雑魚兎が貴族に飼われてもいいじゃない!?

べべ

文字の大きさ
14 / 47
第2章:兎、村と町に行きます

第2章ー2

しおりを挟む
 
 と、言うわけで。やってまいりましたホーンブルグの町!
 館から歩いて20分かそこらの、丘の下に位置する小さな田舎町。
 かつては農作物を中心に栄えていた村だったそうだが、人口の増加と共に路線変更。狩りや商業、鍛冶を中心にした文化の町となった場所である。

 農業や畜産の技術は、ノンブルグに移った人たちが絶やすこと無く培われている。役割分担を決めた、対等なこの2つの土地が協力し合う事によって、アッセンバッハ家が管理するこの領地はさらなる発展を遂げていく事だろう。

「さぁ寄っといで! ノンブルグ産の新鮮な野菜だよ! 今朝届いた最高の一品さ!」

「ノーズデンから届いた岩塩はいかがかな!? 領主様の屋敷で扱われているのと同じ物だよ~! 今なら勉強させてもらうよぉ!」

「狩ったばかりのホーンラビットの肉だ! タレにつけてガブリと噛み付いてくんなよ!」

「お供に冷えたエールはどうだい? 隣の串焼きは味が濃いめだからサッパリするぜぇ?」

 大通りを歩くテルム坊っちゃんと、その頭の上にいる俺の耳に、町の喧騒が飛び込んでくる。
 隣を歩いているお母ちゃんや、チビっ子も相変わらずの活気に満足そうな様子だ。

 まぁ、ちょっと不穏なワードも聞こえたが……自然の摂理ってのはそういうもんだ。群れの者かはわからんが、ご同輩には冥福を祈らせてもらおう。

「テルム、今日の視察では何を見るべきかわかりますか?」

 お母ちゃんが、歩きながら坊っちゃんに問いかけを投げてくる。いつも雰囲気のいい服に身を包んでいるお母ちゃんだが、出かけの場では気合が違う。ひと目でアッセンバッハ家の者だとわかるような、美しいドレスを着込んでいる。

 通りを行く御婦人や少女はその姿に見惚れ、男性陣はすべからく鼻の下を伸ばしているのだから、おっさんがどれだけ勝ち組な結婚をしたのかは想像に難くない。

「ネアヒリム様! テルムレイン様、テレサレイン様も! 本日もご機嫌麗しゅう!」

「親子3人でお出かけですかぃ、こいつぁ良いもん見れた!」

「ふふ、おはよう皆さん。今日もお忙しいようで大変結構ですわ」

「ははは! 違ぇねぇ、嬉しい悲鳴はいくらでも上げてぇや!」

 町の面々は、お母ちゃんを中心に、親子3人を見つけると嬉しそうに声をかけてくれる。
 民に悪印象を持たれていないってのは、とてもとても重要なことだな。坊っちゃんの今後の為にも、彼らとの関係は良好なものを築きたいものだ。

「そう、ですね。活気はこの前見た時と同じですので、経済はうまく回っているのではないかと思います。なので、今回は町民の意見に耳を傾けるべきではないかと……思うんですが」

 そんな町民の様子を見ての、提案。
 坊っちゃん、あぁた本当に10歳ですか? 意見が子供のそれじゃないんですけど?

「そうねテルム。一軒一軒のお店を逐一確認して回るわけにはいかないけれど、貴方の考えは正しいものだと思うわ」

「え、えへへ」

「あとは、どこでそういう意見を聞くかなんだけど……」

「ねぇねぇお母様! サマンサの所でお食事にしない!?」

 チビっ子、お前は相変わらず食うことばかりなんだな。おじさんは悲しいよ……。
 だが、食いたいのは同感だ。いいぞもっとやれ。

「テレサ……お昼ご飯を町で食べてはいけないというわけでは無いし、サマンサのお店で食べるというのは賛成よ? けれど、お昼ご飯にはまだ少し早いと思うの……」

「あら、お昼時に入ってしまっては忙しくて聞けるお話も聞けなくてよお母様? それに、サマンサのお店では試験的にお米を扱って貰ってるんだから、積極的に見ていかなきゃ!」

 お、おおう、チビっ子め。こと食事に関することだったらいくらでも口が回りやがる。
 確かに、食事処で景気の話をするんだったら、忙しい昼時になる前に行ったほうがいいんだろう。

 ちなみに、サマンサってのはこの町でも老舗の食事処を切り盛りしている女将さんの事だ。旦那と娘がおり、家族が協力して経営している。温かい家庭の味が、圧倒的ボリュームでもって胃袋に襲いかかってくる料理の数々は、この町のちょっとした名物である。

「そうねぇ……確かに、一理あるわ。けど、商人ギルド支部にも顔を見せないといけないから、それが終わってからにしましょう? それなら時間的にもちょうどいいわ?」

「ぶ~……」

「ま、まぁまぁテレサ。お母様は、お父様みたいに突っ込んだ内容は聞かないだろうからそんなに時間はかからないさ」

「むう、わかった……」

 お母ちゃんも坊っちゃんも、まだ胃の中に食い物が残っているもんだから路線を切り替えるのに必死になっている。
 俺としてはサマンサの店が最初でもよかったんだが……まぁ、ギルドに行くのも悪くはない。
 お母ちゃんが職員と話をしている間は自由時間だろうし、坊っちゃんと一緒にギルド内を見て回るのも良いだろう。

『ねぇ、カク?』

『ん~?』

『お金、持ってきた?』

『……へへ~』

 坊っちゃんも、同じ気持ちだったらしい。似たり寄ったりな思考は、相棒としちゃ嬉しい所だ。
 俺は、腹周りの毛皮をゴソゴソと弄る。そこに入っているのは、小さな袋。僅かながら、坊っちゃんのヘソクリを持ち出させて貰っている。

 お母ちゃんはおっさんみてぇに甘くないから、子供に買い物とかさせない為にお金は持たせないんだよな……しかし、俺がこうして持ってりゃあ、見つかることなく悠々と買い物ができるってもんだ。

『坊っちゃんよ、お主も悪よのぉ』

『カク程じゃないさ~』

 多分、二人共悪い顔してんだろうな。チビっ子が首を傾げているが、奴の興味は現在、大半がサマンサの店で何を食うかだ。気付かれはしまい。
 そのまま俺と坊っちゃんはぐふぐふと笑いながらお母ちゃんの後ろを付いていったのであった。

『ちなみにカク、その収納スペースって、やっぱり贅にk……』

『毛ですぅぅぅ! モッフモフの! 毛ですぅぅぅ!』
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...