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しおりを挟むみんなお腹いっぱい食べたので、それぞれの部屋に分かれて明日に備えることになった。
僕はヴィス君と同じ部屋に行く。窮屈だったヴェールを脱いで、ヴィス君にギュッと抱きついた。
旅なのにこうやってゆっくり休めるのはすごい助かるなぁ。
ヴィス君は僕の服とヴェールを持って、外に洗濯に行って帰ってきてくれた。怪我もあるから僕がしたいけど、このままの姿で洗濯している姿を見られたら大変なことになるので、ヴィス君がしてくれる。ありがとう。
「沢山歩いたね。ヴィス君傷どう?痛む?」
服を乾かしている間、僕もヴィス君もパンツ一丁。だからヴィス君の肩にぐるぐると巻かれた包帯もよく見えた。血は出てない。
「少しだけな。でも痛み止め飲んでるから動かせるよ」
「あっ!動かさなくていいって!」
ヴィス君が何ともないように左肩を動かすので、見てるこっちが痛くなる。やめてやめて。
僕はヴィス君が無茶しないように、腕ごとギュッと抱きしめた。
「可愛い止め方だな」
ヴィス君のキスがおでこにチュッと降りてくる。ヴィス君と触れ合ってると勝手に身体が興奮しようとするから、僕は興奮しないように自制する。ヴィス君は怪我もしてるし、明日も早いんだから我慢だ。我慢。
ヴィス君の包帯を解いて、傷を確認した。傷はまだ生々しいけど、血は出ていないし、膿も出ていない。サールさんから言われた通りに化膿止めと止血止めを塗っていく。そして不器用ながら包帯をなんとか巻き終えた。
ヴィス君が痛み止めを飲んだのを確認して、僕たちは本日の収穫を確認する。
今日取れた毒草は三つ、毒キノコは四つだった。そして甘味はスィート草にラズベリー、林檎の三つ。毒の効能は麻痺に下痢嘔吐などの消化器系の症状が主だそうだ。
これらを持っていって、現地で毒団子を作ったら、蜘蛛さんにバッタを少し分けてもらって実験する。そしてバッタに効果があったらいっぱい量産していく流れだ。
毒物のことを道中ヴィス君とラインさんが教えてくれて、僕もうんうんと一生懸命聞いていたけれど、こうやって目の前にすると、心の奥でモヤモヤが大きくなっていくのがわかった。
再び袋を厳重に縛って、他の荷物と一緒に置くと、僕とヴィス君は明日に備えて抱き合ってベッドに横になる。
獣人さんは寒さに強いので、気温が下がって寒くなっても掛け布団は薄手。僕は温かいヴィス君に包まれて、もこもこの中でお話をすることにした。極上の毛布だよ。
ぬくぬくのヴィス君に包まれると、身体の力が緩んでいくのがわかる。ヴィス君の体温や心臓の音、ふわふわの毛、匂いが心地いい。
安心するヴィス君に包まれていると、僕の奥でむくむくと膨らんでいた不安がポロリと口から出てきた。
「……毒団子さ、僕全然毒に詳しくないけど、うまく出来るかな……?」
道中に思いついた毒団子は、ヴィス君を始め、ドンドさんもパピジェットさんも賛成してくれた。
だからあの時、脅威が去る一手になる気がして嬉しくなったけど、ヴィス君とラインさんが毒物を集めて、僕に説明してくれた時に気づいたんだ。自分は全然毒について知識がないって。
「僕が知ってることって料理以外は本当にちょっとなんだ。毒なんて知らないし、この世界についても来て一年も経ってないから殆ど知らないし。似たバッタの特性を知っていたのも偶然……。だからこうやって僕の意見が賛成されて嬉しいんだけど、今更責任を感じてきて、怖くなってきちゃった。言い出しっぺなのにこんなこと言ったら、ヴィス君も不安になるから、言わないほうがいいんだろうけど……このまま突き進んでいいのかな?」
口にしたら不安は消えていくかなと思ったけど、露呈したことで中から溢れるように不安が出てきた。
僕が言ったことでみんなが動いてる。万が一違ったら、島に悪い影響があったらと、悪い方向に考えればどんどん思考はそっちに引っ張られていく。
歩いていたり、料理をしている時はこの不安はなりを潜めてくれるのに、こうやって気が緩んだ時に嫌な気持ちは頭を出してくるんだ。
「……他に方法ないのかな?今のままでいい?……不安だよ」
ギュッとヴィス君の胸の毛を握る。するとぽんぽんと優しい手が頭に触れた。
「ルイ。不安はみんな一緒だ。知らないことだらけなんだから。でもな、ルイがそんな責任感じることはこれっぽっちもないからな?」
ヴィス君が安心させようとしてくれるのがわかる。
「で、でも……」
「でももへちまもないぞ?」
「僕の言ったことのせいで、もしみんなにとって悪いことになったら……」
「大丈夫だって!」
「わぁ!」
ヴィス君は急に僕の髪をぐちゃぐちゃと掻き乱した。突拍子のない行動にびっくりしていると、今度は両手で顔を挟まれる。肉球によるサンドだ。
「ルイが言ったことで今回の旅が決まったように見えるが、ルイがあそこで発言してもしなくても俺たちはバッタ駆除のために動いていたよ?毒団子も誰かしら思い付いたと思う。だからルイの発言で方向性が決まったとしても、受け入れたのは俺たち。ルイに従ってるなんて誰も思ってないからそんな気負いすんな」
「ヴィス君……」
ヴィス君はニカっと笑う。そして言葉を続けてくれた。
「サールさんのように薬に詳しい獣人は、結構毒にも詳しい。薬と毒は表裏一体だからな。この先は蜘蛛の場所を把握していないから、群れを見つけたら場所を聞いて見つけに行くことになる。結構群れはあるだろうから、毒に詳しい人にバッタに効きそうな毒を聞いたらいいんじゃないか?そういえばゴングさんにもバッタの説明してくれただろ?ここの群れの人何人かついてきてくれることになったぞ」
「ゴングさん……?」
「ルイが野菜の串焼きあげたゴリラ獣人だよ」
「ああ、あの獣人さん」
「ルイの話を聞いて、協力しようと答えを出してくれてたんだ。うちのオヤジに着いて行くって話してたの遠くで聞いた」
「そうなんだ……」
そんなことになっているとは知らなかった。耳がいいってすごいな。バッタに関しては協力してくれる獣人さんが沢山いてくれたらすごく心強い。
「ルイがさ、責任感じてしまってキツいなら、別に無理はしなくていいぞ?蜘蛛だけに頼ろうと思ってたけど、よくよく考えたら沢山の人に協力してもらったほうがいいよな。これから先に寄る群れでは、俺も協力を仰いでいくよ。オヤジ達にもそう言おうぜ」
「う、うん」
「今まで群れで何かをするって発想がなかったから考えつかなかった。そうだよな、これはこの島に住んでるみんなの問題だもんな。失念してたよ。もっと獣人みんなを巻き込もうぜ」
「そうだね。僕も、怖いけどできることはしたいよ」
「じゃあ今からオヤジのところに行って色んな群れを巻き込むことを話そう」
薄い包布を拝借して、僕はオバケのような格好で、ヴィス君と一緒にドンドさんの部屋にお邪魔した。
ドンドさんの部屋にはパピジェットさん、ラインさん、バイオレットさん、そしてゴングさんが集まっていた。
「あら、あなた達まだ起きていたの?」
バイオレットさんが声をかけてくれる。
「ああ。ルイと今後のことを話してたら、バッタはこの島にいる獣人みんな巻き込んだがいいんじゃねぇかって思って伝えにきたんだよ」
ヴィス君が簡潔に伝えたい情報を伝えてくれた。そしてそれについては、ここにいる大人達ですでに話し合いはついたらしい。パピジェットさんが説明してくれる。
「その方向で協力を頼んでいくつもりだ。バッタは『無の地』を越えた先の森にいる。二手に分かれて色んな群れに声をかけ、無の地の前にあるオアシスがなくなる手前で待ち合わせる。他の群れに南から逃げてきた者がいたら、バッタの知らない情報も新たに知ることもできるだろう。そして毒に詳しいものがいたら、毒団子作りに助力してもらう。俺たち獣人と蜘蛛が塊で移動していたら、肉食恐竜も易々と手は出してこないだろうから、小型獣人を中央にに守りながら南下していけばいい」
僕たちよりも更に詳しく考えてくれていた。僕はそのことにホッと重荷が取れて行くのを感じる。
「な?大丈夫だったろ?」
ヴィス君がパチンとウインクをした。うん、大丈夫だった。ありがとうヴィス君。
それからは、ドンドさん率いる熊獣人さんグループとゴリラ獣人さんグループは、それぞれ南西と南東に分かれて群れと蜘蛛に声をかけていくことになった。
過去に群れ同士が協力して行動したことはなく、今回が初めての行動。どういう反応が群れで見られるかわからないけれど、きっと協力してくれるだろうと話は締めくくられた。
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