18 / 47
第2章:兎、村と町に行きます
第2章ー6
しおりを挟む翌日、朝。
俺とテルム坊っちゃんは、神妙な顔で馬車に揺られていた。
馬は流石に交代しているらしいが、手入れ無く往復を余儀なくされている車体がギシギシと音を立て、なにやら気分を不安にさせる。
俺らの前に座っているおっさんも、どこか不安な様子で窓の外を眺めていた。
「すまないなぁ、お前に頼らざるをえなくて」
「いえ、お父様。僕もやれることをしたいですから」
「……」
馬車ってのは初めて乗るな。揺れるっていうか、跳ねるって感覚のが正しい感じだ。
こりゃあ、おっさんが腰をいたわるのも頷けるってもんだ。
ガコンっ!
「っ!」
「おぐぅっ」
「ブシュッ!?」
おごぉぉぅ……! キ、キタァァァ……!
尻にダイレクトアタックかましてくるこの衝撃ぃ……緩衝材である家畜の毛が敷き詰められたクッションがなければ、尾骨がいかれる未来しか見えねぇぞオイ!
「ふぅ、大丈夫かい?」
「え、えぇ、なんてことありませんよ。王都までの道のりよりは近いんですから」
「いやいや、王都までの道は舗装されてるんだから、この道中のほうがキツイんじゃないかなぁ」
ええぇ、長さを取るか、揺れを取るかなのぉ?
俺、もう馬車のらねぇ……!
『……カク』
『あん?』
『病気について、なんかわかった?』
『…………』
憂鬱な気分から、陰鬱に変わるような質問を投げかけるんじゃぁないよ……。
村の田んぼに広がったという病気。これがなんであるのか、俺はわかんねぇ。
そもそも見てねぇし、見たとしても分かんねぇだろう。
俺が対処できそうなのは、テレビで見た一つだけだ。だが、症状を見たからといってそれだと言える確信は、ない。
『なんとも言えねぇ……』
『……そっか』
だから、役に立てるかわかんねぇ。
それでも、坊っちゃんは俺を連れてきた。どうしてもって言うから、俺も了承したが……正直、残念な結末しか見えない。
「……旦那様、そろそろノンブルグだそうでございます」
行者の近くに待機していたコンステッド氏が、俺達に、というかおっさんに声をかける。
こいつだって連日の移動で応えているだろうに、キビキビとしたもんだ。人間やめてんじゃね?
「ありがとうコンステッド。さぁ、準備をしようかテルム」
「はいっ」
窓から顔を覗かせれば、おそらくノンブルグで育てているであろう麦畑が広がっている。
確かに、ここまでくれば村までは近そうだ。これが秋になれば黄金色の大海に様変わりすることを思うと、心躍るものがある。
「テルム、その上着取ってくれないかい?」
「はい、これですね?」
「ん、ありがとう」
おっさんと坊っちゃんは、貴族に相応しく外見を取り繕う準備を始める。
こういう所、ホント貴族ってめんどくさい。しかし、必要なんだからしょうがないって感じだな。
俺、本当にホーンラビットでよかったわぁ。
◆ ◆ ◆
「おぉ、領主様! テルム様も、連日の移動お疲れ様でございます!」
「お体を休める場所をご用意しておりますので、どうぞこちらへ! 蜂蜜を入れた乳も用意してございますので、しばし休憩を取ったほうが……!」
ノンブルグは、素朴な雰囲気ではない村だった。
ここに来るまでの畑からは、程よい田舎のローカル(意味被り)な雰囲気が漂っていたのだが……いかんせん、家屋のデザインがホーンブルグのものと酷似してるもんだからどっかオシャレな雰囲気になっている。
まぁ、当然だわな。建築技術なんかは共有してるし、大工とかも出張してるんだろうしな。
そんなノンブルグについてから、おっさん達を出迎えたのが、村長率いる村人たち。
なんと言いますか、若い頃にストレスを溜め込んだんだろうなって感じの村長だった……でなければ、あんな頭にはなるまい。
俺も、転生せずにずっとあの会社で仕事し続けてたら、あんな風になっていたんだろうか……。
「やぁ村長、悪いけど頂こうかな。一息つかないことには我々も動くに動けないよ。ははは」
「すみません村長さん。田んぼは休憩の後に見に行きますね」
「えぇ、もちろんです! ささ、どうぞこちらへ!」
荷降ろしはコンステッド氏に任せて、俺らは休憩所へ向かう。
といっても、いつでも田んぼに行けるように、外に日陰を作ってそこで飲み物を頂けるようにしてあるようだ。おっさんが村を発つ前にこう指示していたらしい。
正解だな。家の中でまったりしているよりは、こっちの方が今は気が楽だ。
「ど~ぞっ」
「わぁ、兎だぁ!」
「魔物ですか? テルム様の契約獣で?」
「えぇ、カクといいます」
数人の子どもたちが、椅子に座った俺らに蜂蜜ミルクを持ってきてくれた。所々に擦り傷があるのは、田舎の子どもたちが活発に走り回っている証拠だな。
チビっ子みたいにマセているわけでもないし、純粋な瞳で俺を見ている。なんだかこそばゆくなっちまうう。
「……フスッ」
「あはは! かわいい~」
「よかったら、撫でてみる?」
「いいの!?」
「おとなしいから、安心して撫でていいよ。ただ、優しくね?」
「は~い!」
おいおい、勝手に決めんなよ……まぁ良いけどさ。
子どもたちが俺を撫でる手は、最初はおずおずとしているものの、次第に遠慮がなくなっていくのが伝わってくる。
それでも、手付きは優しいもんだ。良い子達じゃないか。
「テルム、これを飲んだら早速、田んぼに向かうよ? いいね」
「はい、お父様」
おっさんと坊っちゃんは、甘さと濃厚さを兼ね備えているであろうミルクに舌鼓を打ちながらも緊張した様子を崩さない。
この村の未来を占う瞬間に立ち会っているのだから、当然だろう。
というか、俺には何かないのかしらね~?
「うさちゃん、お野菜食べる?」
「これ、トウモロコシの芯だけど!」
「フシッ」
あ、食います食います。
芯でもいけちゃうよ! 魔物ですからねっ!
「……それで、その、領主様……テルム様がいらっしゃったのであれば、あの田んぼは大丈夫なのです、よね?」
「「…………」」
村長の問いかけに、二人は押し黙る。
視線を泳がせ、言葉を探しているようだ。
「悪いが、断定はできないなぁ」
「見てみないことには、なんとも……」
「……さようですか」
だが、結局のところ、答えられるのはこういう返事だ。
変に希望を持たせるよりはいいと思うが……さて。
「……フスッ」
俺も、ちと必死に頭を働かせてみにゃならんかなぁ。
0
あなたにおすすめの小説
神様のミスで死んだので、神獣もふもふと異世界インターネットで快適スローライフ始めます ~最強生活チートと1000万ポイントでポチりまくり!~
幸せのオムライス
ファンタジー
★HOTランキング1位感謝!(2026.1.23) カクヨムコン部門別 週間ランキング5位! なろう四半期ランクイン中!(異世界転生/ファンタジー/連載中) ★
山根ことり、28歳OL。私の平凡な毎日は、上から降ってきた神様の植木鉢が頭に直撃したことで、あっけなく幕を閉じた。
神様の100%過失による事故死ということで、お詫びにもらったのは3つのチート能力。
①通販サイトや検索が使える【異世界インターネット接続】
②もふもふ動物と話せる【もふもふテイマー&翻訳】
③戦闘はできないけど生活は最強な【生活魔法 Lv.99】
私の願いはただ一つ。働かずに、可愛いペットともふもふしながら快適なスローライフを送ること!
のはずが、転生先は森のど真ん中。おまけに保護された先の孤児院は、ご飯はまずいしお風呂もない劣悪環境!?
「私の安眠のため、改革します!」
チート能力を駆使して、ボロ屋敷がピカピカに大変身!
現代知識と通販調味料で絶品ごはんを振る舞えば、心を閉ざした子供たちも次々と懐いてきて……?
気づけばギルドに登録し、薬草採取で荒稼ぎ。謎の天才少女として街の注目株に!?
あれ、私のスローライフはどこへ?
これは、うっかりチートで快適な生活基盤を整えすぎた元OLが、最強神獣もふもふや仲間たちとのんびり暮らすために、ついでに周りも幸せにしちゃう、そんな物語。
【今後のストーリー構想(全11章完結予定)】
第1章 森の生活と孤児院改革(完結済)
第2章 ヤマネコ商会、爆誕!(連載中)
第3章 ようこそ、ヤマネコ冒険部へ!
第4章 王都は誘惑の香り
第5章 救国のセラピー
第6章 戦場のロジスティクス・イノベーション
第7章 領主様はスローライフをご所望です
第8章 プロジェクト・コトリランド
第9章 ヤマネコ式教育改革
第10章 魔王対策は役員会にて
第11章 魔王城、買収しました(完結予定)
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
異世界での異生活
なにがし
ファンタジー
役職定年を迎えた男が事故に巻き込まれケガをする。病院に運ばれ治療をしていたはずなのに、なぜか異世界に。しかも、女性の衣服を身に着け、宿屋の一室に。最低な異世界転移を迎えた男が、異世界で生きるために頑張る物語です。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる