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エピローグ:昔々、ある所に
序章:思い出話
しおりを挟む「……と、言うわけで。私はこうして、兎男爵として祭り上げられ、その後もいろんなトラブルが……」
「……すぅ……すぅ……」
「シーア? 寝てしまったのか……」
小さな孫の頭を撫でて、毛布をかけ直してあげる。
結構長々と話してしまったらしい。伸びをすると、関節がぽきぽきと鳴った。
今夜は彼と、私だけの空間……角兎専用の部屋から出て、ため息を漏らす。
『…………あ~……かったりぃぃ……!』
固い話し方、疲れるよぉぉ!
何が「お孫さんに恥ずかしくない話し方で~」だよ!!
「あ、カク~。お孫さん寝たの?」
廊下の向こうから歩いてくるのは、俺の主。
テルム坊っちゃんである。
そう、ここはアッセンバッハ家。俺ってば、まだなんとかココで厄介になれている。
『お~、ってか……そのお孫さんやめない? 俺が年取ったみたいじゃん』
「え、お爺さんじゃんカク」
「あれからまだ3年だろー!?」
そう、まだ3年、まだ3年なのだ。
ナディアが子供を生んで、その子供が孫を生むまでの期間が、わずかに3年! 兎だからね! 悪魔とのハーフで倍率ドンってか! やかましいわ!
俺、そんなに年取ってませんしぃ!?
「あはは……でも、お孫さんなのは事実じゃない? アーキンちゃんの所のホーンラビットと、カクの子供の息子さんってわけで。いや~跡取りできて良かったじゃん」
『いや、そもそも兎に跡取りいらねぇしね?』
「いやいや~。シーア・フォン・アッセンバッハ。いい名前じゃん? 息子さんはクロード家に婿養子に行っちゃったし、ナディアさんは今月クロード家にお泊りだし。なんとかカクが教育していかないとね~」
『だ~か~ら~!』
……あれから。3年。
角兎は貴族の間で、結構なブームになっている。
忠義に厚く、頭も悪くない。一つの仕事を覚えさせたら完璧にこなせるくらいには有能な種として、傍らに置く者が増えているのだ。
まぁ、蜜の実を作れる程度には器用だしな。
俺の元群れも、今ではホーンブルグでお手伝いをしているくらいには人里に馴染んでいる。
あと……この3年で、ホーンブルグは米の収穫量が増えに増え、この国の食糧事情を担う一角にまで成長した。
とはいえ、町の規模がでかくなったとかじゃなくて、その技術を他国に伝えるという教師的な意味での成長だ。
今でも、ここは片田舎の活気ある町。そういう点は変わらない。
どのギルドものんびり元気にやってるし、ギルネコは未だにカウンターで寝てるし。
くま子は成長して、今では冒険者ギルドの最高戦力だ。
……あぁ。チビっ子が商人ギルドで手伝い始めたのはビビったな。
まぁ、食文化を開拓するという名目なんだから納得だが。
なんであれで太らないんだ? 腹も胸も太らんとか、あいつ呪われてんじゃねぇ?
……まぁ、いいか。
3年たったが、坊っちゃんはまだ未成年。
当然、領地を運営しているのは、表向きはおっさんである。
しかし、実情は坊っちゃんが領土の舵を切っていると言っても過言ではない。
俺から漏れたアイディアを確実に形にし、世界に発信している。ここ3年で余計に凛々しくなったそのルックス故に、商品を見に来た他領の貴族様方を魅了してやまないというのは納得だ。
というか、今ではそれを目当てに来ている婦人もいるという。
……まぁ、坊っちゃんの趣味は地味めなメガネ系女子ですし? 浮いた話はないんだがね~。
しかし、坊っちゃんは優秀になったねぇ……。
「ところでカク? たまごプリンの売れ行きが良すぎて養鶏場が悲鳴上げてるんだけど」
『だから言っただろうが……あれ広めたら多分反乱が起きるって……増やすしかねぇわな、村。牧畜専門の』
「だよねぇ……そこに派遣する角兎の育成よろしくねっ」
『ちょっ、オマぁ!?』
前言撤回!!
このガキ、いつか泣かせてやる!
「……ふふ」
「……フスッ」
一瞬の会話の切れ目。
そこにつけ込み、夜の帳がおりてくる。
まぁ、前よりも結構忙しくなっちまったが……。
『報酬は3日ぐうたら権』
「はいはい、よろしくね」
まぁ、なんだかんだで悪くはない。
女房もいるし(悪魔だけど)、子宝にも恵まれた。
食うにも困らんし(チビっ子との取りあい以外)、ぐうたらできる時間もある。
「ねぇ、カク?」
『んぁ?』
坊っちゃんの方を向き、目と目を合わせる。
背、高くなったなぁ。
久々に頭、登ってみたいとも思う。
「今、幸せ?」
ふとした問い。
漠然とした、何とも言えない、小さな質問。
思わず吹き出してしまいそうになる。
だから、俺も漠然と返す事にした。
『……ぶわぁ~か』
一瞬後、二人でケラケラ笑いあった。
世は並べて事も無しってね。
まぁ、これで良いんじゃね?
及第点じゃね? 俺の今生。
締めるとしたら、この辺りだろ、
はいオシマイ。ばいばい、また会う日まで。
またの機会をご贔屓に~ってな!
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