30 / 47
第3章:兎、実りました
第3章ー5
しおりを挟むせんべいをかっ食らっているくま子は一旦置いておくとして、俺たちは今回の本題に入ることにした。
ずばり、新しいギャンブルの提供である。
もはやこの町、賭場を公式化してギャンブルを主軸に回したほうが良いんじゃないだろうか?
『んじゃ、早速紹介して行こうかね』
『んふふ、楽しみだねぇ』
『今回は変に儲けが偏るような奴じゃにゃあなんな?』
そこんとこは心配いらん。
今日のギャンブルは、なるべく均等な奴にしたからな。
俺はもふもふの毛の中から、とある品を取り出す。
それは、羊皮紙を簡単に丸く切って、真ん中に串を通した代物だ。
『なんだいそれは?』
『これか? コマだよ』
『にゃー? 貴重な羊皮紙で出来とるにゃあ』
『おう、重ねて接着してるからソコソコ金かかってるぞ。適当にちょろまかして作った』
『『外道だね(にゃ)』』
『うるせぇわ』
コマには、黒と白に交互に塗られており、そこに数字が書いてある。
黒と白、それぞれ1から5までの数字だ。
これを見たのなら、同郷者は簡単に理解できる事だろう。
『とにかく、今回やるのは「ルーレット」だ』
『るーれっと、ねぇ』
『そりゃあコマって名前なんと違うにゃんならぁ?』
『コマはルーレットの概念を説明する為に作った教材だよ』
『ほぉん……』
なんかギルネコは着眼点がずれてんな。まぁいい。
ルーレットは単純明快。色や数字を当てるゲームだ。
回転する円形の盤上を玉が転がり、その結果としてとある一点に着弾する。
それが黒なのか白なのか、はたまた何の数字なのか、それを考える。
まぁ、やってみるべ。
『じゃあ、この小石が目盛な?』
『ふむふむ』
『んで、コマを回す。本当ならこのコマの上で更に玉が回るんだけど、今回は簡単に目盛制でいくぞ』
『なんでもいいから早くおしよ』
『おう。んじゃあ手始めに、このコマは、黒に目盛がとまると思うか? それとも白か?』
俺の質問に、ナディアは「そういうことかい」と笑い、黒を選択した。
ギルネコは無言。参加しないんか。
『んじゃ、回すぞ~』
軽い気持ちで、コマを回す。重心も上手く安定しており、綺麗に回転してくれた。
ナディアは感心したように声を出し、ギルネコは目を見開く。
やがてコマは回転を衰えさせ、軸をブレさせていく。
『っとと、そりゃずれるか……まぁ、目盛に指定した石から近い目が当たりだからな?』
『となると……ふふ、黒の4ってわけだね?』
ナディアの言う通り。目盛石から最も近いのは、黒の4番であった。
つまり、黒を選択したナディアの勝ちという事だ。
『この場合、単純に色を選ぶだけなら2つに1つ。確率は半々だ。つまり、倍率は低い。当然だな』
『色に関係なく、数字を当てにいく事もできるんだね? このコマには1から5まで書いてあるから、この場合5分の1……色を当てるよりも倍率が高い、と』
『そうだな。そして当然……』
『色と数字を当てる、一点張りが最難関……最高倍率ってわけかい』
流石、理解が早い。
このギャンブルは、複数人がまとめて賭けるが、それぞれがディーラーと一対一だ。
負けたら当然没収。勝てばその場で有り金が増える。
客と客とが争う心配はほとんどない。わりとクリーンな部類のギャンブルと言えよう。
『ふぅん……もちろん盤はでかく、数字は多くするとして……さっきは、玉を転がして遊ぶって言ってたね?』
『あぁ。それぞれの数字の場所に溝を作って、そん中に勢いが落ちた玉が入るんだ。回転する盤と、転がる玉を見つめるヒリヒリ感を味わうんだよ』
『いいじゃないか。是非職人に依頼して盤を作って貰うとしよう』
このルーレットに、ナディアはご満悦だ。何度もコマを回しながら、確率の計算なんぞ始めている。
気に入ってくれたら何よりだが……。
『一応言っとくが、法外なオッズはだめだからな』
『心配するんじゃないよ。一番信用のある賭場に置かせるさ』
『ホント頼んだぞ。約束破ったらもうアイディアあげねぇからな』
『怖い怖い。それはゴメンだから必ずそうさせるさ』
うん、これで大丈夫だろ。
坊っちゃん達に話は通してないが、まぁ一個くらいギルドオリジナルがあってもいい筈だ。
うん、そのはずだ。そう思っておこう。
『……のぉ、ところでカク』
『あん?』
と、ナディアとの会話が途切れた所で、ギルネコが割って入ってくる。
何だ? やっぱりルーレットダメだったか?
『いや、ルーレットに関してはにゃんもにゃぁ。割と公平だしにゃ』
『俺顔に出てた?』
『口から出てたにゃんならぁ。それよりも、これにゃこれ』
そう言ってギルネコが前足で包むのは、ころりと転がるコマである。
『コマがどうかしたのか?』
『こりゃあ、紙だけじゃにゃあで……いろんな材料で出来るにゃんな?』
『そうだな。これは軽いから指で回せるけど、木とかで作った奴は紐巻いたりして遊べるぞ』
『にゃるほどにゃ……ちなみに、これもご家族には見せたんにゃ?』
『コンステッドに作ってもらって、坊っちゃんは知ってる』
そこまで聞いて、ギルネコは思い切り舌打ちを打った。なんだよ、感じ悪いな。
コマがどうかしたんか?
『となると、兄君にご挨拶に伺わんとにゃらんにゃあ。こりゃあ、工芸品としてはいい線言ってる玩具にゃんならぁ』
『……あぁ、コマ売る算段してたのか!』
『当たり前にゃ。初めて見る玩具にゃんならぁ、職人達に作らせれば市場のバランスを取りやすくなるにゃ! 食文化と娯楽はまた加速するだろうし、こういうので職人達にテコ入れせにゃあ……!』
お、おう、たくましいなぁコイツ。
まぁ、坊っちゃんと話が通れば問題ないだろうし、別にいいんじゃね? 知らんけど。
0
あなたにおすすめの小説
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。
享年は25歳。
周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。
25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる