俺の婚約者は小さな王子さま?!

大和 柊霞

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第一章

4-1 自分にできること

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 玄関へ着いたときにはすでに馬車から客人が降りたところだった。
 ダリアやカイの予想通り、その客人はアルミスだ。傍には、見舞いの際にアルミスの部屋まで案内をしてくれた従者もいる。
 二人の格好は以前会ったときよりも幾分か質素で、少し着飾った平民と変わらない身なりをしていた。
 一番に出迎えに行ったダリアは先に彼らに挨拶をしている。
 するとアルはすぐにカイに気づき、ダリアの横からひょいっと顔を出すと無邪気な笑顔を見せた。
 カイは前回の見舞いのこともあり、気まずさから思わず目を逸らした。
 やってしまった。さすがにこれは良くない。
 ところがアルミスはそんなカイを気にもせず声をかけてきた。
  
「カイ!お久しぶりですね。突然来ちゃってすみません」
「……お久しぶりです、様。その格好といい、今日は何の用ですか?」
  
 返事をしない理由にもいかず、かといってどんな顔を向けていいのかも分からなくなり、口から出た言葉は自分が思うよりも数倍素っ気なくなってしまった。
 そんなカイの態度に、ダリアもため息を隠せない。
 しかし彼はそんなカイの様子を気にも留めず、続けて話をした。
  
「カイ、ピクニックに行きましょう」
「……はい?」
「ピクニックですよ、ピクニック」
  
 突然の提案に、今度は別の意味でどう反応すれば良いのか分からなくなった。
 なぜピクニックなのか、あの日のことはなんとも思っていないのか、そもそも熱で忘れているのか、カイは様々な疑問が頭をよぎり固まることしかできない。
 しかしそんなカイをよそに、ダリアは「良いですね!カイ様も予定がありませんので」と余計なことを言い始めた。カイがその口を閉ざそうとしたが、さらにアルの隣に居た従者も「天気もいいですからね」と付け加える。
 どうやら行くという選択肢以外残されていないらしい。
 こうしてカイは、カイを除く者たちによってピクニックへと向かうことが決まった。
 いつもは街へ一人で行くことが多いが今回は王子もいるということで、護衛目的としてダリアもカイに同行する。
 彼女が準備をするため一度その場を離れると、アルの従者が改めて自己紹介をした。
  
「改めまして、アルミス様にお仕えしておりますリアムと申します。前回は主人の許可をいただいておりませんでしたので名前をお伝え出来ず大変失礼いたしました」
「こちらこそ、改めてよろしくお願いします」
  
 お互いに丁寧にあいさつを交わした。
 リアムの美しい所作にはさすがは王子に仕える従者と言ったところだ。
 それが終わるとリアムは一歩前へ、カイとの距離を詰めると耳元に手をかざし、アルには聞こえない声で囁いた。
  
「思うところはあるかと思いますが、本日はカイ様に楽しんでいただくべくアルミス様が企画されました。ですので、あまり深く考えずに気を楽にしていただければ幸いです」
  
 そうして耳元から離れると、アルの一歩後ろへ下がり優しい眼差しをアルに向けた。アル本人は気がついていないようだが、その様子からはとても王子を大切に思っていることが分かる。
  
「アル様がリアムさんに俺の話をたくさんしていらっしゃる理由がなんとなく分かります。リアムさんはアル様のことを本当に想っていらっしゃるのですね」
  
 思ったことを素直に伝えるとリアムは照れくさそうに笑った。
 それを見ていたアルはなぜか一瞬機嫌を悪そうにしたが、カイがチラッと見るとすぐに何事もなかったかのように見せた。
 そうしてしばらくするとダリアの支度も整い、さっそく公爵邸を出発した。
 馬車に乗り込むと「ピクニックにピッタリの食べ物を用意しましょう!」というアルの提案により、まずは街へと向かう。今日の服装は、街にお忍びで行くためのものだったようだ。
 道中、アルは手紙が届かなかった間にあった最近の出来事や天気の話など、ごく普通の話をした。
  
「カイに私の風邪がうつっていないか心配していたんです」
「リアムさんに用意していただいた口元隠しの布のおかげで大丈夫でしたよ」
「それならよかった。今日は楽しみましょうね。それから一番初めに送った手紙の件もちゃんとお伝えします」
  
 初めにもらった手紙はどんな内容だったか。
 カイが思い出す間もなくダリアが答えた。

「一目惚れをした理由ですよね」
  
 そういえばそうだ。
 だが、今となってはそんな理由を聞いたところでどうにもならない気がした。
 今日こそしっかり婚約を断ろう。あの熱に浮かされた彼に放った言葉は真実なのだから。
 馬車に揺られながらカイは改めて決意した。



 街へ着くと、さっそく四人は市場へと向かった。
 今日は休日ということもあり、大勢の人で賑わっている。

「カイ様!今日はどうしてこちらへ?」

 果物屋の前を通ったところで店番の女性に声をかけられた。

「今日はお昼を買いに」
「そうだったんですね!あれ、その子は……」
「ああ、この子は知り合いの子で」

 さすがに王子とは言えないため、適当に誤魔化す。
 父親の友人の子供なら「知り合いの子」で嘘ではない。

「アルって言います。カイとは知り合いですか?」
「アルくん、初めまして。そうなのよ、よく顔を見せて、うちのチビたちとも遊んでくださるのよ」

 そういう彼女は嬉しそうだった。

「そうなんですね!さすが子供にも大人気ですね」
「あらあら、あなたも子供でしょ?」
「そうです。なので、私もカイのことが大好きなんですよ」

 恥ずかしげもなく言うアルに、カイは「好きの意味が違うでしょ」と思ったが口にはしなかった。

「じゃあ、今日は二人と後ろのもう二人でランチかしら?」
「はい!でも、後ろのふたりはカイのお付なので実際はデートです」
「まぁ!」

 アルはカイの脇に腕を回すとぴったりとくっつき、女性に見せびらかすようにする。
 彼女はきゃーといった様子で両手を口元に当てた。
 カイは公共の場での咄嗟の出来事に恥ずかしさで耳が熱くなるのを感じた。不意打ちでは反論すらできない。

「それじゃあサービスしなくちゃね」

 彼女は袋にオレンジやリンゴを詰めると、それをカイに渡してきた。

「お代は……」
「要りませんよ。ふたりで楽しんでください」

 そう言うと彼女は再び店番へと戻った。
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