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しおりを挟む秋になる前にお日様が爛々に照っている夏日に乾燥昆布といりこを沢山作った。
やっぱ日本人としては色んなダシが欲しいよね。
だからツネさんとネズさんに水場に案内して貰って、食材探しをしたんだ。
案内された水場は海だった。塩辛い水場と塩辛くない水場があるって言ってて、海という認識はないみたいだ。不思議。
気温が暖かいから素潜りして、昆布を取った。いりこも蜘蛛糸を網のように編んで作って、それで小魚を取って、二つとも風通りがいいところで天日干し。
久しぶりの魚介だしに、おいしーってなったんだけど、やっぱり醤油か味噌がないとイマイチ物足りなくて、暇があれば食材探し。味噌も醤油も恋しいー!
あとダシといえばカツオ節だから、日本にいた時にネットで調べた作り方を試してみた。けど結果は惨敗。
カツオを捌いて、煮て、骨を丁寧に取って、手火山式焙乾っていう方法で鰹節を作ったんだけど、焦げる焦げる。
釜で火を燃やして焦げないように十回ぐらい燻製しなくちゃいけないから、全然火力の扱いが下手すぎて焦がしてしまうんだ。
無残な姿になるカツオに申し訳なくて作るのをやめた。ごめんなさいカツオさん。
鰹節のいい匂いは恋しいけど、昆布も煮干しも美味しいもんね。
あとは味噌と醤油……未練たらしい僕。あったら和食をめちゃくちゃ作るのに、なかなか味噌と醤油の原料である種麹作りがうまくいかず……。道のりは遠いかな。
「でも昆布と煮干しの使い道って、だし巻き玉子しか思いつかないな……。卵ないけど。また卵食べたいなぁ」
養鶏場で卵の流通が途切れることがなかった日本では卵料理が沢山あった。
手軽に何でも変化できる万能食材。
この世界では鶏さんは獣人なので、同族である鶏卵は食べることができない。鶏はネズミのように大家族なんだって。
恐竜の卵が欲しくて飼うとしても、身体が獣人さんたちよりも大きいから、餌を持ってくるだけで重労働だし、手間もかかる。難しいよね。
発酵種を嫌がるなら、発酵種を柵の役割として飼いたい恐竜の周りに撒いたら飼えそうだけど。
でもここの獣人さん達は自然の恩恵をありのままに受けるのが当然だと思ってる。一度家畜の提案してみたけど、生態系が乱れる可能性があるからか、あまり乗り気じゃなかった。
郷に入っては郷に従えって言うし、何が最善かは人によって違うもんね。
ご飯を作るには時間が早いので、「暇~」とキッチンに入ってきた旭とお姉ちゃんと外で遊ぶことにした。
「次はママが鬼ね!」
「いいわよー!いーち、にー、さーん……じゅう!よし捕まえるぞ!」
「きゃははっ!」
「うわっ、お姉ちゃん早いって!」
「アカネちゃんから逃げろ~!」
「わぁっこっちくる」
旭達と遊んでいると、手の空いた獣人さんたちも一緒に鬼ごっこをすることになった。
追いかけっこをしたり、狩の練習をするのが獣人さん達の遊びだったらしく、単純だけど面白いって、この群れの中でブームとなっている。
獣人で参加しているのは小ネズミのイチからゴの子達とリスのサカッジ君。子ども達は旭とお姉ちゃんと歳仲がよくて、いつも何かしら一緒に遊んでいる。
そんな僕らを木陰でまったり見ているのはバイオレットさんとツネさんとネズさん。ホホホと楽しそうにお喋り中だ。
人間の頃よりも素早い動きのお姉ちゃんから逃げ回っていると、森の方から人影が見えた。見覚えのあるシルエットについ笑みを浮かべながら、駆け寄っていく。
「ヴィス君!」
「お、ルイ。今日は外で遊んでるのか?」
「うん。鬼ごっこ中……ってヴィス君!血が出てる!」
僕は血相を変えてヴィス君の血を見た。森に行く時の服は野草で深緑に染められているため一見わからなかったが、血の臭いと服の色が変わっている。
背中に担いでいる大斧にも血が付いていた。
「どこか怪我したの?!ど、どうしよ、この世界って傷薬とかあるのかな?!あ、安静にしないと!」
僕はしどろもどろしながら、ヴィス君の身体を調べようと服を捲った。そこにはふさふさの銀色の毛が生えていて、特に傷らしきものは見当たらなかった。
毛の中に傷が埋もれているのかとお腹をさまぐると上から「くすぐってぇ……」と笑いを堪える声がした。
「ルイ、俺は怪我してないから大丈夫だ」
「え……で、でもこの血は……?」
「蜘蛛糸採取してるときに、はぐれ恐竜と会ったんだ。今日は肉が手に入ったぞ。アンキロサウルスの肉だ」
「アンキロサウルス!!」
ヴィス君に怪我がなくてホッとしたと同時に、恐竜の存在に歓喜した。ヴィス君は僕が恐竜を見たいとベッドの中で言っていたのを覚えていたらしく、笑っている。
「ちょっとデカいから一人では持って来れなくて、人呼んでこようと思って。空いてる奴、俺についてきてくれねぇ?」
ヴィス君が言うとみんな鬼ごっことお茶会を辞めて、森の中へ入っていく。あれ、お姉ちゃんも旭もついていってる。
「旭とお姉ちゃん怖くないの?」
「恐竜だろ?!見てみたい!」
「私も見てみたい!」
「ダメだ」
「あ、ドンドさん!」
いつの間にかドンドさんが外に来ていた。血の臭いがしたから来たんだって。嗅覚すごい。
「アカネはまだ幼児だ。旭も身体が小さすぎる。森の中は絶対安全とは言えない場所だ。二人とも私と一緒にお留守番だ」
「「ええーっ!」」
二人のブーイングに折れることなく、ドンドさんは二人を抱えて住居岩に戻っていく。
「ルイ君はヴィスと何度も森に行っているから大丈夫だとは思うが、はぐれ草食恐竜がいたなら肉食恐竜もいる可能性がある。絶対にヴィスから離れてはいけないよ。バイオレットも同行するから、必ず熊獣人の側にいなさい。それができるなら以前恐竜を見たいと言っていたし、行ってくるといい」
「はい、ありがとうございます」
ヴィス君がいれば怖くない。森も何度も食材探しで入っているし、知らない場所じゃないので、恐怖心はそこまでなかった。
ヴィス君の真後ろについていく。
その後ろにバイオレットさんと他の獣人さんが続いていく。十五分ほど歩くとヴィス君が前方に顎を使って恐竜がいる場所を示した。
「あそこだ」
そこには巨大な岩のように絶命しているアンキロサウルスが横たわっていた。
アンキロサウルスは鎧竜類で全身が鎧のように硬い骨に覆われ、尻尾の先にはハンマーのようになっている恐竜だ。
唯一お腹は骨がないため、ヴィス君はお腹を狙って戦ったんだって。そのためアンキロサウルスのお腹と首から血が出ていた。約十メートルはある巨大な恐竜が死んでいるのに、僕は感動もあるけれどこうやって命を貰って生きていることに悲壮感を感じ、その場に立ち尽くす。
「大丈夫か?」
「……うん。こうやって死んでいるの見るのが初めてだから、ちょっと可哀想に見える……」
「そうか。貴重な食糧だからな。無駄にはしないように食べよう」
「うん」
獣人さん達は手際良くアンキロサウルスを解体していく。ヴィス君も加わり、大きな恐竜は大きな肉塊に姿を変えていった。
僕は塩辛いからといって、今まで肉の出汁を取ったら自分は食べずに、ラインさんやドンドさんに食べてもらっていたことに胸がチクリと痛んだ。
捨ててはいないけど、絶対に食べようとは思わなかった。
あの干し肉だってこうやって恐竜の命を絶っているから手に入っているんだ。
こうやって命が消えていくのを見ると、大切に食べよう、誠意を込めて料理をしようって思える。
「よし完了だ」
食べれるところを取ったアンキロサウルスは、博物館で見たような姿になっていた。お腹の中心にこんもりと内臓が盛られている。
「この残った内臓はどうするの?」
「肉食恐竜や虫や鳥達の餌になるから放っておくんだ。血の臭いが強いから、万が一肉食恐竜が来ると危ない。離れよう」
そして僕らはアンキロサウルスの肉を手に入れた。
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