13 / 47
第2章:兎、村と町に行きます
第2章ー1
しおりを挟むこの世界の夏は、そこまで暑くない。
いや、暑いには暑い。夏だから当然だ。しかし、こと日本を知っている俺からしてみれば、茹だるようなアスファルト熱や紫外線ファイヤーなんぞが無い時点で天国と言える。
その上、ここは自然に囲まれた田舎町。人工物がさほど存在しない空間ということもあり、夏の暑さは鳴りを潜めているのだ。
これが王都であったならば、まだ暑さは増すことだろう。人間とはすべからく、熱を生み出してしまう生き物なのだから。
「それじゃあネア、テルムとテレサを頼んだよ」
「えぇアナタ、心配しないで? アナタも、村をよろしくお願いしますね」
そんな夏の館。玄関前にて。
俺の目の前では、仲睦まじい夫婦のスキンシップが展開されている。
江戸だろうと現代だろうと異世界だろうと冥界だろうと、女が男を見送る姿は絵になって大変好ましい気持ちになる。それが別嬪さんであればなおさらだ。
「お父様! いってらっしゃいませ!」
「私達もお母様の手伝い頑張るわっ!」
「うん、よろしく頼むよ二人とも。母さんを支えてあげておくれ」
ここにくわえて、愛する我が子まで見送りにきていると言うのだからおっさんはリアル充実の極地にいると言っていい。
人間時代の俺が、どうあがいても手に入れられなかったお宝だ。眩しくって仕方がない。
「カクくん、テルムをお願いするよ」
「フスッ」
おっさんがどこへ行くかと言うと、領地として任されている村への視察である。
現在、アッセンバッハ家が拝領しているのは、ここ田舎町の「ホーンブルグ」。そして、そのホーンブルグから派生した農村、「ノンブルグ」だ。
元々ホーンブルグも農業と畜産を生業としていた村であったが、先々代の領主がどんな魔法を使ったやら、町と呼べる規模まで拡大したらしい。
んで、先代が膨らんだ人工をなんとかするため、新たな農村を作り上げたのがノンブルグだという。
2つの土地はお互いに助け合い、今代の領主であるおっさんの指示の元で回っているのだ。
「よし、じゃあ行こうかな。コンステッド、荷物は積み終わったかな?」
「は、全て滞りなく」
「ん、ありがとう」
今回おっさんは、そのノンブルグで行われてる米農業……稲作の経過を確認しに行くのだろう。コンステッドをお供につけて、馬車で片道何時間もの距離を揺られるのだ。
おっさんの腰が爆発しない事を祈ろうじゃないか。
「何事もなければ、明日の昼には帰ってくるよ。料理長にお昼は楽しみにしていると伝えてくれるかい?」
「ふふふ、わかりました。いってらっしゃい」
おっさんとお母ちゃんが微笑み合う。視線を絡ませ、互いの気持ちを確認しあっているかのようだ。
そして名残惜しそうにおっさんは馬車に乗り込む……いや、仲良すぎだろアンタら。この調子だと、チビっ子に弟妹ができる日も近そうだ。
「「いってらっしゃ~い」」
テルム坊っちゃんとチビっ子が手を振り、馬車の中でおっさんもそれを返す。
いつまでもそうしてたら何も始まらないから、コンステッドが行者に指示を出し、馬を走らせて行く。
こうして我が家の大黒柱は、名残惜しそうに一泊二日のお仕事に向かうのであった……ホントあの人、家族好き過ぎだなぁ。
「……さぁ、これから忙しくなるわよ。テルム、テレサ?」
「はい、お母様」
「はいっ」
馬車が見えなくなるまで見送った後、お母ちゃんが俺たちに振り返る。
そう、今日は俺たち、というかこの2人にも仕事があるらしいのだ。
「お父さんがノンブルグの視察に行っているのだから、残った私達はホーンブルグを見て回らなければなりません。特にテルムは、少しでも多く土地を理解しておかなければなりませんよ?」
「はいっ、お母様!」
「お母様、お買い物していい?」
「ふふ、そうね。必要な物なら少しは買い足さなければならないわね」
「わーい!」
へぇ、町の見回りたぁ勤勉なことだ。チビっ子は完全に遊び半分だが、坊っちゃんはいずれ領地を継ぐ身。真面目に考えているようだな。
……正直、そんな坊っちゃんにはついていきたくないなぁ。今日はチビっ子についていこうかなぁ。
「……カク? ボディガード、よろしくね?」
「フシッ!?」
くっそ! 読まれてやがった!
これじゃあ抜け出して遊べねぇじゃねぇか! よりにもよってお母ちゃんのいる場所でそれを言うなんて……狙ってやがったな!
「テルム? 正直……カクがボディガードとして役に立つとは思えないのだけど……」
「いえいえお母様。カクは信頼できる僕の友人です。これほど頼もしいボディガードはいませんよ」
「そう? ……それなら、まぁ、ホーンブルグならば大丈夫だろうけど……」
お母ちゃんと俺の目が合う。
その視線からは、「テルムが怪我したら承知しませんよ?」という威圧を感じさせられた。
「フ、フスッ、フスッ」
慌てて首を縦に振りたくり、任せろとアピールしておく。
町でこっそりおこぼれ貰い旅に出ようと思い描いていた俺の絵は、あっさりと瓦解せしめてしまったのであった……。
0
あなたにおすすめの小説
神様のミスで死んだので、神獣もふもふと異世界インターネットで快適スローライフ始めます ~最強生活チートと1000万ポイントでポチりまくり!~
幸せのオムライス
ファンタジー
★HOTランキング1位感謝!(2026.1.23) カクヨムコン部門別 週間ランキング5位! なろう四半期ランクイン中!(異世界転生/ファンタジー/連載中) ★
山根ことり、28歳OL。私の平凡な毎日は、上から降ってきた神様の植木鉢が頭に直撃したことで、あっけなく幕を閉じた。
神様の100%過失による事故死ということで、お詫びにもらったのは3つのチート能力。
①通販サイトや検索が使える【異世界インターネット接続】
②もふもふ動物と話せる【もふもふテイマー&翻訳】
③戦闘はできないけど生活は最強な【生活魔法 Lv.99】
私の願いはただ一つ。働かずに、可愛いペットともふもふしながら快適なスローライフを送ること!
のはずが、転生先は森のど真ん中。おまけに保護された先の孤児院は、ご飯はまずいしお風呂もない劣悪環境!?
「私の安眠のため、改革します!」
チート能力を駆使して、ボロ屋敷がピカピカに大変身!
現代知識と通販調味料で絶品ごはんを振る舞えば、心を閉ざした子供たちも次々と懐いてきて……?
気づけばギルドに登録し、薬草採取で荒稼ぎ。謎の天才少女として街の注目株に!?
あれ、私のスローライフはどこへ?
これは、うっかりチートで快適な生活基盤を整えすぎた元OLが、最強神獣もふもふや仲間たちとのんびり暮らすために、ついでに周りも幸せにしちゃう、そんな物語。
【今後のストーリー構想(全11章完結予定)】
第1章 森の生活と孤児院改革(完結済)
第2章 ヤマネコ商会、爆誕!(連載中)
第3章 ようこそ、ヤマネコ冒険部へ!
第4章 王都は誘惑の香り
第5章 救国のセラピー
第6章 戦場のロジスティクス・イノベーション
第7章 領主様はスローライフをご所望です
第8章 プロジェクト・コトリランド
第9章 ヤマネコ式教育改革
第10章 魔王対策は役員会にて
第11章 魔王城、買収しました(完結予定)
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
異世界での異生活
なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる