雑魚兎が貴族に飼われてもいいじゃない!?

べべ

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第2章:兎、村と町に行きます

第2章ー終

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 それからはもうてんやわんやだった。

 人手を集め、まずは仮称いもちに感染しているであろう稲を探す。わずかでも枯れている様子が見られる奴は対象だ。
 んで、枯れている部分を切除していく。軽い奴はさほどでもないが、多いやつに関しては、経過を見て抜くか否かを判断する。

 茎に感染した奴は、幸いにも5~6本程度で済んでいた。基準はわからんが、まぁ全体から見れば少ないと言える範囲なのではないだろうか?
 そいつらは申し訳ないが、抜かせてもらう。今後の為にも、不安の種は放っておけない。

「酢は持ったか!」

「こっちには回ってないぞ~」

「もう少し濃ゆい方がいいかねぇ?」

「最初は薄いくらいが良いんじゃねぇか? 稲が死んだら元も子もねぇや」

 皆が皆、この計画がうまくいく事を祈っている。
 だから、どれだけの可能性なんて考えない。やれるだけの事をやる、その意気込みがこちらからも伝わってくる。

「スンスン……フスッ」

 俺はというと、酢の分量を均一にするための手伝いをしている所だ。
 知っての通り、ホーンラビットってのは異様に鼻がいい種族だ。視力よりも強いのはまず間違いない。だから、一度酢の分量を決めた水の匂いを覚えてしまえば、後はその濃さまで調節することが可能な訳だ。

 一時間ばかし酢の匂い嗅ぎ続けたもんだから、頭ん中がどんちゃん騒ぎになってる気がするが、その程度で弱音は吐いていられない。

『うぅん、貴方、すっごぉく頑張ってるのね?』

『男らしいわぁん、ホント、食べちゃいたいくらい♪』

 俺の脇を挟むように、2つの頭がじっと見つめているのを背中で感じる。
 落ち着け俺……今は振り向くな。平常心だ。
 少しでもリアクションしたら、間違いなくオネェ特有の謎空間に引きずり込まれるぞ……!

『ねぇ、あの子の名前、聞いてきなさいよぉ』

『やぁん、恥ずかしいわぁ!』

 うおぉぉぉ、鳥肌がぁぁぁ!
 いくら兎の数え方が羽だからって、俺ぁ大空を舞う気はちゃんちゃらねぇぞぉ!

「カクっ、もう全員に行き渡ったんだって!」

『まぁ、カクきゅんって言うのね!(アベちゃんボイス)』

『なぁんて凛々しいお名前なの! 滾るわぁ……(超絶イケボ)』

 ひぃぃぃ!? 坊っちゃん! ノー! 今はノウ!?
 後ろの気配はもはや殺気の域だよ! 関わったら俺、オネェにされちまうよ!
 だから、俺は即座に逃げることにした。

『そーぉかぁーよくやったぁ! じゃあ散布しに行くぞぉ今行くぞぉ! ここから離れて一目散に田んぼにとびこめぇぇい!!』

「え、いや飛び込まないけど……ていうか、二頭牛エティンカウが凄い目でこっち見てるんだけどあれ何?」

『見るな! 目を合わせるな!』

 俺が坊っちゃんを促して田んぼに向かわせると、「「ぶふもぉぉぉん」」という至極残念そうな鳴き声が聞こえてきた。もう俺はこの村には近づくまい。そう胸に固く誓う。

「さぁ、それでは皆行きますぞぉ!」

 田んぼを囲むように揃う村人達の真ん中で、村長が声を張り上げる。
 各々ジョウロを手に持ち、田んぼを通過しながら酢を振りまくわけだ。

「我らの一代計画! 米農業の成功を祈ってぇぇ! そぉれ、へんらーやぁ!」

「「へんらーやぁ!!」」

 各々が、遠心力を利用し、巻いていく。
 俺たちの希望、全てを込めた、酢入の水を。

「へんらぁやぁ!」

「「へんらぁやぁ!!」」

 舞う。舞う。
 気持ちのいい掛け声と共に、踊るように。歌うように散っていく。
 昔の農家さんも、こんな感じで農業していたんだろうか?

「……上手くいく、かな」

『まぁ、信じようや』

 その光景を眺め、俺達は息をつく。あとは、待つだけだ。結果を。
 どのような結果であれ、受け止めるしかない。その上で、失敗ならばと泣き寝入りはこの人達はしないだろう。
 何がいけなかったか、次はどうするか。それを考え、なお進んでいくはずだ。
 だから、信じよう。こんな人達が、浮かばれちゃいけないなんてこたぁない筈だ。

「へんらぁやぁ!」

「「へんらーやぁ!!」」

『……へんら~やぁ』

「んふ、へんら~やぁ」

「フシッ」

 農民たちが定めた上限一杯。その散布が終わるまで、俺たちはその光景を眺めていた。


 ……その後、俺達は村長の家に一晩厄介になり、後日村を後にした。



    ◆  ◆  ◆



『あれから一週間だなぁ』

「そだねぇ~」

『おっさん、見に行ってるなぁ~』

「そだねぇ~」

『もうすぐ帰ってくるなぁ』

「そだねぇ~」

『……なんで一緒に見に行かないのん?』

「怖いからに決まってるでしょう!?」

『あ~、まぁ、わかるけど……俺も心臓痛いもんな』

「あ~、あ~、枯れてたらどうしよう、あ~、あ~、ごめんなさいごめんなさい……!」

『やめろオイ、謝んなおい! 罪悪感がマッハになんだろ!』

「だいたい、カクがよく知らない知識を適当にバラマキ過ぎなんだよ!?」

『俺のせいですか!? あぁそうだよ米とか俺のせいだよ! けど推し進めたのはおっさんと坊っちゃんですしぃ!?』

「なに、やんの!?」

『おうジョトだこら、吐いたツバ飲むんじゃねぇぞオォン?』

「今日こそ決着つけてやる! テレサ! テレサー!」

『おまっ! それはズルいんじゃなくて!?』

「勝てば官軍負ければ賊軍だぁぁ!」

『それ俺の生前のコトワザぁぁぁ!?』

「お教え頂き感謝のきわみぃぃぃぃ!!」

 ガチャ、ギィィ……。

「……坊ちゃま、旦那さまがお帰りになりましたが……」

「『っ!』」

 ドタァン! バンッ! ダダダダダダ……

「……行ってしまわれた……」


「『っ、よっしゃぁぁぁぁぁぁああああああああ!!』」


「……ホホ、ようございましたなぁ」
 
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