雑魚兎が貴族に飼われてもいいじゃない!?

べべ

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第1章:兎、把握しました

第1章ー終

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 勝手は違えど、食事の後ってのは不思議な停滞感が場を支配するもんだ。
 その時間に何をするかってのは、個々人に許された自由の象徴であると、俺は思う。
 人によってはコーヒーを嗜むだろう。人によっては、片付けもそこそこに横になるだろう。

 何をするも自由、何もしないも自由。
 だから、こうして食堂に残りながら家族で語り合うというのも、また自由が生み出した一つの奇跡なんだと思う。

「美味しかったよ。テルム」

「えぇ、最初はどうかと思ったけども、終わってみれば満足感に包まれたいい夕餉だったわ」

 おっさんとお母ちゃんは、茶をしばきながら満足そうにテルム坊っちゃんに語りかける。
 その瞳に昼間の剣呑さ、そして我が子を心配する光は感じられない。

「お腹いっぱい……」

 チビっ子よ、そりゃあ肉をおかずに3杯もご飯もおかわりすれば満腹にもなるだろう。
 その体のどこに米が入ってんだ? ってくらい食ってたからなぁ。

「ありがとうございます。そう言っていただけると、頑張ったかいがありますよぉ」

 坊っちゃんもまた、おっさん達と同じ茶を嗜みながら微笑んでいる。
 片付けは給仕の姉ちゃんがいつの間にかやってくれてたし、料理長も席を外して今はいない。
 本当の意味での、家族団欒ぶっちゃけトークの時間だ。

「さて、テルムがここまでしてくれたんだ。私達も答えを出さないといけないね、ネア」

「えぇ、そうですねアナタ。正直、私はまだ不安なんだけど……」

 さぁて、答えはどうなったやら。
 手応えはあった。しかし、その結果がどうなるかなんてとてもじゃないがわからない。
 余裕ぶっこいて待ってた結果、採用見送りになってリクルートスーツを壁に叩きつけた事なんざ五万とある。

 どんな答えでも受け止める、そんな崇高な精神なんぞこちらは持ち合わせてないんだ。理不尽だと嘆き、さらなるチャンスを強欲にねだる準備は整っている。
 今なら、会社員時代に培った土下座テクもキレッキレで披露できることだろう。

「お聞かせください、お父様、お母様。カクはこうして、己の価値を提示しました。それが強さを度外視するに値するのか、否か」

 坊っちゃんの言葉におっさんが頷く。その顔は父親としてというより、領主としてのものではないか。そう思えた。
 僅かな沈黙。親子の間に流れる、静電気のようなチリつき。


「認めるよ、カクくんは、我々の家族だ」


 そして俺の脳内は、「勝訴!」の紙を広げ走ってくる兎達に塗りつぶされた。
 いよっしゃ! うぉぉ! フォォォォウ!!

「正直、今回の夕食がカクくんによるものかは、判断がついていないんだけどねぇ」

「そうねぇ、あの料理長の突飛な思いつきという線もあるし、単純にテルム、貴方が考えた料理であるという可能性もあるわ。私としてはそっちを押したいんだけども……」

 もはや両親の言葉なんぞ俺の耳には入っていない。
 今や頭ん中はサンバカーニバル状態。和太鼓の爆音と共に全身を揺さぶる兎達が、ディスコキングも真っ青の魅惑的腰つきをくりだしているのだから聞こえる訳がない。

「しかし、どちらにせよこれは、テルム自身が成した事だ。契約獣を守る為に、君は才を我々に示してくれた。その結果は重く受けとめ、要望を聞き入れなくてはならないよねぇ」

「あ、ありがとうございます! やったねカク!」

『おぅ! 肩の荷が降りたってもんだ!』

 これで、俺の積年の夢である「ぐうたらイズジャスティス」な生活に文句は言われねぇ!
 免罪符を手にしたとは、まさにこのことである。

「テルム。そのホーンラビットについては、君に一任すると我々は決めた。結果として、君は生きにくい道を選んだ事になる」

「は、はいっ」

「だが、君の相方が本当に知恵者であるのならば、どんな苦境も二人で乗り越えられるはずだ。頑張りなさい」

「はいっ!」

「フスッ!」

 こうして、俺は家族に受け入れられ、名実ともにテルム坊っちゃんの契約獣となった。
 マンガや小説だったなら、「ここからが、伝説の幕開けだったのである」とでもナレーションしてしまうような肩書を手に入れたわけだが……俺はそんなもんに興味はない!!
 坊っちゃんの庇護に甘んじて、ガンガンに怠けさせてもらうとするぜ!

 春の風を肴に昼寝し、夏には川で涼む。秋には実りを平らげ、冬は暖の側でまた寝続ける。
 これからが楽しみで仕方ない。俺の、俺達の怠惰な日常は、これからが本番なんだ……!
 
「……デブ兎、米以外にもなぁんか知ってそうよね……これは、是が非でも美味しい物を絞り出してもらうしかないわね」

 ん? よく聞こえなかったけど、なんだか悪寒と冷や汗が止まりませんがこれいかに?
 
 
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