雑魚兎が貴族に飼われてもいいじゃない!?

べべ

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第1章:兎、把握しました

第1章ー7

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「お待たせ致しました、お館様方! 坊っちゃまが手塩にかけて調理なさいました今宵のご馳走! どうぞ心ゆくまでご堪能くださいませ!」

「うん、無理を言って済まなかったねぇ料理長」

「いえいえ! 私も大変勉強になりました故! お気遣いお構いなく!」

 料理長が口上を述べ、おっさんが返事を返している間にも、給仕の姉ちゃんが食事を並べて行く。サプライズのつもりなのか、保温のつもりなのか、その全容は丸い蓋で隠されて伺えない。

 チビっ子、見えないからってやめなさい。蓋の前でクンクン匂い嗅ぐのはやめなさい。はしたないからやめなさい!

「さて、テルム。この中にお米を使ったメニューが入ってるんだね?」

「はい、そうですお父様。冷めない内に、どうぞめしあがれ」

「本当に食べれるもの入ってるの? スッゴクうるさかったんだけどっ」

「そうねぇ、警報かと思って焦っちゃったもの」

 女性陣はどうにもいぶかしげだな。まぁ仕方ないのかもしれんが、食う前から警戒してほしくないもんだ。
 なんのかんので、坊っちゃんの手料理と言っても過言じゃねぇ訳だしな。

「ふむ……では、いただこうか」

 おっさんの一言で、家族は居住まいを正す。
 いつものように、家族で食材に祈りを捧げる時間が過ぎていく。
 俺にとっては、採用面接に等しい時間だ。どことな~く、胃が痛い感じがするぜ……。

『不安?』

『正直な』

『……大丈夫、信じよう?』

 わかってる。やれるだけの事はやったんだ。
 これでダメなら、土下座してでも居座ってやるぜ……!

『潔く出てくんじゃないんだね!?』

 俺らがそんな脳内会話を繰り広げていく中、3人の手が蓋に伸びる。
 んで……いよいよ蓋を開け、中を確認した。

「ほう?」

「あら」

「ん~?」

 そこには、食器こそ違えど馴染みある、よくある日本の食卓が顕現していた。

「これは、米をお皿に盛ってるだけじゃないかしら?」
「いや、しかし……煮詰めている訳ではなさそうだよ。ネア」
「なにこれ、黄色いの……卵? こっちはしんなりした野菜ね」

 できるだけ茶碗に近い深皿に、炊いたご飯をよそった一品。
 一回目の味見ん時は、やはり鍋が歪なせいか少し水っぽくなってしまっていた。

 けど、それを見て味わった料理長が、炊く長さを調節してなんとか『ご飯』と呼べる段階まで持ってきてくれたのがコイツだ。
 良い炊きあがりの時には米が立つって言うが、料理長が自分で一から作ってみたご飯は、本当にその通りの出来栄えを見せてくれた。

 んで、もう一品は卵焼き。
 つっても、丸いフライパンで試してみただけの、ようは層になってるオムレツみたいな出来である。
 味付けは米に合うよう、塩にスープの出汁を加えた擬似出汁巻き卵だ。もちのろんろん、料理長作。坊っちゃんは焦がした。

 最期は、浅漬。
 野菜をボウルにぶち込み、塩を少々くわえて揉んでいく。
 あとは皿なんか乗せて、重しをしておくだけ。独身に優しい簡単クッキング代表だ。
 本当にシンプルな塩味だけだが、これが米には合う。と信じよう。

 しめて三種の和食もどき。味噌汁が無いのはご愛嬌! なんでって味噌ないからね!

「ほう、ほう……ふむ、いただこう」

 最初に動いたのは、おっさんだ。さじを手に取り、米の小山をほぐすようにすくい上げる。
 一気に大口でいくのではなく、様子見といった量を取り、口に含んでいく。
 もむもむと咀嚼しつつ、口内の味を確かめているようだ。

「…………んっ」

「ふぅん。あむ」

 それを見て、お母ちゃんとチビっ子もようやくご飯に口をつけた。
 ……しばしの無言が続く。
 今、彼らの口内では、米がそれぞれ抱き合っている状態から唾液に絡み、ほぐれていっているのだろう。

 一粒一粒を奥歯で噛み締め、少しずつ堪能していけば、きっと米本来の甘みが見つけられるはずだ。
 特にこの米は、味見したけどさほど雑味がない。どっかのテレビでは米には雑味こそ必要とか言ってたけど、事この場面に置いては雑味よりも甘みに活躍してもらいたいものだ。

「……素朴ね」

 最初にそう言ったのは、お母ちゃんだった。その瞳には、少々の落胆が見て取れる。

「確かに、煮込んだもの以外のお米を食べられたのは新鮮だけど……それだけじゃないかしら? ほんのり甘いのは認めるけど、強い味がある訳ではないし……」

『米に砂糖みたいな味があったら主食にならんだろうが!? 味が欲しけりゃチャーハン作ってろや!?』

『カク、聞こえてないからって念話で愚痴んないでよぉ!』

 俺がイメージの中でお母ちゃんにガンたれながら内弁慶なパッションをぶちまけている中、チビっ子は何も言わない。
 いや、というより、もくもくと飯食ってるんですが……。

「ネア、おそらくだがこれは、パンと似たようなものだ」

「え?」

「そのオムレツと一緒に食べてみなさい」

 オムレツじゃなくて卵焼きなんだがな!? ま、まぁ、初めて見る人にとってはオムレツか。
 お母ちゃんは、おっさんの言葉を素直に聞き入れて卵焼きに匙を伸ばす。
 程よい大きさに切って口に含み、数回咀嚼して「あら、美味しい」と口にしながら、お米を食べる。

「……あら、まぁ」

「うむ……程よい塩気と旨味、そして絶妙な歯ごたえのオムレツと一緒に食べると、お米の風味と卵の味が混ざってより良い味わいになるね」

「えぇ、こんなにも味が引き立つなんて思いもしなかったわ。このオムレツも、初めて食べる食感ね」

 更におっさんは、浅漬けをカリッと一口齧ってポリポリ味わい、その倍近い米を口に運ぶ。
 この野菜は、パナペっていう野菜らしい。翻訳されてないって事は当然、この世界特有の野菜なんだが……食感や水分量的には、キュウリに近い。見た目はアスパラみたいなんだけど。
 だもんだから、咄嗟の思いつきで浅漬けにしてみたんだが……おっさん的には、正解だったらしい。

「パナペをこうして食べるのは、幼少依頼だなぁ。塩だけつけて生で食べる贅沢はなんとも言えないよ。けど、これは少し水分が出ているねぇ?」

「は、はいっ、浅漬けっていうやり方で、塩を振って揉むだけで出来るんですっ」

「ふむ、さっぱりしていて、なおかつこれも米に合う。塩が引き出したパナペ本来の味が、米の旨味に絡んで口の中に広がるよ。一度味覚がリセットされたような、新鮮な心地だ。またオムレツと絡めて食べたくなってしまうなぁ」

 おっさん、グルメリポートすげぇな!
 俺、なんか腹減ってきたんだけど!?

「料理長……これは、米が主食足り得ると判断できる料理だね?」

「お館様の意見に同意いたします……!」

 今まで黙っていた料理長だが、おっさんに話しかけられると心底嬉しそうに一礼する。

「本来、煮込むことでしか調理できないと考えられていたこの食材。しかし、今回のようにそれ本来の味をそのまま味わえるように調理できさえすれば、その奥ゆかしき旨味と甘みが他の料理を引き立てる素晴らしい主食足り得る! と、私も判断した次第でございます」

「そうだねぇ。それにこれは、思いのほかお腹にも溜まりそうだ」

「火を通していない状態のものは、保存状態さえ良ければ腐ることは滅多にないそうです。もし栽培に成功し、備蓄や輸出ができるようになれば……飢饉などにも対応できましょう!」

 政治の話なんぞおれは知らんが……さっきから卵つついてるお母ちゃんや、おっさんたちの反応を見るに、悪くない結果に終わりそうな気がしてくる。
 俺、合格? 合格っすか!?

「料理長!!」

 うぉお!?
 今まで黙ってたチビっ子が、急に大声を上げやがった。
 なんだ? この状況で余計なことして場をかき回すのだけはやめてくれよ!?

「いかが致しましたか? お嬢様」

「………くは?」

「はい?」

 俺を含む全員の視線が集まる中、チビっ子は言葉を紡ぐ。
 一体、何を考えて……

「お昼の肉は、余ってるのかしら!?」


 …………。


 一瞬の沈黙。だが、それを破ってコトリと音が響く。
 見ると、給仕の姉ちゃんが、相変わらずの無口のままチビっ子に猪肉の香草焼きを提供していらっしゃいました。

「あぐっ!」

 それを見るや否や、チビっ子は大口で肉にかぶりついた。
 数回の咀嚼の後、もはや我慢出来ぬとばかりに皿を傾け、ご飯をかき込んでいく。
 全力、かつ最も美味いと断言できる、肉と米のコントラストを味わう最適解のような食い方と言えるだろう。

「て、テレサ?」

『話しかけるな坊っちゃん、巻き込まれるぞ!』

『え、何に!?』

 チビっ子は、食の中で気づいたのだ。米は、コッテリ系の肉料理と抜群に合うであろう事実に。
 それは悪魔的発想……一度味わえば戻ってこれぬ、禁断の果実。しかし、チビっ子はその修羅に、躊躇なく飛びついた。
 今この瞬間、チビっ子は歩み始めたのだ。脂肪デッドor美味アライブかの、終わりなきミートライスロードを。

「…………んっ! ……おかわりぃ!」

 俺と坊っちゃんの、初めての面接。
 それは、チビっ子の爆食と共に幕を閉じたのであった。
 
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