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最終章:兎、頑張ります
最終章ー1
しおりを挟む見えたぞ!
俺の横で、双眼鏡を覗く船員が叫ぶ。
船体は嵐により激しく揺れるものの、その一言が何よりも優先されて船全体へ行き渡る。
そして一瞬後、船上が激しい歓声に包まれた。
まだ見果てぬ新大陸。初めてそれを目にし、足を付けるのは我々なのだという認識が、船員達の気持ちを弛緩させていた。
俺は懐からピストルを取り出し、空に向けて一発。
轟音によって船は静まり返り、全員が俺に注目する。
馬鹿騒ぎしてんじゃねぇや。今が嵐だってのを忘れんじゃねぇ。
やっこさんを目の前にして、おっ死んじまうようなドジはゴメンだぜ。
そう言うと、船員達はハッとして、慌ただしく仕事に戻る。
すまねぇな。わからなくはないんだぜ。
目の前にお宝があるんだ、浮足立つのもしょうがねぇってもんよ。
しかし、ここで気を引き締めねぇと足元を掬われるのが海ってもんなのさ。
俺は、上下に激しく揺れる波の中で新大陸を睨めつける。
そこは、まさに黄金の国と呼べた。
全てが黄金色に染まり、来る者を歓迎する魅惑のフォルム。
この嵐の中で、左右に揺れてしまう頼りなさ。守ってあげたい系のヒロインが如き存在感。
頭頂はホロ苦ビターな茶色に染め上げ、思春期特有の強がりを見せちゃう感じがまた愛おしい。
あぁ、我らが誉れの、プリン大陸。
今すぐ行くぞ待っていろ。
上陸早々にかぶり付き、トンネルを掘ってやる。
プリンの中を泳ぐなんて経験はしたことがない。小さい頃、お風呂プリンを作ろうとしてお袋にマジビンタされて以降、断念してしまった夢だ。
その夢が、今こそ叶うのだ。
「…………」
さぁ、上陸だ。
錨を降ろせ!
「……ク……」
なんと、浅瀬はコーラとな?
ふふふ、プリンの後にシュワシュワと堪能してやろうじゃねぇか。
だがまずはプリンだ。あのプリンを美味しくいただかなくてはならない。
「……ク……カク……!」
ふふふ、もう逃さないよ子兎ちゃん。
さぁ、お手々を合わせてください。ご一緒に。
いただきまーす!
「カク!!」
「フシュっ?」
突然の大声に、俺の体は痙攣した。
虚ろな視界で瞬きすると、スイーツ系男子とでも呼べそうな少年が……あれ、双眼鏡の船員じゃねぇか?
あれれ、プリン大陸はどこいった?
「カク、もうお客さん来ちゃうよ。早く起きてよっ」
『ぅぁ……ん~? ……あ~……』
夢、ですか。そうですか。
ち、チクショウ……プリンなんて貴重なものを、食う直前に起こされるとは……!
おのれ坊っちゃん!
『寝る。寝直してプリンを食う』
「ぷりん? い、いやダメだよっ前に言ったでしょ? クロード家の方々がいらっしゃるんだから、挨拶しないと!」
『知らねぇよ。それはお貴族様の間のルールであって、ペットのルールじゃねぇ』
「契約獣にも大事なことなの! ほら、起きないとご飯抜きにするよ!」
ぐ、おぉぉ……俺のプリン……!
おのれ坊っちゃん、この借りは後で大盛りにして返してもらうからな……!
具体的にはご飯的なサムシングで!
「……フシッ」
「ふぅ、よかった……さ、行こう? 今日はクロード家の人たちと朝ごはん食べるんだから、結構豪華なはずだよ?」
それを早く言えってんだよ!
まったくしょうがねぇ、俺だってアッセンバッハに連なる契約獣だ。坊っちゃんと共にあるのが自然の流れってやつなんだな。うん。
「……今、凄く都合のいい事考えてるでしょ」
『ホホ、存じ上げませんなぁ』
「コンステッドさんのマネしてもだめだからね!」
こうして、俺達の1日は、やや早めに幕を開ける。
今日到着予定のクロード家とは、おっさんと古くからの付き合いをしてる友人貴族なんだとか。
そんな奴らはぶっちゃけどうでもいいが、それにより飯が豪華になるってんなら万々歳だ。
「さ、行くよカク」
「フス」
まだ見ぬご馳走に思いをはせて、俺は坊っちゃんの頭の上で揺られていく。
ん~、どうせなら、久々にプリン作るのもアリかもな~。
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