姉に巻き込まれて異世界転移〜ワガママ舌を満足させます〜

ぺんたまごん

文字の大きさ
30 / 36

30

しおりを挟む
 まだ午前中で日も高いので、一時間後に出発ということになり、それぞれ旅の準備をすることになった。

 僕は料理係。ここからパピジェットさんの足で三日ほど歩く距離なので、重くなりすぎず、必要なものを持っていかなければならない。

 僕は森に出かける時にいつも使っている小さなバックに詰め込むことにした。
 
 ラインさんはよく近隣の群れに物々交換に行くので、旅の準備について聞いてみた。
 道中の水や食料は最低限でいいらしい。この島は獣人の群れが点在している。基本群れは来るもの拒まずであるため、急な客人も受け入れるのが普通なんだそうだ。

 食材は持参するのが基本なので、野菜はそこら辺に生えているのを獲って、肉は干し肉を持っていけば、キッチンを貸してくれる。万が一怪我などの不測の事態で食材持参がなくても気にされないらしい。本当獣人さん達っていい関係だなぁ。

 なので料理担当として薄くスライスした干し肉を一日二枚と考えて十五枚、そして調味料類を小瓶に移し替えて持っていく。あとは別に肉食のパピジェットさんに干し肉、そして熊獣人さん達と僕の携帯食をそれぞれ小袋に入れて、水を入れる小袋を人数分、みんなに渡す準備をした。

 他は下着一着のみ。洗濯も群れでさせてもらえるんだって。僕はヴェールをしなくちゃいけないから、衣類かさばってどうしようかと思ってたから、よかった。


 よし。僕はこれで準備はおしまい。パピジェットさんとヴィス君が怪我をしているので、薬関係はバイオレットさんが持ってくれることになった。

 僕は自衛のために、日本酒を多めに持っていき、一つの小瓶はポケットに入れて持ち歩くようにする。
 これなら万が一、肉食恐竜が僕を襲っても自分自身にかければ美味しくないってわかって逃げていくだろう。
 獣人さん達にも身体にかけたら恐竜に襲われないのにって言ったら、発酵種は鼻が曲がってフラフラなるので逆に危険なんだって。酩酊状態で戦闘……うん、酔拳じゃないんだから危ないね。感覚がいいのも大変だ。

 準備が終わり、森の前に行くと、心配そうにお姉ちゃんと旭が僕たちの見送りに来てくれていた。
 他の小型獣人さんのツネさんや子ネズミさん達らも一緒にいる。
 森は小型獣人やお姉ちゃん達にとって危険なのでお留守番だ。

「……瑠偉」

 お姉ちゃんは不安な声で僕の名前を呼んで、僕をギュッと抱きしめてきた。僕もゆっくりと抱きしめ返す。

「瑠偉は色んなこと知ってる子だと思ってたけど、バッタのことなんて知ってたばっかりに、危険な場所に行かなくちゃいけないなんて……」

 お姉ちゃんの肉球が僕のぺたりとした髪をゆっくりと撫でた。
 僕がサバクトビバッタのことを知ったのは味噌作りに行った時に害虫の話になったのがきっかけだ。
 日本は多湿国家だからバッタの大量発生がなることは少ないけれど、輸入に頼った国だから、諸外国の影響が出たら日本にだって影響は出よねって話をした。
 そうなったら大変だなぁって気になって、ネットで調べたんだけど、何が役に立つかなんてわからないものだ。

「でもそのおかげでこの世界のバッタの被害が少なく済むかもしれないよ」
「……そうね」

 お姉ちゃんはいつもの溌溂な声を潜めて、思い詰めたように相槌を打つ。その隣で旭も不安を感じ取り、小さな声で僕に一言言った。

「瑠偉兄ちゃん、絶対帰ってきてね?」

 僕らは家族の大切さも、その大切な人が突然いなくなる恐怖も知っている。旭の言葉は僕の心に深く響いた。

「もちろん。絶対帰ってくるよ」

 これを物語ではフラグって言うんだって見たことがある。
 でもさ、こういう約束していたら、命を脅かされる同じ場面があったとしたら、絶対に生きて帰ろうって、強い意志で生をもぎ取るんじゃないかな。

 フラグなんて折るものだっていう本もあった。結局未来は何が起こるかわからないから、僕は後悔しないようにフラグをいっぱい立てるよ。

「帰ってきたら美味しいご飯いっぱい作るから、ちゃんと食べるんだよ?野菜はアクを取ったら美味しくなるからね。スープはキノコと肉と野菜を入れたら旨味成分がいっぱい出て美味しいから、なんでもいいから三種類いれるのがいいよ」
「……わかったわよ」
「もう、お姉ちゃん。そんな声で見送らないでよ?『あんたなら大丈夫よ!』って軽く返すぐらいじゃないと。熊獣人さん達みんな強いし、恐竜避けの日本酒も腰からぶら下げてるし、大丈夫。お姉ちゃんや旭、ここにいる人たちみんな大好きだから、僕も一緒に頑張るんだよ」

 僕は旭も招いて、二人をまとめてぎゅーっと抱きしめた。お姉ちゃんもちょっとだけ鋭くなった爪が食い込むぐらい、僕に抱きつく。そして「よしっ!」とお姉ちゃんの力強い声が聞こえた。

「……あんたなら大丈夫!気をつけていってくるのよ」
「瑠偉兄ちゃん!頑張ってね!」
「うん、ありがとう」
 
 僕らの別れをヴィス君は近くで静かに聞いていた。
 そして残る小型獣人のツネさんやネズさん、サールさんらに見送られながら、僕たちはバッタの大群を目指して南下していった。


 パピジェットさんは足を怪我して、さらに長旅で疲労に身体はきついけれど、案内役を買ってでてくれてる。
 治療しても怪我が良くなったわけではない。痛み止めや化膿止め、血の臭いを漏れ出さないための血止め草を沢山塗って、そして持ち歩いて進んでいく。勿論、僕の番のヴィス君もだ。

 健康な僕が、パピジェットさんやヴィス君の荷物ぐらいは待とうと声をかけたけど、非力な僕ではまかせられないからってドンドさんとバイオレットさんが荷物を持ってくれた。ありがとうございます。


 まずはヴィス君と一緒に会いにいった蜘蛛さんのところに向かった。
 その蜘蛛さんのところに着くと、糸に付いている虫をムシャムシャ食べている。ううっ、二回目だけどおぞましい。

「蜘蛛殿。食事中にすまないが、話を聞いてくれるか。私の名はドンドという」

 ドンドさんは軽く会釈をして蜘蛛さんに話しかけた。習って僕らも会釈する。

『ドンド……群れの頭だったな。なぜここにきた』
「南で起きたハリケーンが原因でバッタが大量発生し、森を食い尽くしている。是非助力を求めたい」
『森を……?』

 蜘蛛さんが言うにはここら辺では虫がいつもより少ないとのこと。
 パピジェットさんが南の状況を簡潔に教えると、蜘蛛さんは理解したようだ。

『一緒に南へ向かえばバッタが多量にいるのだな?』
「はい、そこでバッタが動けないように巣を作って欲しいんです。捕まえたバッタは是非食料にしてください」
『では共に行こう。他の蜘蛛の縄張りに入るため、説明はお主らで頼むぞ』

 蜘蛛さん一匹と交渉がまとまった。蜘蛛さんが僕のすぐ後ろを、長く太い糸を吐きながらついてくる。
 蜘蛛さんは恐竜から襲われることは殆どないんだそう。肉食恐竜で昆虫を食べる恐竜は小型なものが多く、巨大蜘蛛を襲っても蜘蛛糸に捕らわれてしまうと本能的にわかっているんだって。獣人さん達とも良好な関係だし……蜘蛛さん最強じゃない?

 大きい蜘蛛さんに慣れず、吐き出した糸に囚われてしまうんじゃないかと不安になり、後ろを頻回に確認しながら歩いていると、ヴィス君が僕の頭をぽんぽんと撫でて慰めてくれる。

「大丈夫だ」

 フッと頼れる笑みを浮かべたヴィス君が頼もしい。

「ヴィス君好き……。僕しっかりするね」

 僕はパンと自分の頬を叩いて、しっかり前を向いて歩いていく。
 足手まといがさらに足手まといになったらダメだよね。僕が行くって決めたんだから。

 それから僕は一生懸命、獣人さん達の足について行くことに集中した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界でホワイトな飲食店経営を

視世陽木
ファンタジー
 定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。  彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。  彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。 しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!  ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?  異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!? ● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。 ● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。 ● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。 ● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...