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最終章:兎、頑張ります
最終章ー終
しおりを挟む結局、蓋を開けてみれば俺の助けなんていらんかったな。
坊っちゃんが言うにはあの日、スケに起こされて逃げていた所で、イリュージョニィウルフ……まぁ、コンステッド氏が来たのだという。
コンステッド氏は、町で坊っちゃんの手がかりを追っていた所でナディアに探し当てられ、坊っちゃんと俺が森に入っていると聞いたようだ。
慌てて変身を解き、狼モードで森に走り、ついでにもう1匹のえげつないイケメンを連れて指定された座標まで走ったらしい。
んで、坊っちゃんの側にいたスケが事情をコンステッド氏に説明……変身することで人語を解せるコンステッド氏が、坊っちゃんに俺のことを通報。
結果、坊っちゃんは俺を助けにUターン、と。
俺、めっちゃ足引っ張ってますやーん。
ナディアやギルネコ、くま子が来てくれなかったら、どんな被害が出ていたかわからんぞ……。
結局、町の3組織に借りを作った形になるし……もう散々だなぁ。
「なぁにを言うかホーンラビットよ。広大な森の中で人を探すという一点を成し遂げたのは、貴様が情報を引き出したからではないか」
「そうそう、おかげでアーキンちゃんも見つかったし、誰も犠牲が出なかったのは君のおかげだよ」
俺の愚痴を坊っちゃんが通訳してしまい、おっさんとマッチョメンが言葉をかけてくる。
俺が目覚めたという通知は既に全員に行き渡り、夜分遅くではあるがこうして屋敷の人間が勢揃いしていた。
場所は食堂だ。後で、料理長が簡単な夜食を持ってきてくれるとのことである。
……確かに、メガネも無事だったのはまぁ、良かった。
ミト達に保護されていたメガネは、もふもふに包まれた状態で発見されたらしい。角兎が身を護る時に団子になる事があるが、それだろうな。
「あ、あの、その……本当に、ご迷惑をおかけして……!」
「……フスゥ」
「あはは、気にしてないってさ」
マッチョメンとメガネは、帰郷の日にちを伸ばしてまで、俺の覚醒を待っていたらしい。
そう言われてしまうとまぁ、怒るに怒れないよなぁ……。
「だいたい、デブ兎が無茶しすぎなのよ! 心配させないでよねっ!」
「本当に……心臓が一瞬止まったわ」
お、おう、すまん。
なんだ、俺って心配されるような立場になってたんだな。
お母ちゃんは未だに俺に対して結構無関心だし、てっきりまだ認めてないものと思ってましたよ?
「まぁ、何にせよ良かったではないか! 娘の不始末は後で正式な謝罪と詫びを入れよう。まずはこうして、子供の顔を見れた事に喜び、そいつらを守った契約獣に感謝をしようではないか!」
軽口と共に大笑いするマッチョメン。
しかし、俺は坊っちゃんから聞いている。全員が無事に帰ったのを確認してすぐ、地面に頭を擦り付けんばかりに謝罪していたのは、このマッチョメンだと言うことを。
一々筋が通ってて、コイツら嫌い。俺が1人でひねくれてるみたいになるんだもん。
『……ってか、俺は守れてねぇんだってば』
『いやいや、何言ってるの。カクがいなかったら危なかったって何度も言ってるでしょ?』
『俺はしょんべん漏らして逃げてただけだしなぁ……』
『も~』
……まぁ、救われた気分にはなるけどな。
「うん、そうだねぇ」
ふと、そこでおっさんが立ち上がる。
俺と坊っちゃんの前まで歩み寄り、静かに見つめてきた。
「改めて、ありがとう。カクくん」
「フ、フス?」
「君のおかげで、テルムとアーキンちゃんは助かったと言っても良い。本当に感謝しているよ」
「ワシからも礼を言う。頑張ったな、角兎……否、カクよ」
お、お、おう。
なんだよなんだよ。くすぐってぇじゃねぇか。
「……これなら、カクくんを認めないわけにはいかないねぇ。ネア?」
「ぅ……わ、わかっていますっ。息子の恩人なのだから、これからはぐうたらしててもあんまり愚痴りませんっ」
あ、やっぱりそういう目で見てたんですねお母ちゃん。
まぁ、結果オーライということで。
「……と、いうわけでだ。テルム」
「はいっ」
「今ここで誓えるかな?」
おっさんが声をかけると、坊っちゃんは笑みを深くし、大きく頷く。
俺を頭から机の上に置き、おっさんの横に移動した。
俺と視線を合わせ、この国でいう、敬礼のポーズを取る。
「カク。これからも、僕の契約獣でいてくれるかな?」
『おぅ、まぁ。坊っちゃんさえよければ?』
「うん……では、ホーンラビット! 君には我が半身として、「カク・フォン・アッセンバッハ」の名を与える!」
……は?
「今後は、正式に我々の家族だ。末永く息子をお願いね、カクくん」
は、はぁぁ?
正気かお前ら!?
なんでアッセンバッハ家に契約獣を組み込んだし!?
「ふあっはっはっは!! 破天荒な親子よなぁ。契約獣を家系に迎えるなど、前代未聞よ。それが角兎ならば尚更奇特!」
「ふふ、前から相談してたんだよねぇ。カクくんが他の貴族に舐められない理由付け」
「ねー、お父様」
いやいやいや、ないから。
俺は貴族のペットでいいから。
貴族の仕事とかまっぴらごめんだから!?
「ふぅむ、ではワシが流す噂も変えねばならんなぁ」
「ほう、どうするんだい?」
「その身を挺して主を守り、ついには半身となった忠義の契約獣……これでどうだ」
「完璧だねぇ」
のぉぉぉぉ!?
俺の株を上げないでぇ! 底辺でいさせてぇぇぇ!?
ほら見なさいよ、お母ちゃんの呆れ顔! あ、首を振らないで。諦めないで反論してぇぇ!?
『ふふふ、まさか正式に貴族になるとはねぇ。これは女房のアタシや、子どもたちにも箔が付くってもんさね』
『にゃっはっは、こりゃあギルドに報告せにゃあにゃぁ~?』
『ってぇ、お前らはどこから湧いて出やがったぁ!? 止めてっ、世間に知らしめないでぇ!?』
いかん、これはいかん!?
包囲網が、俺をぐうたらから遠ざける包囲網が出来上がっていく!?
違うんだ、俺の理想はそうじゃないんだ。
金もいらねぇ、出世もいらねぇ、家名もいらねぇ。ただただ寝て過ごしていたいんだ!
「お待たせしました皆様! 腕によりをかけてお夜食を作って参りましたよぉ!」
料理長! 良い所に……いつものマシンガントークで、この場をうやむやにしておくれ!
「ついでに、裏口で心配そうにしていた皆さんもお連れいたしました!」
料理長?
『あ、兄貴ぃぃぃ! やっぱり兄貴はすげぇや、お貴族様だぁ!』
『ふふ、アンタはやっぱり、あの群れで収まる男じゃなかったんだねぇ』
『カクくんすごいよー! くま子もご主人様にご報告するー!』
料理長ぅぅぅぅぅ!?
なぜだ、どうしてこうなった?
俺の、俺のぐうたら、もふもふスローライフが……!
お貴族様の内政スローライフに変わっていくぅぅぅ……!
「…………」
え、何ですか給仕の姉ちゃん。そんな、俺をジッと見て……。
「……兎……男爵……」
キエェェェェァァァァァシャベッタァァァァァァ!?
「え~、それでは皆さん。僕の親友、カク・フォン・アッセンバッハの新しい門出に乾杯しましょう! 乾杯~!」
「「『乾杯~!』」」
「フシャアアアアアアア!?」
やぁぁぁめぇぇぇてぇぇぇぇ!?
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