32 / 47
第3章:兎、実りました
第3章ー終
しおりを挟むそれから、秋の暮までのお話。
俺としては、もう町の為にどうこうなんてつもりは微塵もない。
米も食えるようになった、遊び相手もできた。
これからも美味い野菜をたらふく食えるし、昼寝ポジションも開拓できた。
となると、もう後はぐうたらするしかない訳で。
俺は全てを他人に任せ、自分ではほとんど何もしない自堕落な日々を送っていた。
食って出して寝る。命の危険無し。三食確約の最高級環境。
まさに人生を謳歌するには最高の条件が揃っているというものだ。
『あ~……幸せだぁ』
『……本当に、ダメな男だねぇアンタは』
屋敷の屋根の上にて。
寝転がる俺の隣に腰掛けているのは、先程までおっさんと話していたナディアだ。
念話を自前で使える魔物は、こうして自分から交渉にも出向く。今回は盗賊ギルドと、領主一家との関係を見直すための会議を行っていたとかなんとか。
『お~ナディア。まぁ座れよ、ここは今の時期いい塩梅なんだ』
『まぁ、確かに日が気持ちいいがねぇ……ちと風が寒くないかい?』
『そうか?』
『……あぁ、更に肉が……』
『確かに少し肌寒いかもしれねぇな! うん、ここにいたんじゃ風邪引いちまう!』
まったく、デリカシーの無い女だ。
確かに俺はここ最近だらけているが、それにしたって運動もしているのだ。太る訳がない。
町に散歩にだって行く。チビっ子からも逃げている。給仕の姉ちゃんからも隠れている。これ以上の運動は体に毒ってレベルだ。
『それよりっ、お前がこうして家にいるって事は、話が通ったと見て良いんだな?』
『……あぁ、通ったさ』
話の急な方向転換にため息をつきつつ、ナディアは書類を取り出した。
そこには、オッサンのサインと、後は誰かよくわからんサインが記されている。
『盗賊ギルドと、アッセンバッハ家の関係をより綿密に……まぁ、「お抱え」にする契約だね』
『これでお前らは、大本の盗賊ギルドから離れて、ここに根を張ることになるんだな?』
『あぁ、そうさ。本部には盃を返して、アタシらはここで一つの組を立ち上げた事になる。んで、そのバックに、アッセンバッハ家が座って貰うことになったってわけさ』
盗賊ギルドは、けして犯罪者の集団ではない。ある程度人の多い場所では確実に起こりうる、闇の部分を取り締まる組織だ。
賭場の経営、密輸品の管理。目先の儲けに目が眩んだ馬鹿共の処理。エトセトラ。
全て、対処が必要な事だ。
だが、後ろ暗い事をしているのは確かなわけで……こういった組織には、確実にバックがついてもらう必要がある。
『でもよ、良いのか? こっちに鞍替えなんてよ』
今までナディアの組織にいたバックは、この町とは別の都市にいた大物組織だったという。
そんな所に盃返すって、結構大変かつ勿体無いことなんじゃないのか?
『ハッ、心配いらないさ。向こうの偉いさんの1人には貸しがあってね。その伝を使わせて貰ったから楽に進んだよ』
『詳しくは聞かないでおこう』
『それがいいさ。……それに儲けについては……あそこに上納出しながら過ごすよりも、ここで領主様のお抱えやってた方が儲かると判断したのさ』
ふぅん、思い切ってるねぇ。
まぁ確かに、ホーンブルグは最近、他領からの商人が多くなってきてる。
職人達の工芸品が目をつけられているって話だ。……あとは、もちろん米だな。
冬が訪れる前までに、なんとか情報を集めたい連中がわんさかいるみたいだ。確かに、今のホーンブルグなら盗賊ギルドも甘い汁を吸えるだろう。
『ギルネコとも話しは通してるし、情報の管理は徹底させてる。ホーンブルグ発展の秘密を握れるのは、等分先だろうさ』
『怖いねぇ、そこまでやった上で向こうを切った訳だ』
米と、それに合うオカズという、美味い飯。
ギャンブルという、のめり込む程の娯楽。
コマを中心とした、土産にピッタリの工芸品。
うん、この町が潤う下地はもう出来上がってるわけだ。
各ギルドとの仲も良好。アッセンバッハ家を中心に、全てのギルドが手を取り合っている。
これは……本格的に、俺は隠居していいな!
『ま、なんにせよこれでアタシらは身内みたいなもんだ。いつでも話し相手になってやるさ』
『へいへい、嬉しい限りだよ』
『アタシとしては、アンタにはもっと喜んで欲しいんだがねぇ……こんな別嬪がいつでも押し倒せる位置に来たんだよ? 男を見せてみたらどうさね』
『馬~鹿。いい女に言い寄られるようになったら、それは男としての死期が近いわけ。俺はもう少し遊んでいたいんだよ』
まったくもって勘弁して欲しい。
コイツの目的は俺の頭ん中にある情報だろうに……一々誘惑してきてたまったもんじゃない。
抑えるこっちの身にもなれってんだ。ただでさえ兎は年中繁殖可能なんだぞ?
『まったく、強情だねぇ……こちとら冗談半分で口説いてる訳じゃないんだよぉ?』
『わぁったわぁった。今度町一番の料理人のディナーに招待してやるから我慢しろ。ついでに月を見上げての一杯と洒落込みゃあお前も満足すんだろ?』
『……どこまでが本当なんだか。ま、いいさ、期待してるよ?』
『へ~いへい』
これ以上コイツに誘惑されたら自分の中の何かが飛びそうだ。
俺は逃げるように立ち上がり、実際逃げに出る。
『じゃ、俺は坊っちゃんを探してくるわ。お前も気をつけて帰れよ?』
『……アタシを誰で、ここをどこだと思ってんだい。雷にでも打たれない限り、この町で死ぬことなんざありえないさ』
『はっは! 違ぇねぇ。んじゃ~な』
窓枠に体を滑り込ませ……ふんっ、ふんっ!
……す、滑り込ませ、屋敷の中に入る。大丈夫だよな。窓、歪んでないよな?
俺はそのまま、坊っちゃんを探して廊下を歩くのだった。
『……まったく、ダメな男に引っかかっちまったもんだねぇ』
……念話漏れてんぞ。本当に……勘弁してくれぃ……。
0
あなたにおすすめの小説
神様のミスで死んだので、神獣もふもふと異世界インターネットで快適スローライフ始めます ~最強生活チートと1000万ポイントでポチりまくり!~
幸せのオムライス
ファンタジー
★HOTランキング1位感謝!(2026.1.23) カクヨムコン部門別 週間ランキング5位! なろう四半期ランクイン中!(異世界転生/ファンタジー/連載中) ★
山根ことり、28歳OL。私の平凡な毎日は、上から降ってきた神様の植木鉢が頭に直撃したことで、あっけなく幕を閉じた。
神様の100%過失による事故死ということで、お詫びにもらったのは3つのチート能力。
①通販サイトや検索が使える【異世界インターネット接続】
②もふもふ動物と話せる【もふもふテイマー&翻訳】
③戦闘はできないけど生活は最強な【生活魔法 Lv.99】
私の願いはただ一つ。働かずに、可愛いペットともふもふしながら快適なスローライフを送ること!
のはずが、転生先は森のど真ん中。おまけに保護された先の孤児院は、ご飯はまずいしお風呂もない劣悪環境!?
「私の安眠のため、改革します!」
チート能力を駆使して、ボロ屋敷がピカピカに大変身!
現代知識と通販調味料で絶品ごはんを振る舞えば、心を閉ざした子供たちも次々と懐いてきて……?
気づけばギルドに登録し、薬草採取で荒稼ぎ。謎の天才少女として街の注目株に!?
あれ、私のスローライフはどこへ?
これは、うっかりチートで快適な生活基盤を整えすぎた元OLが、最強神獣もふもふや仲間たちとのんびり暮らすために、ついでに周りも幸せにしちゃう、そんな物語。
【今後のストーリー構想(全11章完結予定)】
第1章 森の生活と孤児院改革(完結済)
第2章 ヤマネコ商会、爆誕!(連載中)
第3章 ようこそ、ヤマネコ冒険部へ!
第4章 王都は誘惑の香り
第5章 救国のセラピー
第6章 戦場のロジスティクス・イノベーション
第7章 領主様はスローライフをご所望です
第8章 プロジェクト・コトリランド
第9章 ヤマネコ式教育改革
第10章 魔王対策は役員会にて
第11章 魔王城、買収しました(完結予定)
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【土壌改良】で死の荒野がSランク農園に!食べただけでレベルアップする野菜で、世界最強ギルド設立
黒崎隼人
ファンタジー
「え? これ、ただのトマトですよ?」
「いいえ、それは食べただけで魔力が全回復する『神の果実』です!」
ブラック企業で働き詰めだった青年は、異世界の名門貴族の三男・ノアとして転生する。
しかし、授かったスキルは【土壌改良】という地味なもの。
「攻撃魔法も使えない役立たず」と罵られ、魔物すら寄り付かない死の荒野へ追放されてしまう。
だが、彼らは知らなかった。
ノアのスキルは、現代の農業知識と合わせることで、荒れ果てた土地を「Sランク食材」が溢れる楽園に変えるチート能力だったことを!
伝説の魔獣(もふもふ)をキュウリ一本で手懐け、行き倒れた天才エルフを極上スープで救い出し、気づけば荒野には巨大な「農業ギルド」が誕生していた。
これは、本人がただ美味しい野菜を作ってのんびり暮らしたいだけなのに、周囲からは「世界を救う大賢者」と崇められてしまう、無自覚・最強の農業ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる