雑魚兎が貴族に飼われてもいいじゃない!?

べべ

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最終章:兎、頑張ります

最終章ー2

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「やぁ、来たねテルム」

「カクを連れてきました。お父様、お母様」

 今は見慣れた我が家の玄関。
 秋も暮れてきている。ゆっくりと冬の足音を感じさせるようになってきた空気が、肌を撫でるだけで僅かな身震いをしてしまう。
 しかしながら、この世界の将軍様は気が長いと聞く。彼ならば、まだまだ人類に秋を堪能させてくれることだろう。素晴らしい味覚を振る舞った後に容赦なく凍えさせる将軍様のデレツンっぷりには、歴代ギャルゲヒロイン達も脱帽せざるを得ない。

「デブ兎は相変わらず遅いわね! 私なんか朝日と共に起きたんだから!」

「この季節の朝日はねぼすけさんですものね?」

「お、お母様っ!」

「ふふ」

 今、玄関前にいるのは、俺と坊っちゃん。そしてチビっ子に、おっさんとお母ちゃん。締めとばかりにコンステッド氏がいる。
 チビっ子の突っかかりは相変わらずだな。まぁこいつはそういう性格ってだけで、別に嫌われてる訳じゃねぇってのは最近気づいた事だが。
 それより、珍しいものを見たな。お母ちゃんが悪戯な笑顔を浮かべるとは。

『お母様も、クロード男爵とは仲が良かったみたいだからね。久しぶりに会えるのが楽しみなんじゃないかな?』

『はぁ~ん? なるほど、おっさんとは恋のライバルだったとかそういうのか』

『いやいや、それはないでしょ~』

「さ、みんな。もうすぐ到着する頃合いだからね、しっかりと出迎えの気持ちに切り替えるんだよ?」

 和やかな空気ながら、おっさんの一言で皆の雰囲気が変わる。なんのかんので流石は貴族、礼節を重んじるのは当然と言わんばかりの変わり身だ。
 んで、その変化に対して空気を呼んだかのように、俺の耳が車輪の音を拾う。
 馬車が近づいてきてるのだ。

「フスッ」

「お父様、来たようです」

「うん、カクくんは耳が良いねぇ。……見えてきたね」

 おっさんの言葉に目を向ければ、丘を登る馬車の姿が見えてくる。
 ……いや、馬車というか、あれは……確かに馬車なんだけど……。

「いやいや、相変わらずだねぇ。町の皆には事前に伝えておいたけど、そうじゃなかったら今頃大パニックだ」

「うわぁ……すごい」

 うん、確かにすげぇ。
 なぜなら、馬車を引いてるのは馬じゃなかったからだ。

 大地を踏みしめ、力強く躍動する四肢。
 風に舞い、潮の様に波を作る、白銀の毛並み。
 坊っちゃんくらいならポテチ感覚でいけちゃいそうな大きな口に、そこから覗かせるナイフのような牙。

 流線型のフォルムは見る者を魅了してやまない。かっこいいの一言の中に覗かせる、可愛さがある三角の耳も大きな特徴と言えるだろう。
 まぁ、平たく言って……狼だった。
 やたらとでかくて、やたらとスタイリッシュな、えげつないくらいにカッコいい狼だった。

「イリュージョニィウルフ。姿形を変える術を持った魔物だよ」

「サニティ……クロード男爵の契約獣ね。変身能力以外に特筆すべき力は無いけれど、高い身体能力と忠義心を持った素敵な魔物よ」

「かぁこいい……」

 その狼……幻狼は、俺達の前に車輪の音と共に立ち止まる。
 重りつきとはいえ、速駆はやがけがかなり気持ちよかったらしい。ブルリと身を震わせると、「ウォォォォォン!」と遠吠えを一つあげた。
 その瞬間に、屋敷の周囲に植えてある木から鳥達が一斉に飛び立っていく。うぅむ、一々絵になるじゃねぇか。

「よぉう、ご苦労だったな相棒!」

 その一瞬後に、馬車の扉が開かれる。
 普通ならこういうのは使用人が開けたりするんだろうが、そこから聞こえた気風の良い大声を聞けば、そういうのを待たないのも納得できるかもしれん。

「はっはぁ! ゴウン、貴っ様何をやらかしおった! んん!?」

「ははは、ご挨拶だなぁサニティ。相変わらずで安心したよ」

 馬車から出てきたのは、小麦色に焼けた肌の男だった。
 おっさんが口ヒゲならば、こっちは顎ヒゲだな。それに、筋肉もものっそい。ムキムキの大男である。
 これほど貴族印のマントが似合うのもそうおるまいて。精悍な顔つきで、気持ちのいい風を纏っているかのような存在感だ。

「久しぶりね、サニティ」

「おうおう、ネアヒリム! 我が初恋の女よ! 今なおその美しさに陰りはないな!」

「……夫の前でそういうこと言っちゃうのも、相変わらずだねぇ」

「ふぁっはっは! いい女を口説くのは男の嗜みよな!……しかしまぁ、今はそなたも子供を持つ身。ねんごろになろう等というつもりはサラサラに無い故、流すがいい!」

「「あのねぇ……」」

 サニティ……いや、クロード……ん~、マッチョメンでいいや。
 マッチョメンは坊っちゃん達をちらりと眺めると、ニンマリとさらに笑みを深める。
 その瞳はまるで子供のようにキラッキラしており、今なおその歳でもって、世界は美しいと先唱できそうである。

「まっこと、大きくなったな。テルムレイン、テレサレイン!」

「お久しぶりです、クロードさん」

「お、お久しぶりです!」

「はっはっは! 固い固い! そんなにワシはとっつきにくいかぁ?」

「いえいえ。クロードさんがとっつきにくいというのなら、貴族の社交界は誰も会話をしない場所になってしまいますよ」

 坊っちゃんのジョークにマッチョメンが更に大声で笑う。
 その声を聞きながら、幻狼があくびする。コンステッド氏が馬車とあいつを繋いでる部分を取り外しているのが見えるな。幻狼も気を許しているらしい。
 ふと、俺は今いる面子以外の気配を感じる。
 その気配は、馬車の中に残っているようで、出てこようとしない。

「んぉう? おいおい、いつまでそこにおるんだ」

 マッチョメンが何かに気づいたように振り返り、馬車に近づいていく。
 んで、扉を開けると手を突っ込んだ。

「痛い痛いっ、痛いです父上!」

「早くこんからだ。ほぉれ!」

 腕を抜くと、そこには……うん、人間がいた。
 猫みたいに首根っこを掴んで持ち上げてるんですがそれは……。

「いやぁ、今回は無理にでも連れてきたぞ! ほれゴウン、コイツがワシの娘、アーキンだ!」

 マッチョメンにぶら下がってる少女……アーキン。
 そいつは、恨めしそうに父を睨んだ後、メガネ越しに俺たちを見て、顔を伏せたのであった。
 
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