雑魚兎が貴族に飼われてもいいじゃない!?

べべ

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幕間:2

幕間:デヴvsチビ

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「かかってきなさいデブ兎ぃ!!」

「フシャー!!」

 アッセンバッハ家邸宅、中庭にて。
 どこぞのオチビ様の怒号が響く。ついでに謎の威嚇も響く。
 カメラをパンして見てみれば、互いによくわからん流派チックな構えを取って向き合っている俺とチビっ子がいた。

 その様、まさに一触即発。どちらかが明日の朝日を拝めないと言われても納得できるかもしれないサムシングを感じさせちゃう幻想的風景と言えよう。
 どうしてこんな事態になったのか? それは、話せば一冊分本が書けちゃいそうな程の理由が存在する。

「二人共頑張るんだぞ~」

「テレサ。気をつけるのよ? うっかりやっちゃわないようにね?」

「お母様、怖いこと言わないでくださいよ……カク、いざと言う時はギブアップするんだよ?」

 はい、ワタクシ共を囲んで見守るは、アッセンバッハファミリー全員。
 この中庭は適度に広く、また石畳を敷かれている。つまりどういう事かというと……。

「訓練だからって、容赦しないんだからね!」

『おうジョトだコラ。吐いたツバ飲むんじゃねぇぞオォン?』

「テレサ。上等だってさ~」

「やぁってやろうじゃない!」

 そう、戦闘訓練である。
 この世界、今までののんびりスローライフから何とも平和に見えるが、実はそんな事はない。
 人里から離れた場所には当然のように魔物はいるし、飢えた人間が山賊にジョブチェンジすることなんてザラにある。
 そういった危険から己の身を守る事も、また貴族としての嗜みなのである。
 んで、なんでまた俺とチビっ子の組み合わせなのかと言うとだな?

「くらいなさい!」

「フシッ!?」

 ぬおぉ!?
 危ねぇ、考え事してる間に、木刀が迫っていた。
 慌てて横に跳び、回避する。

「こなくそ! 誰が食欲大口蛇大食らい女よ!」

『うっせバーカ! 二頭牛エティンカウ扱いしてないだけマシだろうが!』

「テレサ、二頭牛扱いしてないだけマシって……」

『言うなよ馬鹿!?』

「OK殺すわ」

「フシャー!」

 きっかけは、俺と坊っちゃんの他愛ない馬鹿話し。
 チビっ子の食欲を全力で再現したジェスチャーを披露した結果、坊っちゃんがツボにはまり大爆笑。その大笑いがチビっ子の耳に入り、激ギレしたチビっ子が怒れるバーサーカーと化した訳だ。

「さぁ覚悟なさい! 今すぐ町の屋台に吊ってある兎肉のようにしてあげるわ!」

『死んでんじゃねぇか!? えぇいこなくそぉ!』

 結果として、腹の虫が収まらねぇチビっ子は訓練の相手に俺を指定。
 家族の皆様も、魔物との戦闘経験も必要だろうということで許可を出し、今に至る。

「さぁ、もっぱつ行くわよ!」

「フッシ!」

 木刀が横薙ぎに振るわれる。小さい相手を牽制する一手だろうが、当たるわけにはいかねぇから避けるしかない。
 上に跳んだらいい的だ。ここは後ろに下がって距離を取る。
 角のスレスレを木刀が掠めるが、焦ってたら追撃がくるもんだから気合で恐怖を抑え込む。

「フシャア!?」

 が、その行動が裏目。
 チビっ子のやつ、後ろに避ける事を読んで一歩前に踏み出して来やがった!
 あえて一発目の横薙ぎを軽くして、リカバリーしやすくしての追撃狙い。9歳でなんつう思考回路してやがる!

「隙あり!」

「っ!」

 距離を詰めて突きを放ってくるチビっ子。だが、やはり横薙ぎのリカバリーからの一撃故にその威力は控えめだ。
 避けらんねぇ……なら、仕方ねぇ。
 チビっ子の木刀を払うように角を合わせ、弾き返す。

「あわわっ」

「フシッ」

 チビっ子がバランスを崩すが、ここは追撃できない。
 俺らボーンラビットの一番の武器は、名前の通りこの角だ。木刀を弾くのに使ってしまったため、角を用いての攻勢に出るにはちと厳しい。
 だもんだから、チビっ子から距離を取り体勢を整える。その間にチビっ子もリカバリーし、また互いに向き合う形になってしまった。

「っ……余裕のつもり? 今の隙きを突かないなんて」

「フシュ~」

 チビっ子としてはそれが不服だったらしい。自分がバランスを崩している間に追撃がないもんだから、目に見えて不機嫌なご様子だ。
 魔物と戦う経験が浅いからこその勘違いですねぇ。

「テレサ。角兎は自分が不利な時は、相手が体勢を崩していても中々攻撃しないものなんだよ」

「そうなの?」

「そうとも、自分の危機には敏感な種族だからね。だからこそ本格的な戦闘になった時には手こずるんだよなぁ」

 おっさんが的確なアドバイスをくださっているが、まさにその通り。
 俺ら角兎は魔法なんぞ使えないが、自分の危機には人一倍……いや、魔物一倍鼻が利く。
 そして、追い詰められた時には決死の覚悟で相手に一発食らわして逃げるのが定番だ。
 魔物ならば魔力があるのが当然らしいが、その魔力を一瞬のブーストに回すって感じなのかねぇ。本能過ぎて意識してないから、自分でも説明できん。

「そうなのね……じゃあ、やり方を変えるわ」

「うん、頑張るんだよ」

 チビっ子の雰囲気が変わり、ゆっくりと木刀を俺に向ける。
 ゆらりゆらりと惑わすように剣先を揺らしてくるもんだから、ついついそれを目で追い、警戒してしまう。闘牛の牛にでもなった気分だが、それにつられて突っ込むなんて愚は犯さない。

「シッ!」

「っ!?」

 一瞬後、剣先が俺に迫ってきた。
 突きの軌道。最小の動きでかわせる攻撃だな。
 左脚に力を込め、横に跳ねる。
 そこから角を向けられるかどうかを確かめるんだが……横を通り過ぎるかと思っていた木刀が、一瞬で後ろに引っ込んで行きやがった。

「ふっ! はぁ!」

 しまった、フェイントかい!?
 再度繰り出される突きに対応しきれず、俺はまた角での迎撃を強いられる。まったく攻勢にでられる気がしないな。

 衝撃で一瞬体が宙を舞い、一回転して着地する。すぐに距離を離そうとするが、その瞬間にはチビっ子が距離を詰めてくる。
 繰り出される木刀。必要に迫られ、ついつい上に跳んでしまった。

「もらった!」

 狙われたな。着地が遅くなる上への跳躍を誘発させ、その時間を使って全力の一撃を繰り出す腹づもりなんだろう。
 上段に木刀を構えて接近してくるチビっ子を視界に収めながら、俺は後ろ足が地面に触れるのを感じる。

「っ、フシィ!」

「うぇ!?」

 だから、俺は思いっきり前に跳んだ。
 突然迫ってくる俺に、ギョッとするチビっ子の脇をすり抜ける。大変いい顔をいただきました!

「ンッ、フスンッ」

 そしてそのまま、後ろ足でチビっ子の後頭部を踏みつけ、再跳躍してみた。
 それにより、俺の体は石畳で仕切った枠内のギリギリまで跳び、着地にまでこぎつける。角兎が敵から逃げる時に、よく使われる伝統的手法であった。

「へぶぅ!?」

「あ~、やられたねぇ」

 チビっ子は思い切りすっ転び、ビタァン! と顔を打ち付ける。
 あ~ぁ、上段の構えで突っ込んでくるから~。あそこは空中迎撃が可能なように、横薙ぎの構えが良かったんじゃねぇかなぁ?

「そこまで! 魔物特有の動きに翻弄されちゃったねぇ」

「もう少し冷静に相手を見なきゃダメね」

「うぅぅ、痛いぃ」

 は~ぁ、いい汗かいたぜ。
 チビっ子もこれで懲りるだろうし、これ以上からかうつもりもない。俺ってば優し~い。

「お疲れ様、大変だったねぇ」

『おう。しつけぇ攻撃は勘弁して欲しいわ……もうしばらくは御免だな』

「むぅぅぅ、もう一回よ! 魔法さえ使えばこんな奴めじゃないんだから!」

「ダメだよテレサ、魔法は危ないからね。今日は剣術のみの訓練だったはずだろう?」

「うくぅ……!」

 確かに、チビっ子の本分は魔法みたいだからな。使われてたら俺の勝ち目はなかったろう。
 そん時は全力で逃げ回らせてもらうが……土の壁を出されたらそうもいかねぇ。まったく魔法ってのは厄介だ。

「さぁ、それじゃあ次はテルムの番だよ。カクくんも余裕があるみたいだし、連戦でもいけるよね?」

 は?

「フシッ? フーッ!」

「あはは、ほらカク。いこう?」

 いやいやいや冗談じゃねぇ!
 なんでまた坊っちゃんとやり合わないといけないわけ!?
 そしてなんで坊っちゃんはノリノリで木刀をスイングしてるわけ!?

「いやぁ、テルムの今の実力を知っておかないといけないからね。魔物を相手にするのなら、丁度いいじゃない」

「フス! フシャーッ!」

「はぁ……デブ兎、その次はまた私とだからね」

「そうね、これを期に運動なさい。カク」

「フシャーっ!」

 なんですかこの四面楚歌!?
 嫌だからな! 絶対もうやんねぇから!
 ストライキばりに首を横に振って意思表示するものの、俺の思いとは裏腹にご家族はノリノリである。
 特に、めちゃくちゃ良い笑顔で手を振ってる坊っちゃんからの圧がすごい。

「お~い、カク~」

 スッゴイ笑ってる。顔が凄く良い。
 笑うだけで後ろに華が舞う少年なんて、この世に何人いるのだろうか。

『はやくしないと、テレサが痺れを切らしちゃうよ~?』

『クッソ、この世に救いはねぇのかよ……!』

『まぁまぁ、手加減してあげるからさ~』

 チクショウめ、やってやる。やってやんよぉぉ!
 魔物舐めんじゃねぇや! 10歳のガキンチョ1人、ヒィヒィ言わせてやっから覚悟しやがれってんだ!
 泣いたって知らねぇからなコンチクショウめ!

「フシャーッ!」

「あはは、負けないぞ~」

 こうして、俺と坊っちゃんの大一番が幕を開けたのであった。
 もはやその心境は、魔王に向かって駆け出し「俺たちの戦いはこれからだ!」と仰られる勇者のそれであった事は想像に難くない。

「……アナタ。カクはあの子の実力、知っているのかしら?」

「どうだろうねぇ。私と一緒に狩りに行っていた事は知っていただろうし、ある程度は把握してるんじゃないかなぁ」

「……武器があれば、「赤毛クマレッドベア」を撃退できるくらいの実力だって教えたの?」

「言ってないねぇ」

「…………」

「…………」

「フギャァァァアア!?」

「あはは、待て待て~」

 その日の最終結論。
 もう絶対、坊っちゃんとは模擬戦しねぇと、魂に刻みました。
 
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