答えると、僧兵さんはどこかに指示を出し、ボクたちを案内し始めた。

 神殿の区画は囲いで囲まれているらしく、街のほかの部分とは明らかに違うつくりをしている。
 そうでなくとも、ハンターたちや町や村の人がいるわけでもない。
 ここは完全に信仰のための施設なのだろう。
 さらに言えば神殿の区画内では、ボクたちが通るとき、そこにいる人々は跪いて手を合わせていた。
 どうやら、これはそういうことらしい。

「門の衛兵から妙な紋様があると聞き、急いで駆けつけて来たのは正解でした。その報告にあった紋様というのが聖女様の密印だったからです」
 ボクたちは知らなかったけど、ミレイさんはこういうことも見越してあの紋様と描いたのだろう。
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