雑魚兎が貴族に飼われてもいいじゃない!?

べべ

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第1章:兎、把握しました

第1章ー6

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 アッセンバッハ家の厨房は、そこそこの大きさがある本格的なものだった。この国の食文化で使う設備は、一通り揃えてる感じなのが見て取れる。

 ハムなどの保存が効き、かつ使用頻度の高い食材が手の届く場所に吊ってある光景はどこかワイルドだ。

 そんな食材もなるべく傷まんよう、室温はつねに一定の温度に保たれているらしいが、これどんな技術なん? 俺には皆目検討もつかん。

「料理長、無理を言ってごめんなさい」

「……フスッ」

 そんな厨房の中心に立つ俺ら。その横にいるのは、例の料理長だ。
 顔は良いのになんでか信用できない胡散臭さを放つそいつは、ニヤニヤと笑いながら俺たちに一礼する。

「いえいえいえいえ! 私もまた、新たな調理の知識を得るやもしれない場面に立ち会えて幸せ絶頂感謝の極みに存じますれば! えぇ、遠慮なさらず、なんなりとお申し付けくださいませ!」

 ……う、うさんくせぇ。うさんくせぇが、コイツはこれがデフォなんだよなぁ。
 こんな言動しつつ、俺にこっそり人参の切れ端くれたりするから、悪い奴ではないんだよ。

「ん、じゃあカク。『たく』って言うのを教えてもらっていいかな?」

『んぁ、はいはい』

 米の炊き方。この世界には炊飯器なんてもちろん無ぇから、必然的に釜で炊く事になる。
 生前、ってか前世か。俺の母親は女で一つで俺を育ててくれた。お袋が仕事の時には、婆ちゃん家に厄介になることがかなりあった為……かまでの炊き方ってのはまぁ、慣れてたりする。
 けど、この世界には釜なんてねぇよなぁ。それ、どうすっかな?

『……あ~……釜、釜なぁ』

「なにか道具がいるの?」

『そうなんだよなぁ』

 とりあえず、坊っちゃんに釜についてを説明し、それを料理長に伝えてもらうことにした。

「ふぅむ。つまり鍋とはまた違う物がいる、と! そこが丸い金属の器と、それがすっぽりハマるかまど! いやいや豪気な事を仰る! 今から準備するとなるとホホっ、鍛冶屋と土木屋に依頼して、夕餉が明後日になってしまいますな!」

 ハッハッハ! 違ぇねぇ!
 でもそんな時間は無いんだよ! 夕食までは、腹時計的にあと2~3時間だ。こと食事に関しての俺の時間感覚は正確だから間違いない。

「んぅふふ、では時間が無いので、即興でこしらえてしまいましょっ」

 そんな困り果てた俺と違い、料理長はどこ吹く風だ。視線を横に向けると、隣には給仕の姉ちゃんがいる。
 その手には、金属の鍋と……金槌が、握られていた。

「……料理長? まさか……」

「新たな味の探求の為でしたらば、必要経費というものですなぁ?」

 そして、一分後。
 周囲に響き渡る轟音に、チビっ子が駆けつけてきて「うるさぁぁぁぁい!!」と大声を上げるまで、料理長は鍋をボッコボコにし続けたのであった。
 こえぇよ、こいつ!




    ◆  ◆  ◆




「ふぅむ! 少々不格好ではありますが、まぁ概ね丸くなったでしょう? 『たく』という調理法が今後も使えるものであれば、専用の釜を作らなくてはなりませんねぇ」

「そ、そう、だね……」

「……フス」

 未だにキンキンと幻聴を響かせる状態を引きずりながら、俺と坊っちゃんは料理長に同意する。
 ご満悦な様子に違わず、その手に持つ鍋はそこが丸く形成され直していた。いやまぁ、どことなく歪ではあるんだが……まぁ誤差だべ。うん。
 とにかく、これで釜は揃った。後は米を研いで炊くだけだ。

『じゃあ、坊っちゃん。今から俺が教える通りに動いてくれな』

「ん、わかったよ~」

 厨房のテーブルには、だいたい2合くらいの量の米が置いてある。まずは、この場にいる面子で味見をするための量だ。
 坊っちゃんに指示を出し、姉ちゃんに水やらなんやら準備してもらう。今度からは、厨房裏の井戸で研いだ方がいいな。

「うひっ、冷たい~」

「ふむふむ、米を洗うというのは我々も行いますが、ここまで念入りにはいたしませんねぇ」

「そうなの?」

 シャカシャカと、小さな手で米を研ぐ坊っちゃんの手際を、料理長は興味深そうに見つめている。
 とぎ汁をタライに捨て、また水を入れ、研ぐ。繰り返しだ。

「そもそも、この米なる種子。まだ発見されて日は浅く、研究され尽くしてはおりませぬ故! その硬さに最初は見向きもされておりませんでしたが、毒の有無を確認した後にスープと一緒にまとめて煮込むと、トロミがついて保温に長ける事がわかったが故に料理に使われるようになったのですよ!」

 楽しそうに説明し始める料理長。シャカシャカし続ける坊っちゃん。だらけてる俺。

「その後は基本的に、『煮込み』の用途でしか使われておりません! 炒めても固いだけでございますし? あとは煮込んだ物をチーズと絡めて、チーズにまた別の食感を付与するためのアクセントと言った所に落ち着きましたなぁ? そもそもそんなに量が採れませんので、こうしてお貴族の方に珍しさで買われるのがほとんどなのですよ!」

 話が長ぇ……聞いてる間に研ぎ終わっちまったよ。
 そろそろ良いぞと坊っちゃんに言うと、これ幸いと水から手を抜いて手拭いで温めている。こういう、家事に慣れてないところは貴族の坊っちゃんなんだなぁ。

「私としても、また別の用途があるならば是非に色々試してみたいのですが! この前盛大に焦がしてしまい怒られてからは研究させてもらえず……」

「あの、もう終わったよ?」

「おぉ! これはこれは失礼いたしました!」

 いかん、この人の話に付き合ってたら夕食に間に合わん。
 坊っちゃんに手順を説明し、さっさと炊いてもらうことにしよう。

「えっと、後はこのお米を鍋に入れて、水を1対1? になるように入れるんだって。そして蓋をして、煮詰めるそうだね」

「水の量は私が計って入れておきましょう。ですが、煮るとなるとこの底では、鍋が転がってしまいますなぁ」

 そうなんだよな。だから竈がいるわけで。
 研いだは良いけど、こっからどうする? そもそも普通の鍋で良かったんじゃね?
 いやでも、俺釜でしかやったことなかったしなぁ~……。

「カクも、この状態でどう火にかけたらいいかわかんないんだって……なんで最初に言わないのさ」

『いや、まさか即座に鍋一個ダメにするとは思わんかったからさ……もうなぁなぁで進めるしかないな、と』

「計画性ぃ~……」

「ふむ、でしたらば、しかたありませんな」

 料理長はそんな俺達を尻目に、鍋を片手に乗せて持ち上げる。
 キョトンとしてそれを眺めていると……ボンッ、と音がして、その手が燃え上がった、ってえぇぇぇぇ!?

「今回は、こうして魔法を使います。どのくらい待てばよろしいので?」

 ビビった、魔法、魔法か! 俺初めて見たわ。
 手が燃えるとか、一気にファンタジー味増したなオイ。

「カク? どのくらい待てばいいの?」

『あ、あぁ、悪い。中くらいの火で、そうだな……煮立った泡が、蓋を押し返して溢れるくらいだ。そしたらもう少し煮詰めて、その後は釜自体の熱で蒸らして行くんだ。大体、太陽の刻一つの半分くらいか?』

 時計がないから説明が面倒くさい!

「結構めんどくさいんだね……」

『その分、美味い』

「なるほどぉ」

 料理長にそのまんま説明してもらうと、嬉々として観察し続けてくれることを約束してくれた。
 熱くないんだろうか? まぁ、魔法なんてよくわからんし、大丈夫なら良いか。
 さて、と。

『坊っちゃん。悪いんだが、もうひとつ手伝ってくんねぇか?』

「いいけど、何するの?」

『米には、必要な物があるんだよ』

 正直、米だけ出してはいオシマイってんじゃちと不安だからな。
 もうひとつ、作ってみようじゃないの。

『いいか? 簡単にできるからやってみろ。まずだな……』

 厨房での調理が、少しずつ進んでいく。
 味見もして、料理長から感想も許可ももらった。

 んで、いよいよ夕食の時間。
 俺たち二人は、エプロン姿(なぜか俺の分もあった)で3人の視線に晒される事になったのであった。
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