雑魚兎が貴族に飼われてもいいじゃない!?

べべ

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第1章:兎、把握しました

第1章ー5

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「そう、ですねぇ。確かに、ホーンラビットは男爵家の看板にはふさわしくない強さかもしれません」

「フシッ!?」

 俺の祈りは虚しく空振り、坊っちゃんは言葉を紡ぐ。
 それは、いわゆる肩叩き。もう君は必要ないよ? って意志を言葉でなしに紡ぐ、絶対の呪い。
 つまるところ、リストラ宣言。ウィズ貴族社会。

「お母様が仰られているような、貴族の格というお話でしたらば、違う魔物と契約し直した方がいいのでしょうね」

「そうでしょう? 特にそのホーンラビットは、毎日のように寝ては食べてを繰り返しているだけじゃないの。テルムに相応しい存在とは思えないわ」

 正論ビィィィィム!?
 い、いかん、こんな時に限ってチビっ子は事が済むまで沈黙してるスタイルだし、ゴウンのおっさんに至っては昼飯を幸せそうに食い続けてるんですが!
 俺、明日からホームレス? グッバイ優雅な暮らし!? またよろしく野生社会!?
 そんな戦々恐々な俺の方を、テルム坊っちゃんはちらりと見てくる。

『安心してよ、カク』

『っ!?』

 頭の中に、響く声。坊っちゃんからの念話は、優しさに溢れていた。

「ですが、お母様。僕はカクとの契約を切るつもりはありません」

「……本気なの? テルム」

「えぇ、僕は、カクを大切な家族だと思っていますから」

 う………
 うぉぉぉおっ! 坊っちゃぁん!!
 あんた天使だよ! 俺、今なら坊っちゃんに抱かれてもいいわ!(枕的なサムシング)
 しかしながら、坊っちゃんがそのつもりでも納得してもらえなければどうにもならないのは事実。
 明らかにお母ちゃんはむくれてるし……どうやって説得するおつもりで?

「家族……貴方は優しい子ね、テルム。けど、お母さんはそれで納得はしないわよ? 主人も守れない契約獣なんて連れていたら、貴方にどんな危険が及ぶか……」

「まぁまぁネア、テルムの意見もちゃんと聞いてあげないと」

「アナタっ! アナタはあのホーンラビットに甘すぎます!」

 案の定、お母ちゃんは俺への不満を爆発させている。それに対して、ようやく昼飯からこちらに興味を移してくれたおっさん。
 こちらはまだ寛容な態度だ。……この場合、俺に対して優しいというよりは、テルム坊っちゃんの意志を確認したいのだろう。
 まぁまぁ、とお母ちゃんを手で制しつつ、テルムに視線を向ける。

「テルム。契約獣に関しては、私はなるべくテルム自身の意志を尊重したいと思っているよ」

「ありがとうございます」

「なに、私自身あまり格の高い魔物と契約している訳ではないからねぇ。テルムの気持ちはよくわかるつもりだ……しかし、それでも角兎よりは強い魔物だよ?」

 おっさん、お母ちゃんが睨んだのを感じてとっさにフォロー入れたな?
 弱い、弱いぞ、中年貴族……! どこの世も女房に頭が上がんねぇのはデフォなのか?

「しかし、家族であると言うならば、僕ら全員に認められてこそじゃないのかな? テルムだけが貫いてるだけの意志では、あまりに折れやすい。最低限、私達三人にもその子の価値を示してくれなければ、不満は溜まる一方だよ。その角兎……カクくんは、君やテレサのように、無条件で愛せる我が子という訳ではないんだから」

 ……これ、は、納得せざるを得ない。
 確かに、俺のここ3ヶ月は、トラバサミによる怪我の療養という形で悠々自適だった。

 しかし、それが癒えた今、契約獣として何かが求められるようになる訳だ。おっさんは、それを見定めてから最終的な判断をすべきと言っているのである。

 うぅむ、俺とテルム坊っちゃんにチャンスをあげつつ、お母ちゃんにも矛を収めさせる言い分……のらりくらりとした話術は、流石貴族という感じだ。

「そうですね、お父様の言う通りです。カクの傷も癒えましたし、これからは僕の契約獣としてやっていけるように教育していかなくてはなりません。それでも、アッセンバッハ家の事を考えると、不相応な強さであるという点は今後つきまとうレッテルとなるでしょう」

 それに対して、坊っちゃんの言葉も真摯しんしたるべきものだ。
 おっさんの目をしっかりと見据え、教育の賜物と言うべき言葉選びで返事を返している。10歳とは思えん冷静さだな。

「ですが……魔獣の価値は強さだけではありませんよ。お父様、お母様」

「……その角兎に、強さ以外でも置いておくだけの価値があると?」

「えぇ、そうです」

 ふと、俺の事をチビっ子がじっと見ていることに気がついた。
 なんというか、「このデブ兎、そんなにすごい特技でもあんの?」的な視線を感じる。いや、俺に聞かれても困りますがね?
 けど、坊っちゃんは自信満々でそんな俺をヨイショしている。ハ、ハードル上げすぎちゃダメだと、ワタクシ思う訳ですが……?

「では、さっそくだけどカクの価値を、ここで証明してみましょう!」

 そんな坊っちゃんは、気持ちいい笑顔で俺に全てをぶん投げてきた。

「フシッ!?」

 いやいやいやいや、さっきまでの「僕が守ってあげる」感じはどうなされたので!?
 何がどうなって、今すぐこの状況を打開してみせろと谷底に叩き落とすスパルタン精神を発揮なされておられるのか!?
 ご乱心じゃ!  テルム坊っちゃんがご乱心じゃぁぁあ!!

「カク、僕の膝に乗ってくれるかな?」

『いやいやいやいや、無茶振りにもほどですよ坊っちゃん!? 俺に一体何をしろと!?』

「大丈夫だって、ね?」

 うぅぅ、まさかここで面接を受ける感じになるとは……!
 生前のトラウマの一つ、人事部のメガネから覗く視線を思い出しながら、俺は恐る恐る坊っちゃんの膝の上に飛び乗る。なんか坊っちゃんが「うっ」とか言ってるけど、俺そんなに重い? 頭の上、自重する?

「さぁカク、僕たちのお昼ご飯を見て、なんか意見があるかな?」

『ご飯を見て、だぁ?』

 坊っちゃんの質問の意味はわからんが、とりあえず前方を確認してみる。
 えぁっと、本日のメニューは……おっさんの皿は空だからあてにならんな。え~……。

 緑黄色野菜のサラダ、猪肉の香草焼き……んで、根菜のスープに、採れたて卵を茹でた奴。
 黒パンがあって、その横には……あぁ、あれがある。『チーズリゾット』。
 そうなんだよな。この世界、米っぽいのが原生してるんだよ。気候が日本に似てるからか?

『ん~、しいて言うなら……なんでいっつも、米がメインじゃねぇのかなって思うわ』

「お米? このリゾットに入ってる奴かな?」

『そうそう』

 この米は、俺が日本でよく知ってる米じゃないのかも知れない。
 けど、坊っちゃんと繋がって世界の言葉が翻訳される俺から聞いても、坊っちゃんはこれを「米」だと言う。
 つまり、「ライス」を「お米」と翻訳してるみたいなもんなんだから、これは米で間違いないって事だろ? だったら、この米主食になるじゃねぇか。

 3ヶ月前から思ってたが、なんでいっつも副菜としてスープに入ってたり、こうしてリゾットみたいな感じで時々しか出て来ないんだろうって思うわけだわな。白米食えよお前ら。

『……とまぁ、こんな感じで。なんで炊いた米が出ないのかが不思議に思った訳でして』

「たいた? それは、お米の調理法なのかな?」

『正確には、「炊く」っつうやり方だわな』

「ふぅん……」

 そこまで聞いて、坊っちゃんはニヤリと笑う。
 んで、俺達のやり取りを見ていた家族三人に視線を向けつつ、こう言葉を続けた。

「お父様、カクはこの中のある食材を見て、新しい調理法を見出した様子です。是非、今日の夕餉にその調理法を見せてもらいましょう」

『…………はいぃ?』
 
 そして、何故か時間が飛び、夕食前。
 俺は、坊っちゃんと一緒に、厨房に立っていた。
 
 どうしてこうなったし。
 
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